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10.愛でる会

 好き?……満更でもない、いちゃいちゃ……。

 うん、駄目だこりゃ。17年も恋愛沙汰から離れてたら、そんな感情など忘れてしまったわ。

 精神年齢62でも、恋愛年齢0に戻ってる。


 どうなんだ?前の時は……確か、

 一緒にいられて嬉しい。会うと嬉しいし楽しい。

 近くにいると安心するけど、ドッキドキ。

 離れると寂しいし、不安。


 ふんふん。よし違う。

 ドッキドキと寂しいが足りない。

 今寂しいのは、精神ダメージでボロボロだった所から、立ち直って直ぐに離れたからだ。

 それにもし好かれてるなら、回復した途端『俺証明してくるわー』と、即出掛けたりしないでしょ?

 一緒にいてもドッキドキしない。

 うんうん。違うね。兄的ポジションだ!決定。


 だいたい、獣人に人間は恋愛対象ではないだろう。憎むべき存在だし……私憎まれてないな。無いよね?


 でも私、八つ当たりするわ、ヒステリックに物壊すわ、鼻水垂らして泣き叫ぶわ、乳無いわ、中身62歳の記憶持ちだわ……うん。無いわ。あっちから断られるわ。


 悶々と考えた結果。無いわ!となった。




 竜人族の王が変わり、国中ワタワタしている。

 レビンは、ちょっとそこまでの軽いノリで出ていったのに、3日帰って来ない。あんにゃろ。

 相変わらず、引きこもっている私は新王に挨拶と謝罪までされ、かなり疲れた。おかしいな、私、ひっそり生きていきたかった筈なのに……。


 驚く事に、リューさんは近衛騎士になった。

 リューさんは近衛騎士になった!大事(オオゴト)な事なので、2回言ってみました!

 元々騎士の家系で、常に強さを求め生きてきた体育会系だったようで、今回は新王妃様の近衛騎士に任命され、王や王妃を警護しつつ、アドバイス役となるよう。妙に納得してしまった。


 様々な配慮から、私は居心地良く過ごさせてもらいながらも、少しずつまた不安になりつつあった。

 これからどうしよう。どこに行けば良いのか迷子になった気分だ。どこに行っても、人も獣人もいる。

 竜人の元王のような考えの人に、また会うかもしれない。対人恐怖症のように、知らない人に会うのがとても怖い。


「自称お兄様よ。妹は悩んでますよ。っと」


 レビンと一緒にいる事も、頼りすぎて依存してはいけない。清く正しく独居生活のために、勉強しなければ。それにはまず、地理と農業と建築と魔物と戦う術。やることは、いっぱいある。

 

「よし!まずは図書室で地理の本を借りよう」


 部屋を出て図書室へ!連日、戴冠式やらお披露目やらでバタバタしているメイドさんを掴まえ、場所を聞く。忙しいから案内を断り、人を避けながら暗い方暗い方と歩き、そして、迷った。


「竜人はさ、飛べるから良いよね。でもさ、飛べない各種族の人だっているのにさ、三階のドア開けたら外ってどうなの?危うく、落ちかけたよ」


 独り言で、ブチブチ文句を言う。疲れて一休みに座っていると、突然声がかかる。


「アーシュ!」


 え?……誰だ?

 声をかけたのは、長身の雪のように白い髪に一筋の黒。瞳は、人間によくある金目。非常に整った顔立ちをしているが……ボロボロの旅装が、残念感を増している。

 え?本当に誰?

 今世で学んだ事がある。顔の良い男にろくな奴はいない(元婚約者然り、その側近然り)。


「なんだよ、お前迷子か?俺が居なくて寂しくて探しに出たのか?」

「……」

「やっと見つけて来たんだ。お前の喜ぶもの!戻りは無理できなくて、時間喰っちまったが」

「……」

「アーシュ?」

「どちら様ですか?そう馴れ馴れしく名を呼ぶなど、失礼では?」

「…………ぶっ!はははっくっくっく、ブハッ!」

「何がおかしいのですか?」


 失礼極まりない男を睨みつける。


「まぁそうだよな、お前鈍いもんな」

「なんですって?!」

「まあまあ、俺だよ俺」

「オレオレ……詐偽!」

「違う!レビンだ!」

「……レビンは、貴方のような目の色ではありません。彼の子供姿を見ましたが、その髪の配色ではありません。声も違います」

「人身になると、声変わるんだよなー。しっかし!お前人身にそんなに警戒して、獣頭や獣だと無警戒なのな?じゃあ、ほれ!」


 顔がブレると、見慣れた獣頭と瞳の色が出てくる。……変わりすぎだよ。どれだけ幻術使えるんだ!

 一人置いていかれた腹立たしさと安心と寂しさが一気に溢れ、涙が滲む。その顔に手を伸ばす。


「お、おい?アーシュ?」


 両手でレビンの頬を包みその毛を触ると、あぁレビンだなと実感し、……ムギュルと薄い頬肉を鷲掴みする。


「は、はーひゅ?」

「拐われた場所によくも置いていったわね!馬鹿レビン!だいたい証明なら、私を連れていきなさいよ!オッサンレビン!」

「ほ、ほっはんははひ!」

「何言ってるか分からないわ」

「ほほは、はひひはっは?(そうか、寂しかった?)」


優しげで慈しむような瞳に、 何故かその言葉だけ理解出来たけど、腹立つので知らない振りをする。


「は?何言ってるの?……どこ行ってたの?」

「毛むしられるかと思った。元ゴッキス国だ。だから、連れて行けなくてな。不安だったか?

 最強の護衛が付いてるから、大丈夫かと思ったんだが……」

「ゴッキス国に?!ん?護衛?」

「リューだよ」

「最強……女神が最強……」

「あれで俺より強いぞ」


 そういえば、元王がレビンの事を小国なら潰せるって言ってた……それより強いって……。

 私の周りはとんでもない人達がわらわらいるな。

 自分の置かれてる状況に少し気後れしていると、レビンの後ろから怒鳴り声が聞こえる。


「おい!レビン!てめぇ、人を運び屋扱いした上、放っておきやがって、自分は女とイチャついてんじゃねぇぞ!」

「お!すまん。ブレン」

「いちゃ……っ?!」

「ああ?おいこれ、噂の偽善ドワーフか?」

「ドワ?」

「おい」


 現れたのは、真っ赤な髪に真紅の目。

 つり目の攻撃的な印象を受ける青年だった。プラス格好いい。獣人は何なの?人身になると、イケメンしかいないのかしら?

 というか、ドワーフって何?偽善は何となく想像つくけど……ドワーフって?問うように目線をレビンに向けると、言いずらそうに、


「あー、アーシュ?こいつはブレン。ブレンに、道中運んでもらったんだ。早いから」


 そこを聞きたいのではない。ジーっと見ていると、


「あ!そうそう。アーシュに見せたいものがあるんだぞ?わざわざ来てもらったんだから、さぁ早く行こうな?」

「……後でドワーフについて詳しく(ボソッ)」


 レビンはビクッとした後、ブレンと二言三言交わし私の背を押す。

 私に見せたいものとは何だろう?わざわざゴッキス国に戻るなんて。

 私の部屋の前に着き、レビンがドアを開ける。


「さぁ、どうぞ。お姫さま」

「?」


 中に入ると、驚く事に懐かしい顔があった。

 私が公爵家にいた時のメイド、サラだ。


「お嬢様っ!よくぞ御無事で!!あぁっこんなにおやつれになって……」

「サラ?!何故ここに?!レビン!どういう事なの?」

「まぁ、落ち着け。サラさんも、あんま興奮すんな」

「そうだよ、サラ。落ち着いて」


 視界に入っていたが、そこ場にいた犬の獣頭をした人がサラを気遣っている……。

 というより、サラが獣人に囲まれているのに、怯えてない?どういう状況?


「どなた?何故サラを?」

「アリアーシュ様、私が分かりませんか?妖精の草原で御会いしました」

「え?あぁ!でも、なんでサラを?」

「あなた。意地悪よ。お嬢様にお見せして」

「そうだね。では」


 そう言った犬獣人は、これまた見知った顔に変わった。


「ベ?!ベベベベベックーー?!庭師、ベック!庭師のベック?!」


 公爵家で働いていた庭師のベックに変わり、私は頭が大混乱である。


「はい、アリアーシュ様。お久しゅうございます」

「お嬢様?私の夫です」

「お、夫ー?!」


 私の頭は大混乱を通り越し、真っ白になった。


「えぇ?サラは?!」

「私は、人間です」

「人間?!」


 もう、何を驚いて良いのやら。あれ?夫?!


「アーシュ、深呼吸、深呼吸。ほら落ち着け」


 レビンが、水を渡してくる。

 ゴフゴフ飲み干し、深呼吸をする。レビンが背中をポンポンしてきて、少し落ち着きを取り戻す。


「……サラとベックは、夫婦?好き合って?」

「ええ」

「そうです」

「お互い、獣人も人間も知ってて」

「「はい」」

「あ、なんてこと……」

「「アリアーシュ様?」」


 二人が不安気に聞いてくる。


「な、なんで……なんで教えてくれなかったのぉ……嬉しい、おめ、でとう、ぅうわーん!」


 大泣きである。公爵令嬢なんて消し飛んだ。

 嬉しい、嬉しい!嬉しくて、どうしたらいいか分からないくらい感情が溢れ出し、涙となって出てくる。

 私の理想、私の夢。私の希望が、目の前に!


 レビンにしがみつき、ありがとう、良かった、嬉しいを繰り返しながら泣き続ける。その間も、背中をポンポンされ、そういえば最初凄い力で叩かれたなと、ふと思った。ようやく泣き止んだ私は、矢継ぎ早に質問する!


「いつから?いつ知って、どうなって好き合って、そして結婚したの?」

「そうですね……お嬢様が10歳の誕生会の日に、この人気合い入れて過ぎて、庭を魔法で整え魔力枯渇で獣頭で倒れてたんです」

「アリアーシュ様の誕生日だったから、張り切り過ぎちゃって……」


 間抜けすぎる。見つかったら大事だよ、見つかったけど。


「お嬢様が、奴隷として捕らわれた獣人達の解放をしていたのは知っていたので、通報せず隠しました。何より、見つかったベックが、それはそれは恐怖に怯え、犬頭でぷるぷるしながら潤んだ瞳を見てきたので……可愛くって……きゃっ」


 え?サラ?え?知ってた?


「で、私はアリアーシュ様だけだと思ってたら、こんな美人が優しく助けてくれて簡単に虜になりました」


 悪かったね!美人じゃなくて!


「ベックは、何故公爵家に?」

「アリアーシュ様を……」

「私を?」

「……観察するために潜入しました」

「かん、さつ?監視ではなくて?」

「観察です。あと報告係でしょうか?」

「報告?」

「えぇと。アリアーシュ様を愛でる会に……」

「……んへ?」

「幼いアリアーシュ様を獣人共が心配してまして、潜入して観察し、危ない事はしてないか、今日は何してたとか、どんな無茶してたとか……」

「は?……は?」




 何その変な会?



アーシュを愛でる会、会員番号No.1 レビン





お読み頂きありがとうございます。

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