20.狸じじいめ!
衝撃だ。衝撃的すぎる。
私は着ぐるみで生活したい。
身バレしないよう、猫耳でも着けようか?そうだ……耳付きカチューシャ作ろう。匂いでバレるなら、あれか?香水も作らなきゃそこら辺の臭い雑草の汁抽出して被ろう、うん。そうしよう。それがいい……
「――……シュ。アーシュ?アーシュ」
「へ?あぁ、え?何?」
「意識が飛んでたぞ」
「あぁ、うん」
エルフとの話し合いのため、今エルフの集落に向かっている。フィンブルさんの転移で、森の開けた場所まで飛び、歩いて向かっている。
あの後、直ぐ出発したのたけれど、集まる100人が愛でる会だという私のダメージは回復しない。
しかも苦手なエルフに会うとか、心に追い討ちがかかって現実逃避していた。
「はぁ」
「大丈夫だ。俺がいるから」
心境複雑だよ、レビンの馬鹿。
余計惚れるだろう?!
私もいちいちドキドキするなよ。
「……うん、頼りにしてるよ」
とりあえず普通の口調で返してみたら、痛そうな悔しそうな顔を一瞬見せて、あぁと短く返事された。
そしてエルフに集落に着くと、入口に綺麗な顔立ちに白い髪、白い肌のエルフが案内人として立っていた。エルフってやっぱり皆体格良いな。子供の頃会ったエルフは、巨人のように感じたけど、今見ても大きい。
その門番?が口を開く。
「何用だ」
「俺達は森の土地を借る者だ。長に会いに来た」
やだレビン格好いい。
木々の木漏れ日が白銀の毛に当たってキラキラしてる。
不味いよ!恋愛フィルターかかってる!
エルフとの交渉に、ポヤポヤしてる場合じゃないっての!アーシュしっかりしなさい!
「あぁ、お前達か……待て。何故人間がいる?」
えぇ、嘘でしょう?ここで人間駄目ですか?
凄まじく評判ガタ落ちだよ、人間。
人間最低論説にガックリしてると、レビンがニヤッと笑って言う。
「あぁ、彼女がアースだ」
「コレが、アース?」
コレ呼ばわり来ましたけど。
私の偽名、どこまで浸透してるの?
まさか、ここにあの氷漬けエルフいないよね?!
まさかねぇ?
幼き日の恐怖を思い出していると、門番エルフが私の前に来て、目を瞑り少し頭を下げる。
「我が同胞を救ってくれたこと、感謝する。一族をあげて歓迎しよう」
私は固まった。
「人間を恨んではいないのですか?」
「確かに、我らが幼子を拐うのは人間だ。だが、救ってくれたのもまた人間である貴女だ。拐った奴等は万死に値するが、救ってくれた貴女を同種だからと恨むことなどない。感謝の念だけだ」
「――っ!……ありがとうございます」
「礼を言うのはこちらだ」
同種だからと恨まないと言われ、だからエルフは世界の調整者なのかもと思った。
そして、人間全員エルフに弟子入りしろと思った。
あ、いや待てよ?迎えに来てたエルフは、メッチャ睨んで氷漬けでしたが?目からビーム出そうでしたけど?
う~ん。全員がとかじゃないのかな?
でも、嬉しい。こうして考えてくれる人がいて。
「では、案内しよう」
ついていった先に、少し大きなログハウスのような木の家。材料になった木も生きているようで、壁になる木の枝から所々葉が出てる。屋根は葉がわさわさ。
可愛い、憧れるこの家。
家の中に案内され、感動。
一生、縁がないと思ってたエルフの家に入った!
きっと私、現存する人間で第一号だよね!
木の家の興味が勝り、レビンを抜かして先頭で案内人についていく。応接室のような扉の前へ来て、案内人が開いてくれた。
ノック無しだけど、伝わってるのかな?
中に入り挨拶をして、気分は就職面接だね。
顔をあげた私は、回れ右をして入ってきた扉へ走り、後に続いてきたレビンにぶつかる。
「おっと。どうしたアーシュ」
「あっ、こっ、えっ、いっ」
「どうした?」
「い、いる、いるいるいるの」
「いる?」
「凍る凍る」
テンパって言葉がうまく出ない。
部屋には3人いた。重厚な木製の椅子に高齢のエルフ。脇に二人SPのように立っている。その右側に恐ろしいものを見つけてしまった。
ちなみに、私が言いたかった言葉は『あそこ氷漬けエルフいる』だ。
そう、いるの!幼き日のトラウマが立っているの。
あのエルフには顔に傷があった。頬を縦に2本。
同じ顔したのが、立っている!
「凍る?まさかあの?」
「あの、あののの」
バクる私。
その時、後ろから声が聞こえる。
「ディヌート、お主は席を外せ」
「はっ、いえしかし」
「お嬢さんが怯えとる。お主のしたことじゃ」
「……分かりました」
やめてー私のせいにするのやめてー、絶対後で氷漬けにされるー!
ディヌートさんとやらが、部屋を出ていく音がするが恐くて見れない。絶対睨んでる!目からビーム出てる絶対!
「大丈夫か?」
レビンが、背中をぽんぽんするから、少しずつ強ばりが溶ける。
すると後ろからかかる優しい声。
「すまんのぅ、お嬢さん。ディヌートが昔貴女にしでかした事は、決して許されない。貴女の意見を聞き遅きになってしまったが、必ず罰しよう」
「え?」
「ディヌートも娘だったせいか、短慮を起こした。必ず罰を受けさせるから。もう二度と近付けさせん。会わせてしまって悪かった」
長っぽいエルフが謝ってくる。
そうか、娘さんだったのか……いやでも七歳児氷漬けって……いやいやでも、う~ん。後でこのお爺ちゃんに話を聞いてみるか……。
「大丈夫です。見苦しい所をお見せして、申し訳ありませんでした。あの、後で話を伺っても?」
「あぁ。こちらこそ頼む。では、話し合いをしようか」
レビンが心配する表情を向けるので、頷いて席につく。
エルフの長からの土地の話は、それはそれは好条件も良いとこだった。
本当に、タダで土地を貸してくれる。魔物の出ない半径だいたい40㌔の敷地を自由に使用可能。
前世で住んでた町より広いよ!
広すぎだよ!一国出来上がるわ!
森の管理者として、エルフが見回りを行うが、その土地も込みで見回りしてくれる。
エルフの技術や魔道具等は、貸せない。どう扱われるかまだ判断出来ないから。
良い話すぎて怖い。
「確認したい事があります。この土地に入るものは選別されるのですか?何か制限は?」
「ない」
「人間の私も?」
「勿論じゃ。但し、森や我が一族に故意に危害を加えるものは、例え誰であろうと排除する」
「はい。種族の制限は無いのですね?」
「ない。ハーフでも歓迎する」
「……ありがとうございます」
私の考えは伝わっていたのかな?
今度、獣人達の連絡方法聞かなくちゃ。
「長にお尋ねします。エルフの総意なのですか?どなたか、この計画をよく思わない反対派などはいますか」
「ふむ……いないとは言えん。だが、何も出来ん。森の意思じゃからな。我々エルフは、森の一部じゃ意思に反して行動は起こせん」
「ではその森の意思が、突然変わることは?」
「それもない。実は、何度か試しているのじゃ」
「え?」
「別の大陸での。しかし成功せなんだ。最長で10年か……皆、自滅していく。森を手に入れようと欲をかくもの、森に選ばれたと選民意識が抜けぬもの、それぞれの理由での」
世界広すぎるだろう?!もう、試してたなんて!
胃が痛くなってくるわ。
「……エルフは……森は、もしかして共存をお望みですか?」
「ほう!まさかその概念を知っておるとはの!
そうじゃ、創世記以来、徐々に変わって行った。ワシらエルフも引きこもってしまったのがいけなかったんじゃが、今種族はバラバラじゃ。そのせいで暴走し、大地の力も激減しておる」
私達人間のせいですね!すみません!
「我々エルフが、本来調整する筈のものが引きこもり過ぎてのぅ、逆に森に悪影響となった」
「森の力の澱み?」
「そうじゃ。もうずっと解放を試みるも、バラバラになってから根深い。それでも、少しずつ解放出来ておるため続けておるんじゃ」
マジすか。世界レベル怖い。
「ですが、共存は理想ですが、他種族が集まれば……多分、 諍いも増えると思われます」
「そこでのぅ!アース様の出番じゃ」
最早嫌な予感しかしない。
さっきから、皆静かなんだけど。知っていたのかこの計画。
「以前から聞いておるよ?てっきりどこかの新しい神でも生まれたかと思うたわ!ハッハッハッ!」
「うぅ。つまり、私を何故か慕うものを集め、意思の統一を図る。集まった他種族との潤滑油の役目に私を?」
「お主はのぅ、何とも不思議なんじゃ。ワシも長生きしておるがな、人間はずっと固定観念に囚われておる。まぁ、たまにそこから抜ける者もおるが、そういう場合は人間の国を出る」
私も出たじゃん!
私の表情を読み取ったのか長がそのまま答える。
「お主は出ざる終えない状況で、じゃろ?留まって、奴隷として捕まる者へ、しかも異種族へ手を差し伸べるのはおらんかった」
どんだけ最低だよ、人間~。
エルフって最長8000年あたりだぞー?
その間、誰も奴隷解放唱えないってアホか?!
たがら、いつまでも発展しないんだよ!
「長きに渡り、人間がどの種族へも隔たりなく、しかも積極的に接したのはワシはお主が初めてじゃ。
獣人も、他種族を蹂躙しようという意思は薄くとも、積極的に関わるものはいなかったんじゃよ。
それが最近、このレビンが最初にそれを破った」
えぇ?!やだレビン格好いい!
「人間の国に囚われた奴隷獣人を各々の種族ではなく、協力して救出しようと各種族に声をかけたんじゃ。最初は、協力してくれる種は少なかったが、今は増えて2/3は参加しておるな。
その発端が、お主じゃ」
は?
「およそ10年ほど前に、他種族へ声をかけるときワシらに会いに来たレビンが、お主の事を話してな。人間の子供が奴隷解放を望んでると聞かされ信じなかった。じゃがの、ディヌートからの情報も、他の種からの情報も人間の子供なんじゃ。ワシ、ボケけたかと思ったわ。アッハッハ!」
「う。しかし今回の計画に、私が組み込まれたのは何故ですか?」
「最初はレビンから、森の一棟分の土地を借りたい提案があっての、ワシらも同胞の恩もあり承諾したんじゃ」
最初は、確かに独居生活希望だったからか。
え?土地決まってたの?!
「それが昨日、増えるから、もっと広い土地を寄越せと言われての」
「す、すみません」
「いや?ワシとしてもありがたい申し出じゃ。それで、この計画をかのアース様に加わってもらおうと思ったのじゃよ」
「決まったの、昨日なんですか?!」
「そうじゃ?ただ、無理にとは言わん。レビンはまだそれを反対しておるしの」
「え?」
「また、お嬢さんの負担になるのが心配なんじゃの」
「……」
「お嬢さんの好きにしなさい」
あんなの全部聞かされて、私、ハーフだけの施設だけが良いなんて言えるかぁ!
絶対分かってて全部話したんだよ!
このエルフ狸だ!
あぁぁあー!断れない!
「(……長、狸だよ。狡いなぁ……)」
「アーシュ?」
「へ?」
レビンにどこか焦ったように声をかけられる。
ひっ!まさか、声に出てた?!
恐る恐る長を見ると、肩を震わせ赤い顔。
あ、詰んだ。私、氷漬けだわ。
「あーはっはっはっ!た、確かにの!ワシ狡いわ。それほど期待しとる。お嬢さんならいるだけで大丈夫じゃ。存在だけで、他種族との潤滑油になる。引き受けてくれんか?この計画を」
「う」
遠回しに誘導されるのではなく、直で来たよ。
やだーやりたくない。そんなストレス溜まるの。
余生を送るつもりだったのに、何故こんなことに……あ、自分のせいですね。
自分がそんなものになれる気がしない。
寧ろ、皆私見て嫌な記憶刺激されるような気がするんですが。
「アーシュ。断って良いぞ。何とかするから」
「ほ、赤虎に言われては無理強いは出来ん」
「赤虎?」
「ちょ、長!」
「レビン、赤くなるの?」
「ならないぞ?もう、な?」
とても穏やかな顔で、私の頭を撫でる。
くっ、この天然タラシめ!
赤くなるのって、興奮したり?そんな種族、虎にいなかったような……?
「ほらほら、アーシュ断れ」
「ちょっと待った!アーシュ様が断ると私が近くに入られない!」
「そうですよ!是非受けて欲しいです!」
「兄さん?義姉さん?アーシュが自分で結論出すまで、口を出さない約束でしょ?」
我が友は、あの二人を抑えてたのか。
通りで静かだった。ははは……。
さて、どうするか。
「受けるには、条件があります。私を隠して頂きたいのです」
「隠す?」
「ゴッキス領には、以前世話になった者達がいます。私がそのような状況だと知れたらどうなるか。一応、獣人の国の大まかな情報を手に入れるだけの諜報部隊もありますし、私は表に出さないで頂きたいのです。それから、私を恨んでいる人もいるでしょう。襲撃されては叶わないので」
「……ふむ、そうじゃの。分かった」
「では、お引き受け致します。住みます。皆とエルフの森に」
レビン以外は、笑顔でした。
お読み頂きありがとうございます。




