表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

28.救出に向けて

 胸で揺れる、肌に触れる、紫水晶の原石。

 美しく加工されることもなく、剥き出しの飾り気もない原石。

 しかも、この人間の世界では、忌避色。

 今の私のお守り。

 そのお守りの効力を最大限必要な時が来た。


 今日も、私に容赦のない声が届く。


「駄目だ! 逃げるな! 立ち向かえ!」


 立ち向かえ? あの全力で食べに来てる熊に?


「大丈夫だ! スピードはあるんだ! それを生かせ! 怪我しても治癒をかけられるだろう?」


 うんう……ん? だろう? 待って? 

 私が私にかけるのだね? それは。


 現在、鬼エルフ二人より修行をしている。

 私は過去ちょっと無茶したお陰で、人より魔力が多い。だが、治癒や変装等細かい操作は得意だが、一撃必殺! といった攻撃の大技は無い。

 得意な風魔法を強化しようとなって、連日磨いているが……如何せん『傷付ける』事に慣れていない。


 分かってる。分かっているんだよ。

 魔物相手に、躊躇してはいけないと! 

 さぁ食うぞと、涎ダラダラ、目は血走り、鼻息荒く角付き熊がこちらに向かっていたら、攻撃しなければならないのは分かってるんだけーどー!

 

「ひぃぃぃぃっ!」


 なるべく小さい傷で即死を狙い、首か心臓を狙う。風の小さな刃を飛ばす。

 躊躇して殺傷能力低くなる。

 ギャオンッと聞こえる。

 あぁ、ごめんとなる。

 怒った熊に追い掛けられる。←イマココ


「チッ、しゃーないな。ほら!」

「すみませんすみませんすみません」


 エイジャルムさんが、手を貸してくれる。

 強化した身体で、高く崖の上まで避難。

 自己嫌悪。


「……アーシュ殿」


 追い掛けてきたディヌートさんが溜め息をついている。本当に、すみません。


「姫さんさ~、そんなんじゃ救出いけないぜ?」

「……はい」

「何も好んで狩る訳ではないのだ。きちんと我々の糧になり血肉になる。躊躇っていたら、自分が死ぬんだぞ? その程度覚悟では、無理だ」

「…………はい」

「例え身体や魔力を強化しても、その心構えでは一番に死ぬ。共に行動する者も危険に晒される」

「………………はい」

「じゃあ、姫さんだけ今日も肉なしな~」


 ただ今、森でサバイバル中。

 自分で獲った獲物でご飯なのです。

 森には未知の調味料もあり、ラス様に教えてもらって採取しながら教官に鍛えられている。

 訓練と実益を兼ねて。

 ちなみにラス様はにやにや見てる。にやにや。

 腹立つな。


 何とか果物を取って食い繋いでいるが、声や乏しくとも表情のある獣は、傷つけられない。

 私、旅の間もいっぱいレビンに守られていたんだなぁと、また胸が痛んだ後、自分の役立たなさに日々打ちのめされる。


「この前は、躊躇わず狩れたじゃないか?」

「あー、ディヌート殿、あれは襲われていた(様に見えた)俺を助ける為でしたよ。でも、それじゃ駄目なんだよなぁ。あの気持ちを自分にも持てないと」


 あの時は、呑気に座って薬草弄ってるエイジャルムさんに、ウィと呼ばれる猪突猛進凶悪猪が全速力で向かっていたから。

 無我夢中で、風を飛ばして細切れ……オェ。

 それもトラウマである。

 考えてみたら、エルフがやられる訳無いのに。

 仲間等が絡むと、簡単な事すら見失う。

 現場で冷静さを欠くのも死に繋がる。


「いっそ、極限の飢餓まで追い込めば……瀕死まで追い込むか……手加減が難しいな」


 ディヌート超怖い! でも自分も同じ意見。

 覚悟が足りない。

 奴隷を逃がしまくった時も、追手等には立ち向かうのではなく、如何に上手く逃げるか隠れるかばかりに全力を注いでいた。

 救出には、それでは行けない。

 なんせ相手は同族。助けに行けば必ず入る妨害に、怪我を負わすか寧ろ殺せるかという任務だ。

 こんな状態では連れてって貰えない。


 施設はどんどん出来上がっている。

 受け入れ場所も体勢も整いつつあるため、後は迎えに行くだけ。

 人間の国で強制的に産み出されるハーフの子は、洗脳が強く掛かって、更に使い捨ての様に身体を酷使して傷付き、隷属契約まで結ばれている。

 全て、解除・治癒出来るのは私しかいない。

 何とか先頭のメンバーについていきたい。

 それには殺す事を躊躇わないようになること。


「人族で女性であるから、我々もどこまでしても良いのか手探り中だしな」

「どうしたもんかね?」


 二人には、えらい迷惑をかけている……。

 最終的には、同族を殺る覚悟が必要なんだよね。


 本当に、甘い。

 魔物に対しても、痛がってる声を聞くと頭が真っ白になる。

 3人で落ち込んでいると、ラス様がこちらに降りてくる。


「別に良いんじゃないですか? 殺せなくても。身を守る術はあるし」

「いざという時躊躇えば、アーシュ殿が危ないんですよ?」

「アーシュは、攻撃しなくても代わりに攻撃する者ががいるじゃないですか」


 ……は? まさか?!


「レビンが」


 やっぱりぃぃ!! 


「アーシュ。例え貴女が共にあの子らを迎えに行くとしても、一人になることはない。獣人が必ず盾となり、剣となり守るでしょう」

「ですが、万が一を考えて」

「大丈夫ですよ。万が一など、あの赤虎は許さない」


 また、レビンに守られるの?

 離れたのに、また守ってもらうとか……。

 でも、私の覚悟が足りないからそうなる。


 どうしても――……どうしても、虐げられて泣き叫んで血だらけで助けを請う、助けられなかった獣人や獣人の子達が思い浮かぶのだ。

 そして、嬉々として彼らを傷付ける人間の姿。

 吐き気がする。


「アーシュ、貴女には攻撃は向かないでしょう。傷付けられる者達を見過ぎた。それで逆に闘志が湧くものもいるけれど、貴女は嘆くか傷付くしか出来ない」


 お前の甘えで誰かが代わりに手を汚す。

 そこから抜け出せない。

 そう言われている気がする。


「ならば、自分の出来ることでその力を発揮しなさい。見ていましたが、傷付ける事を怯えるようでは、中途半端に前に出ても周囲の者も迷惑です。自分の身を守る事と、治す事だけに集中した方が良いでしょう。大人しく守られていなさい」

 

 容赦無い言葉。

 だが、周りの皆に手を汚す事を強いているのに、自分だけそれに参加しないのは……。


「……」

「貴女は、良くも悪くも命に重きを置きすぎる。ここでは、人間の子供すら平気で獣人の命を奪う。そんな世界です。貴女が仲間が死んでも良いと思うなら別ですが」

「っ! いえ、自分の出来ることに集中します」


 ラス様の助言を取り入れ、修行の方向性を変えて、防御魔法と身体強化に力を入れる事になった。

 先頭メンバーには、入れない。


 特訓が終われば、勉強会。

 一緒に世話をする子持ち獣人と、赤子の接し方を教え合う。

 オムツや、食事、沐浴など。半分人間が入っているので、獣化して生まれてくる子は殆ど無く、人間の姿で生まれる。私の前の知識(出産した友人の見舞いに行った時、散々手伝わされた)と、獣化した際の接し方など互いの知識を擦り合わせる。

 

「アーシュ様? 人間の赤子は弱いのね。こう持ってはいけないの?」


 ……首噛んで持たないでお願い。

 

「もく……浴ですか? 舐めては駄目なんですね? 排泄も舐めて促す事はしないのですか」


 うん。お願いやらないで。

 人間の粘膜に、猫のザラザラ舌はちょっと。


「獣化したら、多分もう少し頑丈だと思うけど……基本ハーフの子らは、耳だけ獣化が多いらしいから、人間の赤子と同じ扱い方で良いと思うんだ。私も詳しくは分からない。兎に角、慎重に慎重に、ね?」


 認識の違いが大きすぎて、深夜になることも。

 皆、苦手意識が思った程低くて良かった。そう繕ってくれているかもだけど。


 ……名の敬称付けは、皆舌を噛むので認めた。


 それから、調味料の開発。

 ラス様のお陰で、結構な種類も手に入った。

 この前の償いを兼ねて、美味しい食事を提供中。食事は大事だ。やる気にも繋がる。


 レビンには夕食の時以外会わない。

 必ずアルムがついてきて、二人にはならないし、話す内容も、集落に関する事だけ。

 喧嘩売られた時、皆こぞって聞き耳を立てていたので、私達の食事する場所は防音になった。

 レビンとはぎこちないけど、笑って会話は出来てる。

 獣人達には微妙な空気は伝わって無いようで、仲良しだと思われてて満足。

 ……アルム以外。

 いつも険のある雰囲気と言葉だ。はぁぁ。

 いっそ友達になれないかと思ったが、自分の男に横恋慕する女は……そりゃ、なれないわな。


「アーシュ様? 本日もあのエルフの男性達と森の中で過ごしていたんですか?」


 それ……受け取り方次第では、私遊んでるみたいじゃん。


「ええ。二人は素晴らしい教官だわ。貴重な時間を割いて私に修行をつけてくれて」

「まぁ! か弱き人間の身で?!」

「強くなりたいから」

「どのような内容なのですか?」

「今日は水泳だったわ」

「男性しかいない場で、泳いだのですか?! まさか脱いで?!」


 と、ここでレビン登場。

 そして、私は素っ裸でエルフ達の前で泳ぐ修行をしていると笑顔で報告するアルム。


 疲れる。

 貶めたいのは分かるけど、仲良く出来ないものかな?無理かなぁ。男の趣味一緒って、気が合うと思うんだけど。


 でもレビンは以前の誤解のように、いきなり問い詰めるのではなく、本当は? と、聞いてくる。

 アルムは思い込み激しいって、分かったのかな? 

 でもそれがまた、アルムを煽る。


「アルム? 私一度も脱いだなんて言ってないわ。着衣のままで泳いだの。万が一に備えて、服着たままでも泳げるように」


 レビンがスッと手を伸ばしてきて、一旦止まった後頭をポンとする。


「結構激しい特訓だな。身体は大丈夫か?」

「ん? はは……慣れたよ……」


 目線は遠くなる。

 厳しい。軍隊かと思うほど厳しい。

 でも、あれでも人間女性として最大限考慮されてるので、文句は言えない。

 レビンに触れられて胸が痛くなるけど、レビン越しに見えるアルムの不安と怒りとが混ざった顔が、視界に入る。


「か弱き人間の身でしかも女性! さぞ大切に危険を充分に考慮された修行なんですね。でも心配です」

「ハハハ。大丈夫デスヨ。レビン? 私もう頭撫でられて喜ぶ子供じゃないわよ。褒美なら、串焼き頂戴」

「色気より食い気で何抜かす! あぁ! 俺の肉団子……」

「ま、アーシュ様ったらはしたないですよ? レビン様、私のどうぞ。もうお腹いっぱいですから」


 私は恋人の前で頭撫でるなと、言外に注意。

 気付かず、そのままの意味で受け取り、頭を軽く叩き続けるレビン。

 子供扱いならばとおかずを奪い、アルムがフォロー。

 大抵こんな感じの夕食だ。


 これでいい。

 何も二人の仲を壊したい訳じゃない。

 (もっと頭撫でて? 子供でいいからもう少し)


「さて、オッサンなレビン? ハーフの子達の作戦はいつか決まった?」

「オッサンじゃねぇ! ああ、決まったよ。本当に行くんだな?」

「即治療が必要な子もいるだろうし、何より隷属があっては、国外どころかその建物の土地から出られない。私はなるべく近くで待機するから」

「乗り込まないのか? 珍しい」

「ラス様に言われちゃった。中途半端な覚悟は皆の死に繋がるって。私また殺せなかったから」

「……そうか。お前には俺がつくから。絶対かすり傷一つ付けんぞ」

「頼むよ。白虎神!」

「むず痒い」


 笑って会話出来てる。大丈夫。

 

「じゃあ、近い内にメンバーで集まって細かくチェックだね!」

「ああ。訓練もしとかないとな」

「あの……」

「何だ? アルム」

「私も参加出来ませんか?」

「え?」

「少なくとも、アーシュ様より私の方が強いですし、アーシュ様が心配です」


 そりゃ、獣人から比べたら私は弱々ですよ!


「アルム、お前は駄目だ」

「何故?! 何故アーシュは良くて、私は駄目なんですか?! 私も治癒が出来ます!」


 あーうん。のけ者な気分分かるよ。

 分かるけど、駄目だ。


「今回は救出は3人。治癒をフルで使っても、アーシュだけで間に合う。アーシュは、他に洗脳・隷属の解除が出来るから、本来絶対連れていきたくないのを連れて行くんだ」


 すっごい渋々ですね。

 レビンめ。前に、一緒に行くぜって笑って言ったのに、絶対とは何だ絶対とは。

 自分の力量を見て、後方で大人しく待ってる事にしたじゃん!

 先頭メンバー諦めたんだよ?


「そう、ですか」


 沈むアルム。今私が下手な事言うより、レビンがちゃんと諭した方がいい。

 私の言葉では、反発するだろうし。


「……レビン様じゃ駄目なんですか?」


 おっとそう来たか。

 私も別に守ってくれるなら、誰でも良いいけど、レビンの腕が一番信用できる。


「アーシュ様! 危険ではないですか?! レビン様をそのような所に連れていくなど……アーシュ様には大精霊様の加護があるのでしょう? 何もレビン様じゃなくても、大精霊様に守って頂けるではありませんかっ?!」


 ? アルムは知らないのかな? 情報がちゃんと行き届いてないなら、考えなくちゃ。


「アルム、聞いてないの? ラス様は種族同士のいざこざには手は貸してくれない。だから、こちらの都合で力貸せとは言えない。私は実際に加護がある訳じゃない。あの大(迷惑)精霊は、そう簡単に頼ってはいけない存在なんだよ?」

「――っ! 知ってます! しかし! アーシュ様の我儘で、レビン様が危険な目に合うのは」

「アルム。アーシュの我儘じゃない。寧ろ、それを叶えるために集まったんだ俺達は。半獣を何とかしたい奴等が、アーシュの希望に乗っかっただけだ。アーシュの力が無ければ、実現しない事だから」

「…………そう、でしたね。……申し訳ありません、アーシュ様」


 手をひらひら。何かもう話すと疲れる。

 多分、自分の中で引っ掛かってる所を的確に突いてくるからだろうな。


「じゃ、レビン、アルム。先行くね。集まる日決まったら教えて~」

「おう」

「……」


 最後はいつも、私が先に立って二人にする。

 二人を見ているのも辛いし、私がいなくなると途端にアルムは落ち着く。


 本日も終了。

 胃に穴開きそう。

 クスクスと笑い声が聞こえる。

 おいでなすったよ、大(迷惑)精霊。


「素晴らしい程の茶番ですね?」

「はぁぁぁ。ラス様、どこかの家政婦並の好奇心と、覗きのテクニックですね」

「貴女が望むなら、加護を与え何にも傷付けること無く守ってあげますよ?」

「それ! ここを離れてラス様と流浪の旅に出ろって事ですよね? 私の場所はここなんです。離れません。気紛れでいつ旅に出るか分からない上に、同じ場所には留まれないって、そんな加護いりません!」

「残念。欲しがる者はたくさんいるのに。ま、私と共に過ごしたくて、ついてくる者ばかりですからね」

「ついていきたい気が全く起きない」


 スパン。

 また突っ込み入れられた。

 顔を覗き込まれ、にっこり笑って失礼な言葉を言うラス様。


「全く本当に、残念な『愛し子』」

「残念に残念て言われた……」

「それにしても……あの、雌虎人は、ちょっと不安定ですね」

「あー、私のせいかと」

「そうやって、自分せいにして考えを放棄して楽するんじゃありません。貴女を責めるために私の事まで引っ張り出すとは。私が怒ってたら消してましたよ?」

「結構怒ってます?」

「私だって、アーシュの為に無条件で力を使いたいのにぃ~。一体誰ですかね? 力が溜まりすぎないよう一所にずっといてはいけないとか、種族間に手を貸していけないとか決めたのは!」


 創世の精霊ならあなた方が決めたんじゃ……?

 顔が整った性別不詳がいじけてるのは、ちょっと笑える。


「ふふっ。その気持ちだけで充分ですよ。何だかんだで、ラス様の騒がしい存在に助けられてますから。ありがとうございます。アルムの事、気を付けて見ておきます。」

「素直な子は、可愛い」

「ありがとうございます」

「……顔を赤らめるくらいしなさい。可愛くない子」


 どっちやねーん。

 ラス様は、そう笑いながら私の頭に手を置こうと伸ばしてきて、思わず掴んでしまった。

 一瞬固まるが、強引に握手にする。


「では明日も特訓宜しくお願いしますおやすみなさい」


 面食らった顔してたけど気にしない。

 そのまま部屋へ戻った。

 

「……ふふ。本当に妬けますね?」




 今日のいいこと。

 今日は、レビンに頭撫でられた。




お読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ