惚れた弱みはどっちのもの?
賑わう花街。
行き交う男たちに、艶やかに手を伸ばして誘うは花街に舞う女たち。
「ねえ、そこの旦那。わっちと遊んでいきまへん?」
見世から手を伸ばすこともなく、ただ座って外を眺めつつ、めぼしい男がいたら声をかける。
今回は一際背の高い男に向けて言葉を発する。この声が届くこともあれば、届かないこともある。
ただ、今日の男には届いたようだ。
声を聞いて、視線が自分へと移ったのを確かめると、そっと手を柵へと伸ばし絡みつくように握りしめる。
「一夜限りの夢、ご一緒したいでありんす」
そっと艶やかに微笑む姿は夜の蝶。
この柵を掴んだ手に、相手が触れれば今夜は私の勝ちだ。
じっと相手の瞳を見つめていると、彼はそっと考えるように手を口元へ動かした。
「君は、一夜限りの遊女なのか?」
そう、稼ぐためには常連を作るのが一番だ。
けど、私は作らない。常に同じ人なんて楽しくない。
「刹那の恋も、いいものでありんす」
楽しんでいる。恋を。一瞬の想いの交差を。
だから、変わり者だと言われるのかもしれない。
彼もまた、小さく「面白い」と呟いた。
「名前は?」
かかった。そう確信した瞬間、彼女の笑みは最上級へと押し上げられる。
そして、他の女と同じように柵から手を伸ばす。
「時菊と。」
差し出した手を彼が掴んだ時にはもう、全てが決まっていた。
「時菊、今宵は君を買おう」
さあ、楽しい夜がはじまる。
いつもの常套文句。