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22.喧嘩を買う

 久々に大泣きして、少しスッキリ出来た。

 絶対零度だと思った人をケルの実ケーキ3つの言葉で、トラウマが完全に払拭されたわ。

 ほんの少し、やっぱり、羨ましいけど。


 二人と別れ、食堂へ向かう。

 レビンが聞きたい事があれば、この時間に意見を求められる。今日は話せるかな?


 食堂と言っても青空食堂だが。集落の方針を決めるために話し込む事もあるので、私が座るのは少し離れた布で区切られた所だ。

 総勢300人以上が笑い合ってる。

 ここに来るといつも嬉しく心地よくて、憂鬱になる。

 私の理想、種族を越える事。私が本当に見たいのは、人間と獣人。人間は、私しかいない。

 ふと、ここにいるべきではないのかもと、焦燥感に駆られる……はっ!呆けてる場合じゃなかった。

 いつもの場所へ皆に声を掛けながら進む。

 最初の頃は、食事そっちのけで握手会だったけど、今はうるうるした目で見られるだけだ……うん、めげない。


 エルフから提供された食事は、味覚破壊が起きるほど美味しくなかった。なので材料だけ援助していただき、調味料をこちらで用意したものを使ってる。

 マヨネーズを作ったら、泣かれた。

 涙腺脆いな、獣人。


 ポテトサラダと鳥肉と厚めの葉のマヨ炒めとタイ米ッポイご飯とスープ。何故かチーズは毎回出てくる。

 洗剤として使われてる酢の料理をレビンに差し入れようと思ってる。二人旅だった時の約束。

 別に、アピール方法を変えようとか……うん、思ってる。袋にでも入れて、保温の魔法かけて、部屋のドアノブに掛けとくの!今日やろうかな。


 レビンが来た!うっ、アルムさんも一緒だ。


「レビン!」

「おっ!アーシュ」


 満面の笑み(獣頭のため凶悪面)で、こちらに来ると隣に座る。


「アルムさん、こんばんはと、お疲れさま」

「そんな、恐れ多いことです。当たり前の事をしているだけですから、疲れなどありません」

「アルムは、相変わらず固いな」

「アーシュ様にそのような口を利いては、父に叱られます」

「あ、それは俺も怖い」

「そうでしょう?レビン様も何かと父に怒られてましたからね」

「子供の頃の話だ。ま、今でも怖ぇな!ジイさん年取らないんじゃないか?」

「最近は年には勝てないと、早く私もどなたかに嫁ぎ、孫の顔が見たいと言ってます」

「そうか。アルムなら美人だから、引っ張りだこだな」

「そんな……ありがとうございます。ですが、私には心に決めた方が……」

「そうなのか?俺だったら直ぐ言うぞ。早く告白でも何でもしてみろ。アルムを振る奴はいないだろ」


 それがお前だって言ってんだよ!!!

 お分かり頂けただろうか?この同じ種族でしか分からぬ話をし、嫁行けるアピール。

 私完全部外者。強敵出現だよ。

 

「なぁ?アーシュ!」


 そしてこの空気読めない。オッサン。

 私の胃と胸は、破壊されそうである。

 大体、獣人の美醜が私に分かるか!せいぜい、触りたくなるような毛並みとしか言えないよ!

 もう、当たり障り無い事しか言えない。


「えぇ。そうね。好きな人がいるなら……行動起こさないと」


 起こした結果振られたなぁ、私。胸が痛い。

 レビンが、女の子同士お喋りどうぞとでも言うように、アルムの分と自分の食事を取りに行く。

 ちょ!置いてかないで!


「アーシュ様でも、行動を?」

「え?はい、うん」

「まぁ、きっとアーシュ様なら全て上手くいったのでしょう。羨ましいです」


 婚約破棄を知っているのに……喧嘩売ってんのか?ちなみにレビンにも振られてますけどね!


「……そんな事ないよ」

「正妻がいる方では、やはり困難ですよね」

「は?」

「負けずに頑張って下さい。応援してます」


 レビン、結婚してたの?

 いや独身って言ってた。じゃあ誰の事?へ?

 レビンが食事を持って、歩いてくる。


「何だ?何の話だ」

「アーシュ様が、正妻の」

「ちょ、ちょっと待って。何の話ですか?」

「どうした?」

「ちょっと黙ってて、レビン」

「まぁ、レビン様にそんな口の利き方……」

「どういう事?何を言ってるのか分からない」

「先程、エルフの方と抱き合っていたではありませんか」

「……は?」

「お、おい、アーシュお前もう、好きな奴見つけたのか?」

「えぇ、そのようですよ?ですが、その方は妻も子もいますよね?」

「えっ?!ア、アーシュ、それはどうなんだ?」


 えぇと?抱き合ってた?ディヌートさんの事か。

 持ち上げられてた、が正しい気がする。


「はぁ、そんな訳ないでしょレビン。アルムさん、変な誤解を生むような事言わないで」

「そんな……」

「私がディヌートさんと和解し」

「おい!あの氷漬けに会ったのか?!」


 いきなりレビンが、肩を掴み私に聞いてくる。


「落ち着いて。長に会いに行ったらいて、謝罪してくれたの。もう和解したよ。いい人だった」

「いい人?!何でそんな危ない事を?!あんなに怯えてたろうがっ!なんで呼ばなかったんだ!」


 予想以上に大きい声で、身体が心が萎縮する。


「お、長の所、行ったら、謝罪だったんだよ。呼ぶにも間に合わないでしょうが」

「それでもだ!連絡方法教えたろ?!」

「長もいたし……結果和解出来たから」

「そういう問題じゃない!それとも本当に惚れたのか?!」


 少し心が冷える。惚れるわけ無いじゃない。

 何?なんでこんなに怒鳴られてるの?

 肩が痛い。お父様によく怒鳴られ鞭を打たれた時が出てくる。

 スッと、肩を掴んでいたレビンの手を外し、一歩下がる。


「アーシュ?」


 自動で動く私の身体。カテーシーと呼ばれる、挨拶にも使われるが、謝罪やひざまずこうとする意思を示すお辞儀を行い、口を開く。

 

「大変申し訳ありませんでした。今後このようなことを二度と繰り返さぬよう努めます。どうぞお許しを」

「な……」

「今後もどうぞ公爵家の一員として、相応しくない振るまいがありましたら、ご指導宜しくお願い致します。ありがとうございました」

「……アーシュ?」


 何百何千と言ってきた言葉がつるりと出る。

 言った後で、我に返る。ちょっと気まずい。

 ま、早々あの日々がこの身体から消えるわけないよね。


「……あ……間違えたわ。意外と染み付いてるもんね。長年の習慣は」

「お前、まだ」

「ねぇレビン?最後の言葉は、私の心を知る貴方が言うには酷い侮辱だわ。私が男なら手袋叩きつけてたところよ」

「……あ」

「アルムさんも、憶測だけでものを話さないで。周りにわざと誤解を植え付けるような言葉を使わないで」

「私は、そんな気は……誰も聞いては……」


 私は、私達を囲むカーテンをバッと開けると、みっちり周囲を囲む獣人達を見せる。


「これだけ集まってるけど?分かってて、妻子持ちのエルフと抱き合ってたと言葉を使ったのよね?」

「あ……そんな、気付かな」

「下手な嘘をつくな!気配に聡い獣人が気付かない訳だろうが」


 アルムさんが息を飲む仕草をすると、泣きそうな顔で俯く。レビンは相変わらず、苦しそうな表情で固まっている。

 私……悪役みたいだ。


「誤解を招くのも癪だから言っておくけど、エルフの長に会いに行った帰り道、ちょっと気分が沈んだ私をディヌートさんが、幼子のようにあやしただけよ。直ぐ側にエイジャルムさんも一緒にいたから、確認をしたければすればいい。何も疚しいことは無い」

「アーシュ……」

「レビン?私に何故皆の住む場所を一緒に作らせてくれないのか分からないけど、忙しい貴方に軽々しく頼めないわ。ジエロが毎晩話も出来ないほど疲れて帰るのに、貴方はまだ残ってるって聞くしね」


 毛並みもパサパサ、隈は分からないけどきっとあるだろう。頼める訳無いじゃない。

 この際だから、言いたい事を言っとくか。


「皆にも!言いたいことがある!」


 ビクッと姿勢を正し、ハイッと返事する面々。


「私が人間で非力だから、仕事を手伝わせないようにした?人間をどう扱ったらいいか、戸惑うのも分かる。配慮はありがたい。だが!人の顔見て、拝む泣く膝まづくなどは不要!

 私は言ったよね?ここに住むただの住人だと。特別扱いをされると壁を感じる。私とあなた達は違うと言われているようで、寂しい。

 あなた達は、私を受け入れてくれないの?私はここにいては駄目?そんな態度を取られると、私はいつまでもここに相応しくないと言われているよう」

「そんな事ありません!」

「そうです!」

「では、皆と同じように接して欲しい。様もナシ。もう、無理に手伝う事はしない。私は私でこの集落の為になることを探すから。壁を作らないで。私を受け入れて……どうか、お願いします」


 90度直角でお辞儀をする。

 方々で、頭をあげて下さいとか、やめて下さいとか聞こえるけど気にしない。

 ずっと頭を下げてると、パンパンと手を叩く音の後声する。フィンブルさんだ。


「ほら、お前らが態度を改めないと、アーシュがいつまでも頭を上げないぞ!」


 その言葉に、皆口々に謝ってくる。

 波が引くように土下座し始め、流石に止めた。

 笑いながら話しかけてくれ、ちょっと視界がボヤけてしまう。

 その中の一人の恰幅の良い熊が近付いてきて、


「あたし、アーシュさぐ……と、話してみたかったんだよ!調味料色々教えてくれたろう?他にも聞きたいんだ!」


 と言ってくれた。調味料か……考えとこう。

 何だかやっとここにいる実感が湧いて、レビンを探したら泣いているアルムの背をポンポンしながら、慰めていた。

 一気に気分が沈んだよ。

 売られた喧嘩を買ったら、レビンが離れてしまった。


「アーシュさぐ…?」

「はは、何でもない。ありがとうございました。フィンブルさん」

「なんの!格好よかったですよ!私に説教した時と同じ気迫を感じて痺れました!」

「ヤバい」

「いやいやいや?違います!私もあの時、貴女に説教されて目を覚まさせて貰いましたから。それからは、貴女の信者です」

「……一刻も早く脱退してください」

「いやいや、増えていく一方ですよ!はっはっはっ!」


 フィンブルさんは、きっと今の私の状況を分かっていて放置してたんだろうなぁ。この人も、お父さんみたいだ。


「フィンブルさんて、お父さんみたいですね」

「――ッ?!……嬉しいです。私、うっ、貴女、を幸せに、しますー!」


 何故か泣きながらプロポーズ紛いの事を言った。

 その後、ピクトさんも参加してきて、二人はずっと泣きながら幸せにしますと言っていた。

 何故あなた達が、それを言うんだー!

 ふと、もう一度レビンの方を見ると、二人はいなかった。


 



お読み頂きありがとうございます。

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