19.それは共存ですか?
振った男に寄り添われながら、ぐすぐすと失恋の痛みで鼻をすすっていた私は、案の定眠れなかった。
こんな時に優しいなんて残酷なんだぞ!
優しくされるから、諦められないんだよ?
諦めないけどさ!
心で、ぐるぐる愚痴と決意を繰り返していると、洞窟内に一瞬で強大な魔力が溢れる。
「っ?!何?」
「……早いな」
やはりレビンも起きていたのか、そんな言葉が聞こえる。状況を知ってそうなので、聞こうとすると、レビンの奥の暗闇から声が聞こえる。
「「アーシュ様っ!!」」
「は、はい!?」
暗闇で見えないけど、二人以上はいるみたいだ。
しかもアーシュ様ときた。
思わず返事をしてしまった私は、暗闇に目を凝らした。
「あぁ。アーシュ様お会いしたかった。幾度この日を夢見たことか!なぁ、おまえ」
「本当ですね、あなた!私は感動で今にも倒れそうです!私達を覚えておいでですか?!」
え?いや何も見えないのよ!誰なのよ?
「はぁ。お前ら、アーシュは夜目効かないんだぞ?大体、この時間に飛んでくるな。眠ってるに決まってるだろうが!」
……貴方のせいで眠れませんでしたけどね?
レビンが暗闇に向かって怒ると、光が生み出され洞窟内が見えるようになった。
そこに、見覚えのある男性と、多分知らない女性と、呆れ顔のジエロが立っていた。
「あ、ジエロと……蛇のオッサン?!と、どちら様でしょう?」
「ジエロ」
「ごめんなさい。止められなかったわ」
「おぉ!そうです!蛇のオジサンですよ!」
「狡いわ、あなた!覚えて頂けてるなんて!」
かつて、レビンと一緒によく捕まっては解放してた蛇のオッサンが、何か感動しながら話しかけてきた。隣の女性も逃がした人なんだろうか、蛇のオッサンに抗議している。
レビンとジエロは、ため息をついて遠い目をしている。
えぇと?何だろう?コレ。
「お会いしたかった。貴女様が婚約破棄、家から絶縁され、修道院送りと聞いて、私は、私は~」
蛇のオッサン、もといフィンブルさんは泣き出した。
「そうです!何度お迎えにあがろうと思ったことか!ですが、レビン様の捜索でも見つからず、どれだけ心配したことか~」
フィンブルさんの奥様、ピクトさんが一緒に泣き崩れる。
あまりのカオス状態に、レビンに助けを求めて目線を向ける。
「あー、その、こいつらはお前が大好きだ!」
「はぁ。レビン、ちょっと引っ込んでて。アーシュ私が話すわ」
この状況を一言で纏めたレビンの言葉で、余計こんがらがった頭に、ジエロの救いの言葉が聞こえた。
ジエロの話だと、どこにそんな要素があったのか、フィンブルさんは私を神か何かのように崇めるほど思ってくれているらしい。奥さんのピクトさんもかつて私が逃がした人らしく、フィンブルさんに負けず劣らず私を神格化していると。
何故そうなったの?!
それで、今回建築の為に来てもらったとのこと。
ジエロがとても言い辛そうに、私を捕か……保護するための、それはそれはお城みたいな建物を建てたと言う実績もあるしとのこと。
聞き捨てならない言葉が聞こえかけた。
ついでに、私がゴッキス領(元ゴッキス国)で行方不明になった時、転移の魔法を習得して探し回ったとか。今日もジエロが着いた途端、転移で飛んできたって。
……おぉう。重たいなんて思ってないです。
ジエロが暴走気味の二人に説教していて、私達は早く眠るように言われた。
お言葉に甘えて、私達はまた寄り添いながら横になった。
「レビン、蛇のオッサ……オジサンあんな人じゃなかった気がする」
「あぁ」
「もっと怖くて厳つくて、私を敵視していた気がするんだけど?」
「……あぁ」
「何があって、ああなったの?」
「覚えてないのか?お前、あいつに……なんていうか、まぁ、お前の何かに衝撃を受けてああなった」
「私がやったことは、腹立って頭大の石を風に乗せて顔面ストライクした記憶しかない」
当時何かと嫌味を飛ばして来たフィンブルさんは、人間の癖にが口癖だった。
しょっちゅう泣かされてた。
確か協力しないと助けられない子達がいて、私の手は借りたくないとただこねるオッサンにブチギレて、石投げたんだ。
顔面ストライク。その後、協力的だったけど……あれで何かに目覚めたとしたら、それは目覚めてはいけないものだったのでは?
「じゃあ、それだ」
恐ろしい事をさらりと肯定するレビンに反論しようとすると、ジエロさんがやって来て、お母さんのように、寝なさい!とお叱りを受けた。
流石、我が友。
「おやすみなさい、レビン」
「おやすみ、アーシュ。よい夢を」
でも、フィンブルさんの登場で、失恋後の気まずさが薄れたのはありがたい。
また頑張ろう。
少し遅めの時間帯に目覚めて、何とはなしに横向いたら、顔二つが間近にあって固まった。
よく見ると、フィンブルさんとピクトさんがにんまりしながら私を見詰めていた……。
「……何してるんですか?」
「いやぁ、ちゃんと息してるかと確認を」
「そうです!決して、連れ帰りたいなんて」
「……思ったんですね?」
二人は慌てて弁解をする。
ジエロさんが気を付けろって言ってたのが、少し分かった。本当に、どうしちゃったの?フィンブルさん!何があったの、フィンブルさん!
その後、またジエロに説教されてました。
朝食を食べ終え、お茶を飲んで今後のお話し合い。
途端に、皆真剣な面持ちになる。
緊張感漂うなかで、レビンが口火を切る。
「アーシュ。エルフの森に住むのに、実は条件が足された」
ほらやっぱり!エルフは、極悪非道の他種族完璧平等者なんだー!無理難題言ってくるんだ!
私の中のエルフ像がどんどん酷い事になって、悲痛な顔をしている私に、レビンが苦笑して話す。
「せめて、100人以上人数を増やせと」
「は?」
話を聞くと、森が広大過ぎて数人手が入っただけではあまり影響は得られない。
なら、人数を増やそうと。
何千人になってもいいよ、受け入れるよ、寧ろ増えてくれ、土地はあるから。
エルフも他種族とそんなに交流したことないから、最初は試験的に100人くらいで様子見よう。ちょっとずつ増やしてね。
これがうまくいったら、他の森でも同じように解放していくから頑張ろう?という内容。
あ、何だろ……でかい、でかすぎる。話がどんどん大きくなっていってる。ちょと怖い。
でも、あちらも私達の手が必要と言うことは、土地を貸してやるから従えと立場の上下が出来たというより、共存しようと持ち掛けられてる?
「それは、共存共栄の提案ということ?」
「きょうぞんきょ?」
え?その言葉すらないの?ここは。
人間の国はその気配すら無いし、獣人は各々が強いからあまり他を必要としないのかな?
他種族を敵対視している人間の国から外に出てみれば、皆仲良く夢のように過ごしてるのかと思ったけど、なんと寂しい世界。
各々勝手に生きている。
遥か昔は、まだ手を取り合っていたのに、何でこんな世界になったのか……。
「【共存共栄】。他種族が敵対することなく助け合って生き、共に栄えていくことなんだけど……。
エルフ達は自分達だけでは森の力を解放できない。だから、私達の存在が必要。
流石に共に栄えようとは言えなくとも、共に森を助けよう。一緒に生きていこうって事で良いのかな?それをおぉう?!」
フィンブルさんとピクトさんが号泣してる?!
ジエロもレビンも目見開いて、何だこの生き物みたいな顔ね?!
え?おかしな事言った?
フィンブルさんの涙が滂沱として流れ落ち恐ろしい事を口にする。
「やはり貴女は、かみ……」
「いやいやいやいや?!誰でもやってるよ!!エルフは森と共存してるし、何にだって言えるから!
今、ここに生きているだけで、誰もが自然と共存してるんだから」
前世では、自然を破壊するほど文明が進んだから自然との共存をと謳われていたけど、ここは文明が発達していないから、まず種族の共存からということ?
それをエルフはやろうとしてるのか、森の意思なのか……?
「それを今度は、意思の持つ人同士で共存しようとしてるんでしょ?獣人は、特に自然に敬意を払って生きているんだから。それが他種族にってことで……あ~何だ、う~ん、そういうこと?かな?」
やめて!キラキラした目で見ないで!
「……エルフがそう意味を持って言っているのか分からないが、多分そうだと思う」
レビンが、複雑な表情で言う。
フィンブルさんは何故か跪いておかしな事を言う。
「やはり、アーシュ様が率いて頂けたら……」
何を?!
「やめろ!フィンブル!何度も話した筈だ」
レビンがそれ以上口にしないよう遮る。
私を蚊帳の外にしないで欲しい。
だけど、聞いてはいけない気もする。物凄く嫌な予感しかしない。
話題を変えよう!
「ねぇだけど、ハーフの子達がどれ程存在するのか分からないけど、最初に100人集めるって無理じゃない?」
「あ?あーそれは、全く問題ない。いや寧ろ別の問題が……」
「何が?」
「希望者が多すぎて」
「…………まさか?」
「そのまさか……メンバーは愛でる会だ。諦めろ」
「ぐえぇぇ」
ここでも聞くことになろうとは。
お読み頂きありがとうございます。




