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26.仮の守護石

 ねぇ皆さん。自分を磨く事って何をする?

 美容?教養?仕事?

 私ですか?……うふふっ……筋肉。



 レビンに脱被保護者宣言をして、大精霊(笑)に噛み付いた。

 ボロボロ泣きながら、責め立てた。


「大精霊カッコ笑いカッコトジ!何してくれてんのよ!」

「わぁ。口で言ってきた、(笑)。良いんですよ、あれで」

「あ゛ぁ?ふざけないで!人の気持ちで遊んで」

「弄んだのは、あの虎でしょう?」

「違う!」


 はぁぁ。と溜め息をついて、私の頬に手を伸ばしグリグリ涙を拭いてくる。痛い!触るな!


「良いですか?あの虎人に自覚させるのです。貴女は立派な大人の女性であると。他の男のものになって」

「ならないよ!」

「振りで良いんですよ。要は、ヤキモチを妬かせるんです」

「ヤキモチ……でも、レビンはもう」

「その時は、その時です」

「ぐあぁ!頼りにならない!」


 精霊は、自然そのものだ。気紛れな本質で、面白い事が好き。こんなのに一瞬でも頼ろうとした私が阿呆だったよ。

 ニッコニコしながらこちらを見てる精霊……あぁん!な・ぐ・り・た・い!


「はぁ。もう良い。レビンは同士。私は、集落作りを頑張る同士」

「そうそう」


 くっ、ムカつく。


「明日は、エルフの里に謝罪に行きます。その後から、修行付き合って下さい」

「あぁ、はいはい」

「本当に大丈夫ですか?ところで今日どこで寝ます?私の部屋、布団一組しかありませんけど」

「はい。特に眠りを必要としないので、観光がてらそこら辺をぷらぷらします、大丈夫ですよ」

「そうですか。では、また朝食時にでも」

「えぇ、はい。お休みなさい『愛し子』」


 ラス様精霊様は、人の額に額を合わせてきた。


「?」

「おまじないですよ。よく眠れるように」

「?ありがとうございます?」

「ふふ。お休みなさい」

「お休みなさい」


 眠る前まで、レビンを想って泣いた。

 布団に入ったら、直ぐ眠った。


 夢を見た。

 レビンの隣で、大分大きくなった集落、というより町を眺めてお互い心から笑ってた。


 目が覚めたら、もう朝だった。


「虚しいです、ラス様。でも、ありがとうございます……」


 また、ちょっと泣いた。


 朝食後、いつの間にか後ろにいたラス様が、エルフの里へ一緒についてきた。

 

「ラス様、昨夜どこにいたんですか?」

「そこら辺ですよ」

「怪しい……」

「そんな事より、昨夜はよく眠れましたか?」

「……まぁ、はい、その、あれはラス様が?」

「何の事でしょう?」


 うっわぁ、怪しい……。

 何だか、早まった気がするけど仕方ない。

 身体を鍛える為だ。

 

 エルフの里へ着くと、案内人のエイジャルムさんに会った。無事を喜ばれ、平謝りした。


「そして大精霊殿?今回はアーシュ様を愛し子にされたのですか?」

「えぇ、面白いので」

「……長に会って行かれますか?」

「そうですね、会っておきましょうか」


 知り合いですか?あなた方。

 長の家に案内される途中、気さくなエルフが声をかけようとしてくれたが、後ろのラス様を見たら引いていった。ラス様?ここで何したの?


 長の家に入り相変わらず、ノック無しで扉が開かれる。長は茶を飲んでいて寛いでいた。私を見て、ニッコリしたと思ったら後ろを見て、茶を吹き出した。

 正面にいた私は、モロ被りした。


「ぎゃあ!長汁がぁぁー!!」

「ゲホッゲホッ、し、失礼じゃな!あぁいや、だがすまん。着替え着替え!おい!誰か!」


 ディヌートさんが入ってきて、別室へ案内してくれようとしたら、ラス様が引き留めディヌートさんに何か話す。

 ディヌートさんは、目を見開き私を見てラス様を見た。だから!何なの!


「本当ですか?」

「えぇ、宜しくお願いします。アーシュ、着替えてきなさい。私は、長と話してますから」


 事情が全く分からない……むぅ。

 別室で、女性のエルフが着替えを持ってきてくれて、ある程度拭いて着替えると……ズボンだった。何故?

 その格好で戻ると、長とディヌートさんとラス様が話をしていた。長は疲れた様子、ディヌートさんは複雑な顔、ラス様はいつでも楽しそうな顔。


「お待たせしました……?どうかしましたか?」

「あぁ、お帰りなさい。アーシュ、喜びなさい!武術の師匠を手に入れましたよ?」

「は?」

「ここにいる、ディヌートです」

「は?」

「……そういう訳だから、宜しく頼む」

「へ?」

「あと、エイジャルムも加えておきました。頑張って?」

「は?」

「お嬢さん、頑張れ……」

「え?」


 サムズアップしたラス様が見える。

 腹立つ!どういう事なの!?


「ちょ、誰か説明して~!」


 ディヌートさんに外に連れられ、エイジャルムさんと合流。


「すみません。一体どういう事なんでしょう?何故、お二方が私の修行に?」

「まぁ、うん。何でだろうな……」

「ところで姫さんは、あの方にどこで会ったんだ?」


 遠い目をするディヌートさんと興味津々のエイジャルムさん。


「会った所は、森の深部だと言ってました。夜はとても美しい場所で、昼間温かい時は、ぐにょぐにょした泥みたいな場所です」

「どうやって行ったんだ?」

「適当に1~2時間歩いてたら、辿り着きました」

「適当に……そっか。じゃあ本当に気に入られちまったんだなぁ」

「あぁ。あの方は、気紛れだからな」


 あの?やめてください?可哀想な目で見るの。本当に、やめて!嫌な未来しか思い付かないから!


「止めてくださいよぅ……。ラス様って何者なんですか?」

「……大精霊だな」

「うん。大精霊だ」


 目を逸らさないで!何?!凄く怖い!


「わ、私、平穏でのんびりした日々を望んでいるのですが、送れますか?」

「「頑張れ」」

「こ、怖い~!」

「だ、大丈夫だ!」

「大丈夫だよ……多分」

「いやー!」


 ラス様は、何なのだろう?

 怖い、怖すぎる。

 とりあえず、修行をお願いすると……今日命日になるかな?と思えるほど厳しかった。

 一世を風靡したビリ○ズブートキャンプのようだ。あれが2倍。


「それでも人間かぁっ!お前なら出来る!」


 人間です。ですから、10mある木を初っぱなから魔法無しで飛び越えろと言うのは、無理です。


「姫さんならやれる筈だ!いけっ!」


 魔物どこから調達したんですか?

 私、こんな凶悪な顔の熊見たことありません。

 寧ろ魔物との対峙は、今初めてですが?


 ストレッチから始まり、腹筋背筋スクワットした後、走り込み、川を着衣のまま泳がされ、木をよじ登って、熊から全速力で逃げた私は、危うくご飯になりかけた。

 そこでやっと二人は気付いたようだ。私は、人間の非力な女の子だと。遅いよ!


「ふむ、何か違うなと思ったのだが、思いの外食らいついて来たので、少々熱くなってしまった」

「あぁ根性あるぜ!見直したよ、姫さん!」

「ハーッハーッハーッ」

「すまん。人間は脆弱だったな」

「ハーッハーッハーッ」

「悪かったよ!若いエルフにする指導しちまって」

「ハーッハーッおえぇ」

「……すまなかった」

「……ごめん」


 動けなかったよ。乙女が見目麗しいエルフの前でゲーしたよ。心折れたわ!

 ひたすら平謝りしてきたので、先程のを忘れる事で水に流した。

 

「なんで、あんな頑張るんだ?」

「……ぃぃ女に」

「ん?」

「ハーフの子を救出する時ついていきたいんです。後、ぃぃ女に……」

「あぁ、半獣な」

「半獣は、最近は聞かないがな」

「別の獣人の集団が計画を潰してるらしいぞ?」

「まぁ、減る分にはな」


 知っているのか、あの計画。

 人間の恥とも言える、非人道過ぎる所業。

 本当に人はどこまで堕ちるのか……。


 暗い顔したのが分かったのか、エイジャルムさんが話題を変えてきた。


「で、でもよ?イイ女になるのに、この修行は違うと思うんだが?」


 聞こえてた!

 ディヌートさんは、イイ女?と、分かってない様子。そんなだと、娘さんにいつかお父さんはなにも分かってない!とか言われますよ?


「良いんです。自分で自分の身を守れるようになりたいんです」

「そっか。じゃあ、俺らも協力するよ」

「ありがとうございます。あの、今日の内容は流石にまだ挑めないんですが」

「すまん、内容を少し考えるから」

「今日のは忘れてくれ」

「強烈過ぎて……忘れられません」


 こうして私のビリ○ズブートキャンプは幕を閉じた。ちなみに、治癒や回復薬を使うとせっかく頑張った結果がリセットされてしまうので、動けないまま運んでもらった。


「すまん。本当に、弱いんだな」

「あぁ、根性はあるけどな。でも、出来ないって言うのも大切だぞ?」


 言ってましたねぇ!序盤から!

 ジト目で二人を見ると、目を逸らされた。

 運んでくれているのは、ディヌートさん。エイジャルムさんは、森の木や草などから実を集めている。

 

「ん?湿布だ。多分姫さん明日も動けないからな。少しでも和らげるのに作ってやるよ」

「それ私にも教えて下さい」

「貪欲だな!」


 獣人の中でも腰痛に唸ってる人がいた。

 湿布は、ありがたいだろう。

 この森の物なら、強力なのが出来そうだ。


「今日は休め。後で教えてやるから」

「絶対ですよ……」

「お、おう」


 草を引きちぎっているときに、エイジャルムさんの胸元から何かが落ちた。

 

「おっと。すまん、確か人間の苦手な色だったな」

「待って!」


 それは、水晶の形。六角柱の形。紫の色。


「そ、それ、水晶?紫水晶?」

「ん?そうだ。人間は嫌いだろ?」

「それ!どこで手に入れたの?!」

「どうした?」

「それ、どこで?いっ?」

「動くな。痛みがあるんだから」


 ディヌートさんに運ばれている私は、それに手を伸ばそうと身体を起こす。イタタタッ!


「姫さん、大丈夫か?これ気になるのか?確か忌避色だろ?」

「そんな事はどうでも良いんです!それ、私にも手に入る場所にありますか?手に入れられますか?」

「う~ん。何で欲しいんだ?」

「乙女の秘密です!」

「まぁ、良いけどな。こういうのは俺達にはお守りみたいな物なんだ。大地の力が凝縮されてるから。だが、その場所に姫さんは連れていけない」

「そうですか……」


 だよね。人間の国でも宝石になる鉱物は、魔石としても売られていた。べらぼうな値段で。魔法を溜めたり放出したり、便利な電池モドキの様な扱いでもあった。

 紫を見たこと無かったのは、忌避色とされていたからだろう。

 ガックリしている私に二人は哀れと思ったのか、嬉しくない提案をしてきた。


「大精霊様なら何とかなんじゃないか?」

「あぁ、そうだな。大精霊様と長に言ってみたら、何とかなるかもしれん」

「え゛」

「言っといてやるよ」

「そうだ、報告だけでもしてみよう。深部に招き入れる程だ、もしかしたら、もしかするかもしれないぞ?」

「え、いや、あの」

「そうと決まったら、直ぐ帰ろう!」

「だな!俺も湿布作るし、早く帰ろう」

「ひっわぁぁぁぁー!」


 あのラス様に借りを作ったら、何を要求されるか恐ろしくて断ろうとしたが、超特急で帰る道で小刻みに揺さぶられた私は、意識を失った。

 やめてくれ。紫水晶を欲しがったなんて知ったら、何言われるか分かったもんじゃないんだよー!


 目を覚ました私は、異臭漂う中ニンマリ笑うラス様を見て、軽く絶望した。

 あの二人、まさか?

 

「聞きましたよ~?紫水晶が欲しいんですって?」

「イイエ」

「まぁまぁ、そんなに警戒しないで下さい。まぁ昨日の今日ですし、手に入れてあげますか?」

「でしたら、いりません」

「何故です?」

「最初から、全部自分の手で手に入れたいんです。誰の手も借りずに」

「ふぅん?」


 腑に落ちないといった顔をしたラス様は、にやぁと笑った。何てこった。あの二人に口止めすれば良かった……。


「良いですねぇ。他の男が触れたものは駄目なんですね?可愛らしい」

「また!人の頭読みましたね?!」

「いいえ?」

「ぐっ」

「ふふ。分かりやすいんですよ、貴女は」


 男じゃないよ、ラス様は!

 スパンと頭を叩かれた。今のは読んだんだな?

 スーッと耳に近付きラス様が話す。

 

「全く失礼な『愛し子』だこと。お望みならば、男にもなれますよ?」


 囁かれる言葉で耳に息が吹きかかって、耳たぶを何かに挟まれる。


「うひいぃぃぃい!!」

「おや、齢60越えでも、存外ウブですねぇ」


 変態だ、変態がいる。

 変態が男に変態するって言ってる。

 スパンとまた叩かれる。


「止めてくださいよ。どっかの誰か様が、鍛えてくれる約束をディヌートさん達に丸投げしたお陰で、動けないんですから」

「くっくっ。面白かったですよ」


 あー疲れる。駄目だ、眠い。


「……かなり無理しましたからね。何も気にせず、今日は眠りなさい」

「ありがとうございます。ラス様、一応、私の部屋の隣空いてたんでラス様用に取ってありますから。もし眠るときは、そこ使ってください」

「同じ部屋ではないのですか?」

「いや、夜中に発光されると眠れな……いたたっ!」


 頬をつねられた!こんなにヘロヘロな私になんたる仕打ち!


「全く。ほら、お休み『愛し子』」


 また額を合わせてくる。


「あ!出来れば、ゆめ、を見ない、よう……に」


 夢を見ないようにしてください。

 虚しくなるんです……。


「夢は貴女のもの。私は介入してません。ですが良いでしょう。何も見ずに深く深く眠りなさい」


 じゃあ、あれは私の願望……か。

 額にまた、何か感触がした。こんどは柔らかかった。何かと考える前に、眠りに落ちた。


 だけどまた夢を見た。

 暗い場所で座り込んだ私がいる。何かを大切に握って泣いていた。

 何?何持ってるの?どうして泣いてるの?

 そんな事を問いかけて目が覚めた。

 現実でも泣いていた。


「ラス様の嘘つき……。私、毎日泣いてるなぁ。いくらストレス物質出す為とは言え、干からびるよ、本当に」


 手で拭おうとしたら、何かを握っていた。

 手のひらを開けると、紫水晶があった。

 小指程の大きさの紫の六角柱。


「う~ん。粋な事する。悪夢かと思いましたよ」


 何故か、素直に受け取ろうと思った。

 夢で私が泣くほど握っていたものだから。


「ありがとうございます」


 ありがたく貰おう。首にかけるための革ひもでも探そうと起きあがっ……れなかった。

 そういえば、異臭漂っている。これが湿布?

 よく見たら緑色のべちゃっとしたものが塗られ、薄い布が巻かれている。全身に。


「ははっ、これやったのまさか女性だよね?」

「そうですよ」

「ぎゃー!イッ!イタタッ!」

「ほらほら、動かない。どうですか?プレゼントは」

「いきなり来ないで下さい。やっぱり、ラス様ですか」

「厳密には、夢の貴女からです」

「?」

「貴女の夢に出たものを具現化したんです」

「……芸達者ですね」

「そこは感動するところでしょう?」

「いえ、人の夢見たんですかと問い詰めるところです」


 相変わらず楽しそうに笑うラス様。

 あなた、夢は介入出来ないって言ってませんでしたっけ?!


「ふふふ」

「ちょっと?」

「虚しい夢を見ないように、見張っててあげたんですよ」

「今回はありがとうございます。ですがもう、見ないでくださいよ。流石に何でもかんでも見られるのは、精神がもちません」

「分かりました」

「すみません」

「そこで謝ったらまた、付け込まれますよ」

「誰かー、反省というものを持ってきてー」


 その日は、ベッドの住人に。

 ご飯を持ってきてくれた熊おばさんが、そのまま一日介助してくれた。

 湿布の匂いがキツいらしく、涙目で頑張ってくれた。ごめんなさい。本当にごめんなさい。

 湿布は、匂いの改良が必要だ。


 翌日すっかり動けるようになった私は、鬼教官二人から初日より大分私用に考慮された特訓が始まった。


 いい女になるぞー!

 何か違うとエイジャルムさんが言ったのは、聞こえなかったことにした。

 私の胸元で、守護石が揺れる。

 石の言葉は、真実の愛。今、一番遠い言葉。





お読み頂きありがとうございます。





※注意※

石の言葉は、様々なものがあります。

この話では、一つの言葉だけ使用してますが、実際はそれだけではありません。

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