4.レビン語る。
おどおどした態度の小僧が、俺達の檻に近付いてくる。さっきの子は?と吐き、頭に血が昇る。
手を伸ばし髪を掴み、ガシャンと、乱暴に檻まで引き寄せ、言う。
「おい、糞ガキ。ついさっき、あの子は、拷問にあって死んだよ。子供だからってこんな所に来て、面白おかしく見物か?
鞭で叩かれ、切り刻まれ、死んでいく姿を見物に来たのかっ?!笑いに来たのかっ?!お前も死ぬか?あぁ?!」
「しんだ……?ぐっ。わた、ぼ、僕はまだ死ねない。やれる事がある。……あなた達を解放する」
およそ狂人でも、口にしない言葉を3歳の人間の子供が言った。
俺はレビン。不吉色の目を持つ白虎の獣人だ。
俺が、アーシュに会ったのは、奴隷が収容される檻の前で、わざわざ人間が、獣人の子を拷問をかけ、殺した後だった。
見ているしか出来なかった。
全身の血が吹き出る程の、怒りが支配する。
人間共、お前達はやり過ぎた。俺の命をかけ必ず滅してやろうと思った。
そんな時に出てきたら、まぁちょっと乱暴になるだろ?人間の小僧が来たら、脅したくなるだろ?
とにかく、3歳のガキが、意外とハッキリ狂言かますから、ちょっと遠くにぶん投げてやった。ヨロヨロしながら起き上がって、また近付いてくる。まぁ不気味だったな。アンデッドかと思ったぜ。
それがさぁ、小石しか持てねぇのに、それ持って檻の鍵殴ってくるんだよ。
俺達は、ゾッとしてなぁ。
だってよ、擦りむいて頭から血出しながら、顔ぐちゃぐちゃに泣いて、小石を鍵にぶつけてくるんだぜ?肌も柔いから、直ぐ手から血出してな。
3歳の子供に俺達、寒気がしたよ。
握力が無くなったのか、石も持てなくなって、ごめんなさい、今日は無理ですって、泣きながらヨロヨロ戻って行くんだよ。
俺達、幻術でもかけられたかと混乱したな!
翌日さ、また現れたんだよ!
鍵開けるだけじゃ駄目だから、もう少し待っててってよ!で、初めて入った調理室に、どこにあるか分からなくて、手の届く所にこれしかなかったって、人参1本持ってきてなぁ。馬かよって言ったら、傷薬ぶん投げて、泣いて謝りながら帰って行きやがった。
そんで!また次の日よ!
もう俺達は、変な死神か、幻術かってんで、全員死ぬんだって絶望したね。
フーフー言いながら、なんと檻の鍵壊したんだよ!魔法で!その後、魔力枯渇起こして倒れてたわ。
でも、俺ら腕輪あるじゃん?奴隷の。
結局、その屋敷の敷地外行けないからよ、そのガキ、屋敷の玄関に置いて、また檻に戻ったんだよ。
ビックリしたことに、小僧じゃなくて女の子だった時は、仲間にボコられそうになったわ。
知らねーもん!仕方ないじゃん。
翌日、一人仲間が死んでな。俺達暗くなってた所に、また現れたんだ!
一人足りないのに気付いて、知って、土下座してきたんだよ。人間がごめんなさいってさ。
俺達、微妙な気分だよ。だって、3歳だぞ?思わず、こっちが謝りそうになったわ……。
で、今度は、回復薬持って、飲みながら鬼気迫る顔で、鍵と腕輪壊すんだよ。俺ら13人分終わって、15本くらい飲んでたかな。腹ぽっこりよ。
でも、また魔力枯渇でぶっ倒れたから、匂いを辿って、家に連れて行こうとしたら、これがなんと、公爵家!!
俺達、ポッカーンだよ!
脱走した俺らは、話し合ったね。
人間は、獣人を本能で恐れる、俺らを忌避すべき存在と認識してるって。
じゃあ、あれは、人間じゃない。
公爵家の庭に住み着いてる、ドワーフ系統の新種の妖精だと。いや、コロコロしてたから。腹ぽっこりだし。一番近いのドワーフだったんだよ。
俺らは、脱走した後潜伏して、他の奴隷助けるのに動いてたんだけど、聞こえるんだ。小さな人間の姿した天使が奴隷を助けるって。謝りながら、泣きながら。で、助けると魔力枯渇起こして倒れる。腹ぽっこりで。
名は、アースで、夢でお告げを聞いたとか言って、助けにくるんだと。特に、子供が捕らえられてる所に。天使は言い過ぎだろ。
俺達の頭に、ピーンと来たね!あのドワーフもどきだ!って。ふと見つけた時、交代でさ、ドワーフもどき監視したんだよ。やっぱり、公爵家なんだよ。
よく見てると、本当に、公爵令嬢だってんで、人間のなんの陰謀かと思って調べまくったよ……。
何も出てこない出やんの。
不思議で不思議で仕方なかったなぁ。
そんな事が、ずっと続くんだよ。少しずつ少しずつ。今日は一人、今日は三人てな。
奴隷はよ、労働、玩具、性玩具、兵士、まぁ色々やらされて、使い捨てなんだよ。特に、子供の傷は酷いもんだ。
体力も無いから、そう簡単に治癒魔法使うわけにいかないんだ。すると、ドワーフもどきが、連れて帰るんだよ。公爵の別邸に!俺ら苦笑だよ。
名を隠し、姿を変えて、素性知られないようにしてるのに……連れてくの公爵別邸だぜ?詰めが甘過ぎだよ。ま、直ぐ匂いで分かるけどさ。
連れてかれた子らも、僕、一度死んで、魂の浄化受けた!って自慢気に話してたよ。アッハッハッ!
その子がよ。神様って綺麗なひとじゃなくて、ちんまりした、お腹ぽっこりのお姿なんだよ!ってさぁ、俺ら、腹抱えて笑ったね。
ドワーフもどきが、6歳になった頃かな。
俺が、潜入してた所に現れたんだよ。
子供がいるから、解放に来たんだろ。
気配を断って魔法がえらく上達してな。変装も上手くなってて、脱走しても直ぐ気付かれないよう、幻術まで習得しやがった。
血だらけの生肉も持ってきてて、檻の中で何かに喰われたように見せる、そんな小細工まで覚えてよ。
あれで6歳……末恐ろしいな。
いや、良くねぇよ!俺ら、獣人共食いするって、噂流れたんだから!
ちょうど来る直前に、獣人の子が死んだんだ。何をしても、ダメ。本当に魂の浄化されに、行っちまってよ。親も、捕まるとき殺されて、その子の体を預ける奴もいねぇ。せめて外にって、外壁の外に弔う事になったんだ。
で、ドワーフもどき……じゃなくて、お腹ぽっこりちんまり神に会いたがってたから、お前も来いって、半ば強制的に連れてった。弔った後、二人で暗くなってな。
そこで話したんだ。そこで言ったんだ。
「僕は、奴隷解放する!!」
ドワーフもどきでも、ちんまり神でもない。
救いようが無いくらい馬鹿な人間の子供が、そこに居たんだ。
俺ぁ、魂ごと持ってかれたね。
「違う!ろりこんじゃねぇ!
魂に惚れる、男が漢に惚れるって事だ!
神聖なものだ!」
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