好き嫌いはいけません!!
柔らかな日差しがキラキラと私の体を包む。隣ではふわふわな髪の毛がまるで硝子細工のように光り、まるで天使のようだ。
「んー?みち、どーしたっ?」
「あ、う、ううん!!なんでもないっ」
「最近、みちっていつもそんな感じだよね~…僕に惚れたとか!?」
「そんなわけ!!!!」
「にじくん、変な冗談言っちゃ嫌ぁ…くーちゃん、気に食わない!!」
私の左隣にいたくーちゃんが幼子のように頬を膨らませ、私を挟んでにじくんを睨み付ける。可愛い威嚇を向けられた本人は何食わぬ顔で購買で買ったと思われるパンを噛じる。
「そもそも、くーちゃんってみち以外のこと気に食わないって言ってばかりじゃなーい」
「し、しいちゃんも好きだよ!!うーちゃんとしいちゃんも大好き!!でも、みちちゃんが一番なの~!!」
「え、俺は?」
「きいくんはきらーい」
「僕のことは?」
「にじくんもきらーい」
「くー、そんなこと言っちゃダメです。嫌いな相手でも優しくしなければいけないのですよ?」
「えぇー…」
「返事は、はいです」
「うぅー…みちちゃぁん、うーちゃんが、くーちゃんに意地悪言うよ~!!」
「うーちゃんだって意地悪は言ってないよ~?それに、くーちゃん、またニンジン残してる~…ニンジンは、栄養なんだよ?ちゃんと食べないと今年も大きくなれないよ?」
「もう見込みないだろ」
「きいくんうるさーーいっ!!」
「俺だけ!?」
5人でじゃれ合ういつもの風景。中庭のベンチはこの面子の特等席。少し離れた大きな木のしたで、しいちゃんが本を読んでいた。勉強嫌いなしいちゃんが本を読むだなんて珍しいと思ったが、ブックカバーがされていて表紙すら分からない。何を読んでいるんだろ?受験の本かな?
中学校受験を受ける時は、みんな特にやりたい事なんてなくて。だから、取り敢えず近くの進学率の高い県立高校へと進学した。うーちゃんやきいくんに私、そして透空は至って勉強が苦手なわけではないから特に努力する必要もなく模擬試験から本番まで挑むことができた。しかし、その他のメンバーが問題で。受験1か月前の模試でD判定が出たのだ。先生から他の高校への進学を諭されるも、3人はそれを断固拒否し、必死に参考書を買い漁り、勉学に励み、見事合格することができたのだ。あの頃は、ホントに大変だったなぁ~…なんて、つい最近のことのように頭に過る。また、同じ様な景色を見るのか。でも、今回は私だって必死に勉強しなくちゃいけないのかもしれない。みんなそれぞれ、夢があるようだけど私にはそんなものがなくて。正直、どうしていいのかわからない。取り敢えず、大学へ行こう。なんて、甘い考えしか抱けないのが現実だ。
…どうしたら、いいんだろう。
一年生の時から、ずっと、時が止まってる気がする。くーちゃんの身長が伸びてないせいかな?なんて…
「…みち?」
気付けばしいちゃんが私の目の前に立ち、こちらを見つめていた。木漏れ日がしいちゃんの綺麗な茶色い髪に反射し、神々しさを感じさせた。女神様みたい。なんて言ったら顔を真っ赤にして否定するんだろうな…
「もー、今日は一段と本調子じゃないんだからぁ!!ずーっとこっち見たままだし!!みちがそんなんだと、心配しちゃうじゃん!!」
ボーっとし出す私にしいちゃんがツンツンした口調でそう告げる。申し訳ない。
「ごめんね…しいちゃん…いろいろ、考え事してて…」
「ああああ!!もぉ、こうなったら!!」
「へっ?」
グイッと腕を掴まれて、その手が上に上がる。みんなが不思議そうにこっちを見た。
「今日の放課後は、あたしがみちのことレンタルしまーす!!あんたら、ついて来ないでね?」
「ええええ!!ずるいよー!!くーちゃんもー!!」
「だめ!!くーは、すぐみちに甘えるから意味がない!!」
「ガーンっ…!!」
「それに、、くーは今日、居残りテストがあるでしょ。確か、にじくんもだった気が」
「うへぇ…みちが付いてくれたらやる気出るんだけどなぁ」
「うるさいわよ、みちコン」
しいちゃんがギュッと私の腕を掴む。反応は賛否両論だけど、取り敢えず、今日の放課後はしいちゃんと久しぶりのデートです。