21.白熊さん
ボーッしてます。
あのエルフの狸じじいの会話の後、フィンブルさんとピクトさんはもういなかった。
そして、大量の設計図を持ち、こんな家を建てます!と私に見せて、色々意見を聞いてもらい、即着工。
どこにいたのと思うほど、エルフや獣人が既に集まり、即着工。
この集落の代表は、レビンになった。
一緒に色々考えてくて(一緒にいたくてうへへ)くっついてたけれど、以前、沢山前世の街について聞かれたため、アドバイスは不要。分からなくなったら聞くから、ゆっくりしてろと放り出された。
何で私、ぺらぺら喋っちゃったんだよ!
前世の事聞かれる時、やけにどういう形で町を運営しているのか聞いてきたのは、この事がうっすら分かってたのかな?と、思ってしまう。
まさかね!未来視でも出来ない限り無理だよね……いや、私の性格を知っていれば……いやいや、まさかね!
酪農、農業に関しては、人も獣人もそう変わり無く、齟齬を擦り合わせて良いところだけやり方を取り入れ、よし手伝おうとしたら、泣かれた。
畑の土作りで、鍬持ったら泣かれた。
小石とか避けようと拾ってたら、泣かれた。
手伝う度、泣かれた。
酪農に至っては、小屋に入ろうとしたら全力で止められた。30人くらい土下座して泣いてた。
建築は分からないから、差し入れの炊き出し手伝ったら、皆食べずに飾り始めた。
食べずに、仕事始まった。
ハーフの捜索情報は、まだ人数の確認中とのこと。どうやら、強制的にハーフを生み出す悪の所業は、よく思わないどこかの獣人が自主的に潰しているらしい。予想では、100人程。
施設は、私も一緒に住むと言ったら凄い止められ、せめて近くに住みたいと言ったら、施設の横に御殿みたいなの建てようとしてたから逆に止めた。
2DKの平屋が建つ予定。
治療院もその近くに。せっかく治癒魔法使えるからね。落ち着いたら、施設と治療院の往復生活かな。
集まった手伝いの獣人は、300人。
皆、集まり私が前に出たら、雄叫びあげてた。
すんごい怖くなった。どっかの新興宗教みたいで!
何かスピーチしろとレビンに言われた時は、ちょっと殴りたくなった。
「私は、ただの人間です。皆さんと同じようにここに住む一員です。どうか特別扱いはせず、何でも手伝わせて下さい。種族だの何だの関係なく、この地に住まう一員として、家族として、受け入れてください。どうぞ宜しくお願いします」
ウオオオオォオォォォォォッ!!!!
うん、ドン引いた。
全員と顔合わせて、握手した。私ゃアイドルか?
そして、私の言葉は誰にも届いてなかった……。
手伝う度泣かれ、何も出来ない。
正に私今、orz状態。エルフの長から、ずっと会いたかったのだから、姿を見るだけで拝まれる。まず、獣人達が私がいることに慣れるまで待てと。
私皆の中で、何者なの?
1ヶ月、私コワクナイヨーと皆の視界に入るようウロウロ・ボーッしてたけど、皆まだ慣れてくれないのよ!
何やってんだ私。
レビンに会いたい。そして、聞きたい事がある。
旅の始め、既に土地は決まってたのに、何故二人きりであちこち連れてってくれたのか聞きたい。
今、エルフが魔法で簡易宿を作ってくれて、皆そこで寝泊まりしている。
そう、レビンと一緒にいられない。
寂しいことこの上ない。
レビンと一緒に眠ったふかふかの毛皮と、太い前足とぷにんぷにんの肉球、耳の付け根の毛が一番好き!あそこが一番理想的な柔らか……あれ?毛の記憶しかない。
とにかく、レビンと一緒に眠りたい。二重の意味で。
レビン欠乏症だ。
しかも、レビンの手伝いにジエロとフィンブル、あと虎獣人のマルムさん。とても素晴らしいプロポーションの持ち主で、獣頭なのに色気半端ない人が加わった。
そして、きっとレビンが好き。
いつも熱っぽい目線で追ってて、スキンシップ多い。私も手伝いたいと言っても、関わらせてもらえない。う~ん。
どうしたら良いのか、ライバル出現だ。
今日は、エルフの長に呼び出されているので、迎えに来た案内人エルフと森を歩いてる。
「……はぁ」
「ふふ、元気無いですね?」
「笑い事じゃないですよ。誰も何もさせてくれないんです」
「あー、それは……そうですか」
「何かあるんですか?」
「いえ、獣人の凄まじい程の熱気を見ましたからね。仕方ないかなと」
「長のアドバイス通り、なるべく姿を見せて慣れてもらうようにしたんですけど……逆に拝まれて仕事の邪魔しかしてません。あはは……」
「大丈夫ですよ。直ぐに嫌と言うほど手伝わされますよ」
「はは、程々が良いんですが」
世間話をしていると、長の家に辿り着く。お礼を言って、中に入る。
「長?失礼します」
「おぉ!来たか!奇跡の子」
やめて!ある偉人がふと過るからやめて!
「それやめてください。普通の人間です」
「普通の人間は、前世はあまり持たんの?」
エルフの長にだけは、前世持ちと告白した。永い生を生きて博識の長に、他に誰かいなかったか知りたかったけど、今まで聞いたことないそうだ。
「前世って言っても、ただ生きてただけですし、今の集落作りに何の役にも立ててませんよ」
「何を言う。レビンに前世の町の在り方を教えたのは、お前じゃろう?住民票の管理。それには住所が必要となるとめ、街道の整備、地図作成。更に、治療院の建設、おぉ、施設の建設も。汚水の浄化に、今度は学舎の案もあるのだろう?」
この狸め。全部知ってるじゃない。
この集落に入る人は把握したかった。行方不明になった時や、何かあったとき助けられるよう。
戸籍は、この世界では特に重要性を感じなかったので作らなかった。
何せ獣人。基本自由人だから、忘れっぽい人は自分の家の場所すら忘れる。
あと、スパイ対策として。
「汚水の浄化は、エルフの皆さんに作ってもらった魔道具のお陰ですよ」
ピーした後に、魔力がある人は自己にて浄化出来るが、魔力の少ない人もいる。
そこで、魔道具貸しませんと言ってたエルフに、持続浄化出来る魔道具を教わりながら作った。爆発した。
見かねたエルフが手伝って(ほぼ作って)くれたから、ラッキー!と思っていたら、獣人の皆にしこたま怒られた。チビりそうになった。
もう魔道具を作っちゃ駄目だと言われたけど、あと洗濯機とオーブンと冷蔵庫と電話と炬燵が欲しい。あわよくば、水道が!今、井戸だしね。
道具作り大好きエルフが多いので、こっそり計画中だ。魔道具貸すのは駄目で、作ってくれるのは良いなんて、エルフもいい人達が多いなぁ。
止められても作り爆発した甲斐があったよ。
「困った奴等でのぅ。エルフは、元々魔道具作りを好む傾向にある。アーシュの提案に子供のようにはしゃいでおるわ」
「しーっ!獣人は耳が良いんですから、その話はしないでください。またしこたま怒られるのは嫌です」
「もう、遅いぞ?」
「げ」
「アーシュ見てたら、直ぐに分かるわな。反省しとらんから」
だって生活の質の向上は、争いの種を無くすのにも必須だから。
「それにの、あの建築の在り方。素晴らしいの!特に治療院と施設は、動線じゃったか?それを考慮した造りは素晴らしい!エルフにも学ばせたくて参加させとるよ」
「人手は有り難いので、どんどんどうぞ。どんどん盗んじゃって下さい」
まぁ、私が考えたというより、思い出してこうだったあぁだったと口出しただけだけど。
ちなみに、設計図はフィンブルさんで現場監督ピクトさん!素晴らしい夫婦だよ。
「集落の完成までの衣食住の援助、助かってます。ありがとうございます」
「うむ、大丈夫じゃ。我等エルフは新し物好きでの、どんなものが完成するか楽しみで、皆援助も手伝いも苦ではない」
エルフ、結構フレンドリー。
人間の国の時は、う○こもしない神様に近い存在だと思ってたけど、私が提案する魔道具作りに子供のような目で見てくる。
「それで、今日はどうしたんですか?また新しい魔道具の話ですか?前世の話?」
「いや、ディヌートの事じゃ」
…………わ・す・れ・て・た!!
あまりに他エルフがフレンドリーだから、エルフ恐怖症もどっか行ったし、会わなかったから!
「あはは」
「まだ、会えんか?一応、表に出ないようこの1ヶ月地下牢に鎖で繋いである」
「ブホォッ!ダ、ダメダメ!出して!今すぐ!」
「嘘じゃ」
「……」
この狸。
「大丈夫、レビ……長がいてくれたら会います」
「レビンじゃなくて良いのか?」
「全く会えませんし、今忙しいだろうし」
「ふむ。レビンはお主の守護だと思うたがの」
「……もう、私だけじゃないし、守る人達が増えたから」
あ、自分で言って自分で沈んだ。
「そ、そうか。では、会ってもらえるかの」
「ど、どうぞ」
それでもやっぱり怖いから、長のローブを掴み後ろに隠れる。
「全く大丈夫そうではないの……」
「長?一緒に氷漬けですからね?離しませんから」
「はぁ。ディヌート!入れ」
開かれた扉!現れるディヌートさん!放たれる氷魔法……お?おや?
「大丈夫じゃ」
恐る恐る野性動物のように、長の後ろから出る。
ディヌートさんは、ゆらりと動きズシャァア!いきなり土下座した。
「え?」
「申し訳なかったぁ!」
「え?」
「娘の奴隷輪を外され気配が分かって直ぐ追ったら傷だらけのあの子がベッドで寝てて頭に血が上がり怒りが抑えられず魔力のコントロールを失っ(すぅはぁすぅ)て貴女に魔力をぶつけてしまい大変申し訳なかったぁ!」
途中、息継ぎ入りましたね?
そんなに怖くない人なのかな?
「謝罪しようにも私を見ると直ぐ踵を返して去ってしまうためいやこれは言い訳だどうか私に罰を!娘には一切責任はないのでどうか私だけに罰をぉぉー!」
「……どんな魔王ですか私……」
「本当に申し訳なかった!」
「あー、はい。私を恨んでは?」
「いないっ!」
「えぇと、じゃあいいです」
「い、いいとは?」
「私も過剰反応してましたし、お互い様と言うことで水に流しましょう」
「ば、罰は?」
「無いです。おしまい。この話は終わりです」
「良いのかの?お主の意見を聞くぞ?」
「もう、充分ですよ」
長は、ほっこり好好爺のような笑みを浮かべ、ディヌートさんは複雑な表情をしていた。
そこからまた、長と前世の話や、エルフの森、これからの事など話していたら、結構時間が経ち帰ることになった。
「さて、長居してしまってすみません。そろそろ帰ります」
「夕食を食べて行くといい」
「ありがたいお誘いなんですが、せめて夕飯は皆と一緒にとろうと思いまして」
なんて嘘。
本来は位の高い方のお誘いは断ってはいけないけど、狸だしいいや。夕飯はレビンを見れる唯一の時間なのよ。止めないで!
「何か失礼なこと考えておらんか?」
「え?いえいえそんな。では、これで」
「ふむ、ディヌート送ってやりなさい」
「分かりました」
「え?」
「駄目だろうか?」
「えっ、えーあーうー」
「駄目だろうな。すまん」
かの-273.15℃よりも冷たかったその目が、なんだか叱られた森の白熊さんに見え、思わず言ってしまう。後に、後悔したが。
「よ、よよ宜しくお願いしまっす!」
「そうか!では送ろう!」
この人も狸なんじゃ……?
あまりの切り替えの早さに、ちょっと怪訝な目付きになってしまう。本人、全く気にしてないけど。
ディヌートさんの身長は高い。ついでに筋肉質で、ガチムチといった体格。その横を歩くと、威圧感半端ない。
トラウマは、そう直ぐ消える事はないので、やや怯え気味で森を進む。長が少し気遣ってくれて、行きで案内してくれたエルフも一緒だ。
「アーシュ殿」
「ははははいぃ!」
突然話しかけられ、過剰に反応した私を眉を下げ困ったの顔をして、真剣な表情に変わる。
「娘を助けてくれて感謝する。我が子は至上の喜び、唯一無二の存在。取り戻させてくれて、心の底から感謝の念を。ありがとう」
あぁ、お父さんだなぁ。
良いなぁ。感動して、少し羨ましくて泣きそうになる。
「いいえ。こちらこそ、人族が本当に申し訳ありませんでした」
「それはやめた方が良い」
「へ?」
「人族と括るのはやめた方が良い。人族として謝罪など必要ない。種族は関係無いのだろう?私の子を拐った何かがいて、救ってくれた貴女がいるだけだ。知らず魔力の余波を食らわせた私が言えた事ではないが、貴女が背負う咎ではない。」
「…………ぅぐっ……ふ」
「ぐふ?」
「ふへへへ、そ、そう、言って、いただけると、あ、有り難い、こにょてふっ……」
噛んだ上、涙腺決壊致しました。
良いなぁ、こんなお父さん良いなぁ。
人間が、人間の癖に、人間の分際で、悪魔、穢れ人(己の快楽のために殺す人の事)、散々言われたからなぁ。バリエーション豊かだった。
次世への魂の浄化で燃え尽きろと、何か呪いっぽい呪文言ってた人もいたな。
現ゴッキス領を思い出して、ぼたぼた涙が出る。私の為だけど、厳しいお父様の顔しか思い出せない私には、とても羨ましくて寂しくなった。
案内人のエルフと一緒にオロオロしている姿を見ていると、頭をポンポンされ、レビンを思い出して更に号泣した。
「ディ、ディヌート殿どうするんですか?こんなに泣かせて」
「あ、うぅ、私のせいか」
「早く、お慰めしないと!」
「ヨシヨシ?」
今度は頭を撫でられて、号泣しながら笑ってしまった。
「余計泣いたぞ?!」
「あぁあぁぁ、そうだ!アンタ娘いるだろう?泣いてたらどう慰めた?」
「どうだった?!」
「知らねぇよっ!」
案内人のエルフ、口調壊れた。
今度はぐいっと身体を持ち上げられ、片腕に座らされ背中をポンポンされた。
「ヨーシヨシヨシ、母さんがケルの実のケーキ焼いてくれるからな。今日は3つ食べて良いぞ?」
「「…………」」
「ぶはっハハハハ!、アハハッ!ヒーッ!アハハハハハっ!」
「今度は、爆笑し始めたぞ?!」
「あー、もう大丈夫だろ?」
「3つ、ケ、ケルの実、ケーキ」
「あぁ、妻のケーキが大好物なんだ。いつも1つだから、泣いた時よく言ってたのを思い出してな」
「ハッハッ、す、すみません。見苦しいところをお見せして」
「いや、大丈夫だ。私もすまなかった」
「なぁ、獣人の姫さん。ディヌート殿が言ったのは本当の事だ。アンタが背負うものじゃない。もっと楽に構えな?」
「ありがとうございます。……獣人の姫さん?」
「皆そう呼んでるぞ?」
「げ」
一刻も早くやめさせなければ。
その後、ディヌートさんの話や、化けの皮が剥がれた案内エルフもとい、エイジャルムさんの話を聞きながら帰った。
ディヌートさんの御家族は、別の森に住んでいて今回この計画のために単身赴任中だそうだ。いつか娘さんと奥さんに会いに行きたいと言ったら、ケルの実ケーキ焼いて待ってると言ってくれた。
-273.15℃の絶対零度エルフは、娘さんラブの森の白熊さんに変わった。
私は、このやり取りがアルムさんに見られてたのは、全く気付いてなかった。ディヌートさん達は気付いてたけど、仲間だからと気にはしていなかった。
お読み頂きありがとうございます。




