3.安住の地を
ほぼ会話。約98%(適当)は会話。
現在、虎の獣人にしがみつかれ、10人以上の獣人に囲まれつつある。
えぇ?どうしろと言うの?
「ちょっと、オッサン!何か嫌な予感しかしない!じりじり近付いて来てるから!」
「うっうぅ、だって、お前、お前よぉ」
「何でもいいから、立ち直ってこの状況説明して!」
「グスン。コイツら、アーシュに会いたがってた奴等だ。とりあえず、拐う気のない奴だけ集まったんだ」
とりあえず?拐う?言葉全て引っ掛かるわ!
「な、なんでここに居るの?」
「夜の草原に行くから、待ってろっつったのに、アーシュが危ねぇからって付いてきた」
「何で、私が外に出たの知ってるのよ?!」
「あ、俺が知らせた」
「おまえのせいかぁぁーー!」
ドゴォ!
手が塞がれているため、虎の眉間に頭突きした。
「ぐぁ!」
「い゛っ!」
そして二人で額押さえて転げ回る。石頭め!
「アース様!」
「えっ?」
「アース様、あ、あぁ、なんという!全く変わりない。懐かしやアース様!」
いや、変わったよね?成長したよね?身長とか、色んなところが!
計12人の獣人達は、私の方に走ってきて、いきなり膝をついた。え?
「お会いしたかった!せめて、一言だけでもお礼をと、ずっと思っておりました!」
「あの時と全く変わらず!何でも婚約破棄されたとか!あの王子は、救いがたい!」
「そうです!そもそも、あの王子にあなたは勿体ない!」
「気を落とさず。まだ熟れていない部分を好む奴だっていますから!」
ピキ
「そうですよ!デカけりゃ良いってもんじゃ無いです!」
「王子が、いくらデカイ方に行ったからと言って、あなたの魅力は、そんなもの等関係ありません!」
ビキ
「そうですよ!あなたは、その高潔な精神が魅力なんです!確かに熟れている部分は、少ないですが」
「そうそう!」
ビキビキ
よぉし。貴様ら……覚悟はいいな?
「お、おい!やめろ!その顔、凶悪犯だ。悪気は無いんだ。悪気は」
「あ゛?悪気無ければ、許されると思うな?貴様ら全員説教だ!」
夜の、魔物が出る幼精の草原で、私の説教が、正座してぷるぷるしている獣人達に炸裂する。
途中、ぐわぁ!とか、危ねぇ!俺、死んぢゃう!とか、魔物らしきものと戦うオッサンの声が聞こえたが、気のせいだ。
「……ふぅ。分かりましたか?皆さん。決して、婚約破棄など、毛ほども気にならないのですよ?」
「は、はい」
「では、足を解いて構いません」
正座を崩した獣人達は、ぐぉぉとか、あぁぁ!とか言ってるけど、知らん。
振り返ると、オッサンが、ゼーゼー言いながら倒れていた。近くに寄り、話し掛ける。
「オッサン、何で知らせたの?」
「あー、えー?何がー?」
「あの人達よ。会いたくなかったのに。しかも、こんな人の国に近い場所に。我を忘れて説教したけどさ」
「あー、どうしてもってな」
「どうもこうもないよ。ほら、皆が正座から立ち直ったら、場所移すよ」
「……ふふ、そうだな」
何か、ちょっといい顔で返答したオッサン……?
目眩吐き気出現中。
お前、遅いからと、オッサンの背におぶさり、皆で全力失踪。ガックンガックンビュービューで、私はボロボロになった。
木と木を飛び移るってさ、あれ反則だよ。
皆オロオロしており、一番オッサンが狼狽えている。何か、かわいい。
「だ、大丈夫か?」
「なん、とか。ふぅーっ。よし!復活!さて皆さん、わざわざ私に、会いに来てくれたんですか?」
「ええ!貴女様が、人の国を出ると聞いて、いてもたってもおられず…」
「私もです!」
口々に皆、心配したとか会いたかったと、言ってくれる。だが、
「私に会いに来ては駄目です。あなた方を手助けした事が露見したら、以前の屋敷にいた者達に、迷惑がかかります。皆、やっと次の就職を決めたの。以前、あなた方を助けるのに、手を貸してくれた者達もいるんです。
私の事は……いえ、囚われていた事など忘れて、これからの人生を謳歌してください。もう、あんな人の国に近い場所に来ては、決していけません。
私も逃げ出すように、出てきた身。この先人間の国が、どう出るか分かりません。
私と接触しないよう、まだ会いたい人がいれば、伝えて下さい」
「おい、それは」
「本当の事よ。あの元国で、魔力の高い貴族たちが、一気に居なくなった。もしかしたら、血筋と魔力量だけは高い私を探し出し、どこかに嫁がされるかもしれない。
外に出たと分かれば、そんなに追ってこないとは思うけど、万が一があるわ」
お父様だって、思いもよらぬところで死んだ。何もないとは、言い切れない。
私に会って、また嫌な思いもして欲しくない。
「お前、何でそんなに……」
「オッサンも例外じゃないのよ?本当は、パパッと色々教えてもらいたかったけど、ここで別れた方がいいわ。とりあえず、外に出られたし」
「……」
皆、黙りこむ。
「でも、会いに来てくれて、ありがとう。凄く嬉しいです。元気にしている姿を見れて、本当に嬉しい。凄く、凄く嬉しい。ありがとう。」
「…っ」
皆、何か堪えているような、そんな雰囲気。
せっかく会いに来たのに、拒絶されたら怒りもするか…。ぼんやりそんな事を思う。
一人の犬(?)獣人が歩み出る。
「アース様、私達が居ることで、貴女が思い悩むのであれば、今は去りましょう。ですが私達は、貴女を決して忘れない。必ず恩を受け取って頂きます。
お会いできて……無事な姿を目に出来て、本当に良かった」
え?今は?え?強制?
「力が必要な時は、必ず貴女の元に。おい、レビン頼んだぞ。」
「ああ。任せろ」
え?任せろ?
一人、蚊帳の外の気分。おかしいな…私の言葉が何一つ届いてない気がする。
皆、良い笑顔……と言っても獣頭だから、歯剥き出しでやや怖い顔で、一人ずつお礼を言ってくる。
「それでは、また!」
また?
颯爽と、12人の獣人は去って行きました。
残される私とオッサン。
「オッサンは?オッサンも行った方が良いよ」
「あー、俺なぁ、仲間に頼まれちったしなぁ。破ると八つ裂きにされるからよ」
「八つ裂き?!」
「冗談だ。アーシュ、俺はお前の元を離れない。お前が、幸せになるのを見届けるんだ。そう決めた。俺を連れてけ。役に立つぞ。何でも出来る!」
「…生クリームたっぷりのケーキ作って」
「え゛っ!そ、それは……時間をくれ」
「くっ、ふっくくく。ありがたいけど、遠慮しとくよ。しかも何?その見届けるって」
男なら、俺が幸せにする!とか言えんのかね?
無いけど。
「そうしたいから、そうする。もう決めた。逃げても無駄だぞ?お前遅いから、直ぐ追いつくし」
「あー。う~ん。……もしかしてさ、聞こえてた?草原で言ってた事」
「…」
「ねぇ、オッサンや。気にしないでよ。昔馴染みの情みたいなので、面倒を背負う必要ないよ。
聞こえてたならさ、私には、余計な知識がいっぱいあるの分かるでしょ?何とか、一人でやっていけるからさ」
「違う、そんなんじゃない。……俺は、もうずっと前からお前を見てきた。何で、あんなに追い詰められるように生きるのか、ずっと不思議だった。さっきの草原の言葉で、それが少し分かっただけだ」
「…」
「俺はよ、馬鹿だから、うまい事言えんのだが…たださ、ずっと思ってた。アースが、アーシュが笑えるように、幸せになるようにって。思うだけだったけど。
それがさぁ、計算外だったのが俺の紫の目、お前ジッと見てきただろ?あん時、ビリッと来たんだ」
え?やだ何告白?
「それで思った。あ、コイツ、馬鹿で詰めが甘くて自虐的で世間知らずだから、自分で幸せも、見つけらんないなって。
独りんなっちまった上に、男もねぇし、胸もねぇし。このままじゃ、独りでただのババアになるだけだって。」
……あ゛ぁ?
「だから手伝おうって。アーシュ、お前が幸せになったら、離れてやるよ。それまで俺は、お前の……お兄様になってやる。俺、お前に4回も助けられたしな!」
おにい……おい。4回だっけ?
「俺は、絶対アーシュの側を離れない。悩むだけ無駄だぞ」
「いやでもさ、私本当にやりたいことが、無いんだよね…山にでもひっそり暮らしたいのも、事実だしさ。そんなのに付き合わせるの、悪いじゃない?」
「よし!分かった!住みたい山を探しに行こう」
「はあ?」
「そこら辺のじゃ駄目だ。直ぐ獣人に捕まって、囲われるぞ?」
「その囲われるってのはさ…」
「本当だ。お前を囲うために、ずっと準備してる可笑しな奴もいる」
「えっ?本気で?」
「本気で」
「怖い!一体なんでそんな事になってるんだろう?恨まれてるのかな」
「単に、欲しいんじゃないか?」
恋愛的な?!熱烈アピール?!
「獣人怖がらない珍人として」
…………。
「さて、じゃあどこら辺が良いかな?」
「本当に?本気で付いてくるのね?オッサン」
「オッサン言うな!あぁ、付いてくぞ」
「……仕方ない。安住の地を求めて行きますか!」
「おう、やっと諦めたか」
「しつこいから。これから宜しく、レビン」
「?!よ、宜しくな!!」
その直後のレビン
(名前呼んでもらえた!!)
お読み頂きありがとうございます。