15.赤虎が今や…
ジエロとレビンの単なる会話だけです。
めんどくさい場合、読まなくとも大丈夫です。
「……アーシュは馬鹿だ」
「えぇ、さっきのでよく分かったわ」
「せっかく人間の国から出て、色んなしがらみから解かれたってのに……なんであんなの思い付いちまうんだよ」
「やりたい事って言ってたわ。それこそアンタに却下されるとは、露ほども思ってなかったみたいよ?」
「……でも、駄目だ。アーシュには幸せになってもらいたい」
ため息が出る。
「ハーフ……半獣までなんて。本当に慈悲深き尊い女神のようなお方だこと。」
「やめろ」
「本当の事よ。聞いたでしょ?いくら公爵家で最高水準の教育と情報があったとは言え、あそこまで治癒を取得するには……多分、2~3回死にかけてるんじゃない?」
「そんな情報なかった」
「あんなにお転婆なのよ?こっそり死にかけてたに決まってるじゃない」
「普通のお転婆は、こっそり悪戯したり、元気よく遊んだりするもんだろ?!何だよ……こっそり治癒魔法極めて、死にかけてるなんて」
目に浮かぶようだ。
恐らく回復薬でも助けられない獣人でも見付けて、助けられない事を悔やんで、自力で魔力を高めたんだろう。
「公爵家よ?護衛もいるし、死にかけるほどの怪我なんてしないわ。例え傷付いても治療師も常在してる。自力で治癒を使う場なんて無いわ。
……完全に私達獣人の為に、覚えたのねぇ。もう異常だわ」
「……」
「救いようのない大馬鹿に、つける薬は無いわ。私達はあの子に救われたけど、あの子は誰が救うのかしらね?
……あんまりのんびりしてると、兄さんが出てくるわよ」
「フィンブルか……」
「えぇ。食事の前に言った通り、今回の私の役目はあの子を連れて行くことだったのよ。呑気に湖に浮かんでて、呆気に取られちゃったわ。
アンタ、あの子にどれだけの獣人が狙ってるか教えてないなんて馬鹿なの?」
「俺が守ればいい。アーシュは余計な事知らなくて良いんだ」
「いつまでも隠しておけないでしょ。それに、今回みたいにあの子に怒られて、ショックで呆けてる間に連れ去られちゃうわよ?」
「う」
そうだ。
アーシュが、何に怒ってるのか分からなくて、何で泣きそうなのか分からなくて。
……俺が告白したのが、そんなに嫌だったのかとショックで……。
「(やってらんない。このバカップル)
アンタ達……やめた。私もあの子欲しい。兄さんの元にいた方が、一緒にいられるし」
「駄目だっ!亀子!」
「あ゛ぁ?!」
「す、すまん。つい癖で」
「今度言ったら殺す。もしくは瀕死にして、追いかけられない水中であの子を連れ去る」
「や、やめろ」
「フィンブル兄さんは、ずっとあの子を崇め奉ってるわ。気色悪いほど。蛇だからか物凄い執着よ。
でも、あの子の望みを叶える為に全財産も命もかけるでしょうね。結婚して、義姉さんも加わって更に酷くなったわ。
アンタは?何してるの?」
亀子改め、ジエロの双子の兄フィンブルは、蛇だ。世にも珍しい、亀と蛇の双子。
アーシュが婚約破棄されたとき、自分の手で幸せにすると言って、アーシュ専用の家を建てている。巨大な檻とも言う。
結婚したのに、嫁もアーシュ信者だ。
頭が痛い。
「獣人は、情が深いんじゃねぇ。執着が酷いだけだ」
「アンタに言われたくないわね」
「俺は別に」
「ずっと独り占めしてるじゃない。
リューみたいに誘拐でもしなきゃ会えないほど隠しておいてよく言うわ。」
「あれは……」
「馬鹿王、元、竜王ね。アレが無くても会わせないつもりだったでしょ」
「そんなこと」
「あるのよ、ぶぁーか!」
「……」
「どうせ、土地の目星ついてんでしょ?
あの子は、今アンタに拒否されて、アンタのせいで泣いてるけど、何してんのアンタは?
ちゃっかり出て来るときに、結界まで張って」
だってよ、あまりに自分の事そっちのけで、また他所に手を差し伸べようとするから。
「そんなに大事なら、全ての願いを叶えてやりなさいよ。種族なんて、あの子とっくに乗り越えてるわよ」
「……」
「男見せろや!へたれがっ!」
「へた……」
「そう、じゃあ。種族どころか性別越えて、私があの子貰っちゃおうかしら」
「やらん!」
「だったら、いつまでウジウジしてんのよ。ほら!」
ケツを蹴られた。
諦めさせられないなら、アーシュの望みを叶えてから、アーシュの幸せをまた探すか。
「……その幸せが、あんただと何故気付かないのかしらねぇ。ほんっと、世話の焼ける虎だわ。アーシュも、何もこんなの選ばなくても……」
「何か言ったか?ほら、アーシュが諦めないなら、亀……ジエロにも手伝って貰うぞ」
「死にたいようね?」
「やめ、悪かったって!」
昔、獣人にすら恐れられた赤虎がいた。
だが一方で、英雄豪傑とも言われていた。
本当は、ある白虎が私怨で、人間を縦横無尽に殺し国を潰して回っていただけだが。
白虎だったものは人間の返り血で赤く染まり、赤虎になった。
赤虎を見掛けたら、それはもう、死と同義されるほど。
人間は、忌避色の紫眼を持ち、赤く染まった虎に恐れ戦いた。
「……変われば変わるものねぇ。今やあの赤虎が、人の子に一喜一憂してるんだから。
あの子が女神のようなら、アンタは英雄だったのよ?」
「何、ぶつぶつ言ってんだ?気持ち悪いぞ」
「ふふふ……この、へたれロリコン」
「…………」
女神と英雄なら、お似合いなのに……。
蓋を開けたら、貧乳自己犠牲の娘とへたれロリコン虎じゃない?
夢がないわぁ。
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