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6.誘拐

 もう、あまり顔も思い出せない。

 当時は、意識も朧気で、全体に霞がかっているから余計だ。

 声も、布を被ったようにくぐもって鮮明ではない。

 もう一度、もう一度会いたい。


 唯一正常に動く鼻で脳に刻み付けたあの人の匂い。

 これだけが、手掛かり。


 会いたい。













「レビン!外の世界はなんて広いの!私は、なんて狭い世界で生きてきたのかしら」



 そう言った私は、焼き鳥を頬張る。


「実は、むぐ獣人のんぐぐ方が、発展してもぐもぐしてるんじゃないの?」

「あーあー、落ち着けアーシュ。串肉は逃げない。ゆっくり食え」


 公爵令嬢も影もない。日本で食べた焼き鳥を見つけて、狂喜乱舞!ハツとカシラが好きだったの!と、小さな店にウキウキしながら並ぶ姿は、王太子の元婚約者だったと言われても誰も信じないだろう……。

 貴族から離れると、今世17年よりも前世45年が強く出てる。 

 

「うんごめん。食べながら話しちゃ駄目よね。ちょっと興奮しちゃった。人間の国にはない食糧が、沢山あるんだもの。どうして?」

「獣人は、強いからな」

「そか。人間は本当に損しているわ……馬鹿よね。言葉が通じるのに、話そうともしない。頑固すぎて、酢で長時間煮込みたくなるわ」

「怖いな。洗剤と煮るのか」

「ふふっ。ここでは、洗剤が主要だけど、あれ調味料よ」

「っ?!前の記憶か?」

「そう」

「余程、皆腹減ってたのか」

「くっ、ふはっはははっ。た、確かに、貪欲ではあるわね。あらゆる方面に」

「また、聞いても良いか?」

「前の記憶?良いわよ。今度料理作ってあげる」

「洗剤料理は、覚悟がいるから知らせてくれ」


 笑いながら歩く私を見て、レビンは眩しそうに目を細める。こうやって、ちょっとずつ私を引き出して、気味悪く思う事なく聞いてくれる存在は、とても心穏やかになる。お兄さまは、認めないけど。


 今、西の方角へ進み、長閑な村に来ている。高齢の獣人が多く、若者は冒険・出稼ぎ等でいない。

 獣頭のお爺お婆が、寄ってきなよ旅人さんと声を掛けてくれ、お茶請けに肉が出た。お茶請けにガッツリ肉!お店も肉!流石、獣人。

 因みに、西に来たのは西方白虎にあやかって。

 焼き鳥に出会えたので、正解だと思う。


「ここら辺の山はどうなの?」

「駄目だ。まだ人の国近い」


 自称お兄さまのレビンは、私の安住の地の選定基準がとても高い。


「魔物は勿論、獣人、人間も来れない、一年中花が咲いて、作物がよく育つ肥沃の土地で、更に川か湖の近くで、災害もない所だ」


 ……どこの桃源郷だろう?そこは。花必要?


 にこにこしながら話す獣人は、獣頭のせいか鼻に皺を寄せた牙剥き出しの、実に凶悪な顔でうっとり語る。あれ、笑顔なんだろうな。


「一生見つかる気がしない」

「大丈夫だ!一緒に探すから」


 その自信はどこから?

 ふっと、ため息とも笑いともつかぬ息を吐き、私は、空を見る。

 あ、飛行機。飛行機雲でたら、翌日雨って聞いた事あるなぁ……あ?飛行機?!

 よく見ると、セスナ機より少し大きめの物体が、直滑降で落ちてくる。隣から、やべぇと不吉な言葉が聞こえる。やべぇって何さ!やべぇって!

 落ちてきた物体は、地面にぶつかる寸前で羽を広げ、強い風が地表を撫でる。

 飛ばされそうになるのをレビンが防いでくれる。

 ホワイトドラゴンだ。稀少種であるドラゴンが、何故こんな人の国の近くに?!


「あ~、アーシュ?必ず迎えに行くから」

「は?」


 嫌な予感しかしないんだけど?

 白いドラゴンは、姿がぶれ人身へ変わる。女神がいた。白い肌に銀の髪、白いシンプルなドレスを身に付けて、目を引く青い瞳。優しそうなたれ目で、こちらを見て、口を開く、


「レビン!てんめぇぇ!、殺すぞ!」


 へ?

 脳が理解するのに、少々時間を必要とした。

 レビンが、女神に歩み寄り話し掛ける。

 

「落ち着け。今日は子供らどうした?」


 女神は、にやりと笑ったのを見た途端、私の身体に衝撃が来て目を瞑る。すぐ開けたが、そこは空だった。下を向くと、レビンは既にライターくらいの大きさで、確認してる間もどんどん離れていく。


「りぇ、れびんー!」


 理解不能な状況で、声が震える。

 なのに、あの白虎は手を振っている?!


「あんた!助けなさいよー!」

「……神様」

「そうよ!神様でしょ、う?」


 やっと自分を空に連れてきた何かを認識する。

 振り返ると、黒いドラゴンの腕に抱えられていた。

 

「神様、一緒に来て」

「え?ち、ちょ?は?」


 グンと、速度が速まり凄まじい重力がかかり声が出せない。かの有名なジェットコースターに乗って、もう二度と乗らないからと泣いた記憶が蘇る。

 あ、これ走馬灯?プツンと、意識が途切れる。



 




 意識が浮上する。

 目を開ける前に、神様ぁ神様がーと聞こえる。神様?そーっと目を開けると、私が寝かされてるベッドらしき回りに、角が生えたカラフルな色とりどりの頭が囲んでいる。皆、一様に泣いている。

 ……なんか、縁起でもない構図だなぁ。


「あ!神様!」

「神様の目覚めた!」


 六人の頭が、がばぁっと上がりこちらを見る。

 ひぃっ!

 口々に、神様と言いながら、ベッドを登り抱きついてくる。

 

「おも、い。つぶれる」

「あっ、ごめんね?神様」

「痛いところない?」


 今度は、口々に謝ってくる。

 ざっと見渡すと、ドーム型の広い部屋に最低限の家具。キングサイズ程のベッド。その上に私が横になっている。

 涙で濡れた顔をしてこちらを見てくる子達は、全員私と同じくらいの年の見目麗しい子達。

 赤、青、緑、黒、黄、白と、カラフル頭で、皆耳の上に角が生えている。綺麗なのは分かるが、男か女か不明。変態的な気がするけど、抱き付かれた時柔らかかったから、女の子かなぁ?


「え、えぇと?ここはどこで、どちら様で、どんな状況なのでしょう?」

「が、がみざまー」

「あいたがっだー」


 余計泣いた?!誰か、私に説明を下さい。

 保育園の保母さんの気分で、6人をあやしながら考える。

 多分、この子達は竜人だ。この角、人の国で見た事がある。人身は非常に美しく、エルフ並みの長寿を誇る。環境に対応するため身体が先に育ち、精神はゆっくり育つ。つまり……中身幼稚園児の身体は大人。私と逆だ。

 だからこそ、ある方面の奴隷として人の国では高額で取引されていた。私が檻から出した子達なのかな?


 思い出して少し暗くなっていると、赤の子がやっと話してくる。


「私達、神様に助けて貰ったの。おっきなお家に連れてってくれて、神様がたくさん優しくしてくれて、お家に帰れたの。神様にずーっと会いたかったの」

「……そっか。今は?ご飯ちゃんと食べて元気にしてる?お礼を言うために、ここに連れてきてくれたのかな?」

「元気。ご飯いっぱい食べてる。

 ううん。ままたちが会いたいって、お礼言いたいなぁって言うから、来てもらったの。でも、神様目覚まさなくてわた、し、ふぇ」


 私を連れてきた黒い子が、話ながら泣き始め、他の子も釣られて泣く泣く。もう、どうしようこの状況。カオス!この状況になるから、あの白虎は手振ってたのか……許すまじ!ママ達、早く来て!

 あやしながら、どうするか考えていると、突然ドアが開く。ママきた!喜んで、そちらを見ると……いかついオッサンが数人と、灰色髪の子が立っていた。


 え?ママン?ママンなの?

  

「あ!ぱぱー!」

「あぁ、連れて来てくれたんだね。良い子だ。よくやった」

「ぱぱ、ままは?」

「ママ達は、宴の準備をしている。手伝っておいで。待ってるから」

「うん!神様また後でね!一緒にご飯たべようね」


 パパだった事にホッとしてから顔を見て、また緊張する。

 子供達は、手伝いをしに駆けて行く。灰色の子はチラチラこちらを見ながら。

 パパ達3人に囲まれている状況となり、何故か友好的とは反対の雰囲気が場を満たす。


「貴女が、アースですか?」

「そう名乗ってた時もあります」

「真名は?」

「……」

「おい!」

「まぁ、待て。先に場所を変えるぞ。貴女にも来てもらう」


 威圧的に言い放ち、赤い髪の男が私へ手を伸ばす。人の身で抵抗しても無駄だろうと思い、大人しく掴まる。


「いい心がけだ」


 そして私は、またジェットコースターを味わって気を失う。本当に、嫌な予感しかしない。自称お兄さまよ、これも計算の内か?





お読み頂きありがとうございます。

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