23.失恋2回目。
あの後、何故か酒盛りになり、食堂(屋根ナシ壁ナシ)は死屍累累である。
私は気まずくなるのが嫌で、今日の内にレビンと話をしたくて、夜食を作ってる。
酢の料理は、残念ながら醤油無いから思い付けなかった。
味付きの卵は塩しか無いから塩で。もう、前に教えて常備されてるからそれを使う。
酢で殻を少し溶かして塩で漬け込んだものだ。
それで塩胡椒ニンニクで作ったシンプルチャーハンで包み、爆弾お握りを作る。超パラパラだったから力を込める。卵一個潰した……。
鳥ガラ出汁作り。エルフが持ってきてくれた材料の中で、葱、生姜、ニンニクを煮る。弱火でずーっと。二時間以上かかってしまって、味はぶっつけ本番だったけど、上手くいった。さっぱりとコクがある!
小麦粉で薄く四角い皮を作る。
肉をぶっ叩き、ひき肉一歩手前で力尽きた。
駆け寄ってきた人がいたから振り返ると、食堂の熊おばさんだった。
手伝いを申し出てくれたが、全部自分でやりたかったから、見学だけ。
やや粗めのひき肉と、みじん切りの葱ニンニク生姜を入れて酒塩胡椒入れ混ぜる。
作った皮で簡単に包み、ワンタンもどきを作り、鳥ガラスープで煮る。
出来る頃には、0時越えてた……。
すっごい疲れた。
熊おばさんは、何故かにや~(くどいけど凶悪面)としていて、頑張りな!と言ってくれた。
え?バレてるの?
まだ仕事してるのは知ってる。食べさせたら、直ぐ眠らせよう。
会議室程の大きさの掘っ建て小屋が、今の仕事部屋だ。案の定、灯りが付いていてそっと近付く。
話し声が聞こえる。……話し声?ジエロは先に帰った。フィンブルさんも食堂で潰れてる。
いけないと思いつつ、気配を殺し防御結界で自分を包み無音にする。
声が鮮明に聞こえてくる。
「――か、アーシュも言ったように、そう見えてもあやすだけだったんだ、きっと」
「アーシュ様は、狡いです!あんなに人から好かれて、レビン様のお心までっ!」
「それは、俺が勝手に」
「レビン様を本当に愛してないのに、告白までされるなんて!きっと、その気もないのに、レビン様のお心だけ自分に向けさせておこうと!」
「そんなやつじゃない」
疲れたようなレビンの声と、捲し立てるアルムの声。信じられない事を聞いた。何故、レビンしか知らない告白をアルムが知ってるの?
あの後からずっと一緒にいたのか……。
「例えそうでなくとも、アーシュ様は、幼少からお父様から酷くされていて、王子から婚約破棄までされ、とてもお可哀想な境遇でした。
レビン様というずっと守ってくれて、初めて優しくされた男性のため、離れ難く繋ぎ止めるためだけに告白されたのでは?」
「あー、それは俺も思う。あいつも早く本当に好きなやつを見つられれば良いのにな」
「ディヌート様にも抱き締められて、全く抵抗していませんでした。もしかしたら、優しくされたら直ぐにそういう風に思ってしまうのかも?」
「なっ!?不倫は駄目だ!不倫は!」
……。
「……レビン様、もしかしたらレビン様がどなたか特別な方を作らない限り、アーシュ様は勘違いをしたままレビン様を追い続けてしまうのでは?」
「えっ?!それは考えなかった」
「嘘でも誰かと結ばれた形をとって、アーシュ様を進ませてあげるのも優しさなのでは?」
「う~ん」
「レビン様、私を抱いて下さい」
「はっ?!」
「私を恋人役に使ってください。例え口で恋人が出来たと言っても、周囲の獣人には匂いで分かってしまいます」
「いや……その、アルム?落ち着け」
「アーシュ様のためにも」
「アーシュの為に……?」
「はい」
知らず、泣いていた。
優しくされれば誰にでも尻尾振ると言われても、お可哀想と境遇に同情されても、腹立たしいだけだったのに。
私の告白を簡単にアルムに話した事、気持ちを告白を勘違いとした言葉に、レビンが同意した事が胸が張り裂けそうだった。
私を言い訳に、二人がヤろうとしてることにも。
嘘つきレビン。あぁ、恋人や妻はつくらないと言ったけど、誰ともヤらないとは言わなかったなぁ。
私は、何もせずその場を去った。
見られたくないから、暗い方へ暗い方へと歩き森に入っていく。
獣人は耳も鼻も良いから、遠くで泣きたかった。
声を殺して泣きながら、ずんずん森へ入っていく。半径40キロは魔物が出ないから、気にしない。
暗いけど、月明かりが木々から溢れ、所々見える。こんな時でなかったら、綺麗とでも思ってたかもしれないけど、今はただの頼りない灯りだ。
1時間?2時間?ずっと歩いてると、前方が明るくなってくる。知らぬ間にUターンして集落に戻ったかな?顔を上げると、そこは……ア○ターだった。
体格の良い青い肌の異星人がいる世界の映画。
あの、とても綺麗なCGの世界のまま、目の前に現れた。
「え?私、死んじゃった?」
呆然として、呟く。そう思えるほど美しかった。淡い光が輝いて、白、青、緑、紫、赤など様々な光が主張することなく調和されていて、息を飲むほど美しかった。小さな水溜まりがあって、足元は苔の様にふかふか。あの映画で綺麗な世界と思ったけど、ここは更に強烈な躍動感、生命に溢れ、静かなのに圧倒される。
「きれー…」
今までのぐちやぐちゃした感情が、目の前の光景で吹っ飛んでいた私は、無意識に(ここをレビンに見せてあげたい。きっと感動する)と思ってしまった。
「……は。レビンめ。思い出したじゃんか」
あれだけ感動で心が占められていたのに、一瞬でさっきまでの感情で塗り潰される。
「ここで泣こう。とても綺麗だし?2回失恋した私を哀れだと思ってくれたフォレスト様からの、ご褒美だわきっと」
森に意思があると言われてから、フォレスト様と地球の公用語で勝手に呼んでいる。私の中で神のようなこの星のような存在だ。……『森』様は、前世の友人を思い出したのでやめた。
大きな木の剥き出しの根に座る。
「はぁ……うぅ、馬鹿レビン、あほレビン、お前が言う惚れたって何なんだよ。キッパリ振れよ。女の手借りて振るんじゃねぇよ……」
立ち上がって、吠えてみる。
「うぅ~何で私はあのボケに惚れたんだー!!アルム、私はお可哀想じゃねぇー!そりゃ、お父様は鞭で叩いたし、濡れ衣で婚約破棄されるし、逃がした人達に逆恨みされるし、追っ手がかかって死にかけたし……?離縁されて修道院行きだった、お父様は殺された。更に竜人に二重誘拐されて、散々な事言われて殺されかけた……あれ?結構お可哀想だね?」
指折り数えてみたら、結構不幸だと判明。
この後に、プラス惚れた男に勘違い呼ばわりされたんだわ。
「あぁうん、気付きたくなかった……はぁ」
ねぇ、レビン?お願いですから、
私の気持ちを勝手に思い込みにしないで。
私の告白を勝手に勘違いにしないで。
私の心を勝手に間違いだと決めつけないで。
私の感情を勝手に消さないで。
「……私を否定しないで……」
分かってる。明日には笑わないと。
例え、レビンがアルムを抱いても、笑って祝福しなければ。
集落のトップと私が気まずい雰囲気を出せば、慕って集まってくれた人達に戸惑いを生む。最悪、分裂するかもしれない。それだけは避けなければいけない。
明日には、笑った私に戻らないと。何があっても笑って明るく。
だから、今は、思う存分泣かせて。
えぐえぐと暫く泣いて気付く。
お尻が温かい?あ、この木温かい。
木の剥き出しの根っ子に腰かけてた私は、よっこらせと幹に近付き、ジッと虫がいないことを確認してから、ぎゅっと抱き付く。
「あったかい。レビンと同じくら……い?はは」
何かにつけて、レビンしか思い出さない自分に少し呆れる。その事実にまた泣く。
幹はゴツゴツしてカサカサしてて、固くて痛かった。レビンとは全く違う感触にまたまた泣く。
「止まらないな、涙」
「止めてあげましょうか?」
「っほっきゃぁぁぁー!わっ!いだっ!ぐぇ」
突然聞こえてきた声に驚き、不安定な根っこから足を滑らし、捻って転んだ。
「大丈夫ですか?」
捻った足を押さえ、声のする方へ顔を向けるとそこには全身光る人が立っていた。
「……宇宙人がいる」
「違います」
昨今の宇宙人は、突っ込みが出来るらしい。
お読み頂きありがとうございます。




