14.拒絶
木々の間をサクサク踏み鳴らし進んでいると、ジエロが口を開く。
「アーシュ様?確か今住む場所を探しているとか」
「え、ぇぇはい」
本当に私の情報駄々漏れじゃない!犯人は奴ね。
こんなんで、土地探し上手くいくのかしら?
あ~そういえば、話をするのも忘れてた。
はぁ。
「私ならそれを提供出来るかも知れないわ」
「……えっ?!」
「私の住む土地は、北なの。高い山に囲まれ冬は長く雪が深いけど、安全面で言ったら好条件よ?」
「長い冬……そこに住む人達の防寒対策は?寒さに弱い種族も住めるよう何かあるんでしょうか?
春は?どんな様子ですか?」
雪が深いならば、食用となる獲物の数も少ないだろう。高い山ならば日の射す時間も短く、作物も育ちにくいだろうし。
寒さに弱い種族も住めるような対策もなければならない。私の野望の為には。
野望を知らないジエロは、私が寒さが心配だと思ったのか、
「そうねぇ。アーシュ様は人間の身だものね。あまり家から出なければ大丈夫よ」
「家から出ない……」
「春は短いわ。その土地に合った作物なら、育つけど…寒さに弱い種は無理ね。冬は皆家で過ごし、冬以外は農作業が主ね」
冬は、家で出来る内職を考えれば或いは……。
ちょっと、選択肢に入れておこう。
「まさか、そんなに興味を持ってくれるなんて思わなかったわぁ……ね、このまま北に行かない?レビンを置いて。私が護衛するわよ?」
「へ?」
「アーシュ様……泣いてたでしょう?」
「――っ?!」
「獣人は耳も良いのよ?目元も赤いし、レビンが何かしたんでしょ?そんな男置いてっちゃいなさいよ」
「あ、いえ、その別に何も」
いい笑顔で惚れてるけど、お前人間だから他所で男捕まえろなんて、好きな人から言われて泣いたなんて言えない。
思い出したら、腹立って来たわ。そんなので惚れたなんて言わないでしょう?独り占めしたいとか、自分に向いて欲しいと思うのが普通じゃない!
サラ達みたいに、種を超える程好きなら問題ないじゃない!
結局異性として好きなのではなくて、家族愛に近いんだ……人間がそういう対象にならないんだろうな。どんなに頑張っても変えられない種族から否定されたら、私どうすれば良いの。
でも一緒にいたいし、離れるのはやだ。
私が死ぬまで番を作らないと言うなら、それを信じて、それまでずっとアピールしよう!幸い外身はピチピチ(古?)17歳だもの!寿命まで攻めれば、私に恋に落ちてくれるかも……。
一瞬、婆さんになっても片思いとか考えがよぎり、落ち込みそうになる。
「有り難い申し出ですが、私、レビンとやりたい事があるんです。まだ話せてませんが……。でも、北の方の土地も考えてみます。安全第一ですしね。ありがとうございます」
「そう?私もそれに協力するわ」
「荒唐無稽な考えで……まだ何も策は無いし、上手くいくかも分からないんです」
「一緒に考えるわよ。私も混ぜて?」
有り難いけど……話を聞いてもそう思ってくれるかな?
「ありがとうございます。じゃあ、レビンに話す時一緒にいてください」
「楽しみだわ!」
その後は、敬称をやめてくれだの、言葉遣いを普通にしてくれだの言い合って、お互い敬称無し言葉遣いも普通にと落ち着いて笑い合った。
いい人そうだ。計画にも参加してくれると嬉しいな。
美人だしスタイル良いし乳でかいし……そういえば、何の獣人なんだろ?
夕飯の足しに木の実を採って洞窟に近付くと、レビンの声がする。
「アーシュッ!!遅くて心配した!あと、誤解させてすまん。アーシュは気味悪くないぞ!!」
「は……?」
「全然気味悪くない!感情的でもない!普通の事だ。
乳は……これからだ!心配するな!」
レビンが否定するのそれだけ?
一番肝心な、種族は何も言ってくれないんだね。
「はは……ありがと。私もいきなり怒って、ごめんなさい。乳はこれからよね!」
「あ、あぁ」
「アンタ達……何馬鹿な会話してるのよ……」
あ、ジエロ忘れてた。
レビンが、ジエロを見た途端固まった。信じられないものを見ている表情だ。
「……おま、ジエ、ロ?」
「そうよ。さぁ、馬鹿レビン?お話しましょうか?アーシュ、ちょっと待っててね」
「え、え?ちょ」
そう言ってジエロはレビンを引き摺って行った。
昔からの知り合いでも、あんなに驚くなんて……まさか元カノ?!
あり得る!だって乳デカいし、綺麗で姉さん女房みたいな頼りがいあるし乳デカいし……お似合い。
想像だけで大分精神的ダメージを受けた私は、大人しく夕飯の支度を始めた。
夕飯終わったら、計画を話してみよう。後、ジエロに恋人か夫がいるか聞かなくては。
一人でまた悶々としていると、二人が戻ってくる。レビンは、機嫌が悪そう?対するジエロはいい笑顔。何があったの?
夕飯も片付けも終わり、ではこれからどこを目指すかと言う話し合いが三人で始まる。
「レビン、昼間に言ってた話したいことなんだけど……」
「あぁ。どこか行きたい所でもあるのか?」
「ううん、違う。私サラ達に会って、やりたい事が出来たの」
「何だ?」
「受け入れ場所を作りたい」
「受け入れ?」
「受け入れて、守って、笑って安心して生活出来る場所」
「だ、から、探してるだろ?」
「私だけじゃない。獣人と人、共に暮らせる場所」
「「……」」
「サラ達は、簡単じゃなかったとしてもお互いを受け入れた。あんな風に、種族関係無しに過ごせる場所を作りたいの。
それに、もし二人の間に子供が出来たら?獣人と人間のハーフは隷属魔法が効く分、人間の恰好の餌食になる。サラ達が人間の国に住み続けるのは危険なの。本人達の意思も尊重したいけど、何とか外に出させたい。安心して住める場所を作りたい。
だから、お願いします。レビン、私に力を貸してください」
私は、頭を下げる。レビンからの反応は無く怖くなってくる。
ええい!やりたい事見つけろって手伝うって、言ってくれた言葉を信じよう。
「私は、見たの。ハーフの子を。人間の奴隷と捕まえた獣人を無理矢理薬で、」
「やめろっ!アーシュには関係ないだろっ!!」
「聞いて、お願い。知ってるの、助けた子達にハーフの子がどうなったか聞いたの。外では獣人からも虐げられ弱くて生きられない。人間の国では隷属させられる」
「やめろ!」
「聞いて。例え強制されても、生まれてくる命は生きる権利があるの。虐げられたり隷属させるために生まれてくるんじゃない」
「……」
「……誰でも笑って過ごせる場所を作りたいの。自己満足だろうがなんだろうが、作りたい。その為の土地を探すのをどうか手伝って下さい。そして、守るための力を私を鍛えてください!お願いします!」
うんと言うまで、土下座する!
人間の国では、人間の奴隷と強い種族の獣人を媚薬と麻薬を混ぜた悪魔の薬で、強制的に行為を強いて子を生ませている。ゴッキスでもそうだった。
ただ生命力の強さの違いか、子が出来ることは稀。生まれても、直ぐ人間に隷属させられる。
一度、そうとは知らず解呪をして、外へ逃がした子がいた。その子は、外でも虐げられ誰にも守ってもらえず魔物に食われたと、同じ村の子から聞いた。
ただ捕らえられた獣人なら奴隷の腕輪なのに、隷属が掛かってる時点で気付くべきだった。
あの時は、獣人に効く隷属魔法を新しく完成させたのかとそちらに気をとられ、まさかあんな方法で人と獣人の子を生み出していたなんて考えもしなかった。
本当、私はいつも何もかも遅い。
「お願いします!」
「……駄目だ。頭を冷やせ、アーシュ。あいつらは生きていても辛いだけだ。隷属でも生きるならそれで終わりで良いじゃねぇか。何でそれまで背負い込むんだ。アーシュには無理だ。出来る訳がない。それは諦めろ。サラ達はそれも分かっていて一緒になったんだ。お前がしゃしゃり出てくる事じゃねぇ!」
「そんな、……じゃあ私を鍛えてください!」
「駄目だ。そんな理由で強くなりたいなら教えられない」
「どうして?!」
「駄目だ!そんな考えは捨てろ!」
そう言って、レビンは洞窟を出ていこうとする。
「待って!お願いします!お願いだから!何でもする!精神魔法も隷属も解呪出来るようになったし、解毒も出来る!治癒は、蘇生は出来ないし欠損部は戻せないけど、心臓さえ動いていれば傷も治せるようになった!」
「貴女それ、本物の聖女か高位神官の……」
「農作物や建築も勉強したけど、それは所詮人間の国の中の事だけだから。それに、戦い方も知らない。
だから、お願い、教えて下さい。鍛えてください……お願いします」
レビンは、背を向けたまま一言。
「駄目だ」
そのまま出て行ってしまった。
「面白そうね。でも、アーシュ?勢いだけは良かったけどもう少し考えなさい?」
「な、にを?」
「レビンは最初、貴女になんて言って外に連れ出したのかしら?」
「?」
「レビンの所へ行ってくるわ。貴女も少し頭を冷やして」
「……」
ジエロがレビンの後を追うのを見ていた。
「……最初?……やりたい事、やれって、言ったもん。レビ、ンがそう、言ったんだもん」
レビンに初めて拒否されて、頭ごなしに否定されて、ただ胸が痛くて涙が止まらない。
「いい加減、愛想尽かされたかなぁ……」
次々に溢れる涙も拭かず、出ていった洞窟の入口を見ていた。
戻ってくる事を期待して。
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