不良君と優等生君
9月。夏休みも終わり、イベントが行われる暑い月。こんな時期に転入してきて、いいのだろうか。まぁ、他人の心配なんてしている暇はないのだけれど。
学校の前に着くと人はまばらにいた。「7時45分には、職員室に来てください」と言われたが、今は7時50分、これは遅刻といものなのか。でも、5分くらいはまぁいいだろう。職員室まで行くのに迷ったとでも言おうか。
職員室の前に着き、ドアを開けると、真っ先に一人の男が近づいてきた。
「君が転入生の、中村航平君だな。転入初日から、10分も遅刻だぞ。まぁそれより、僕が君のクラスになる一年一組担任の、桐原泰祐だ。よろしくな」
「すみません。職員室来るのに、迷ってしまって、よろしくお願いします」
やたらと、明るくて、熱血そうな担任だな。前の学校の担任とは大違いだ。この人だったら、僕はあんなことにならなかったのか。
「あぁそうだったのか。悪かったな。じゃあさっそく、クラスまで行こうか」
僕は黙って後ろをついて行った。
クラスの前に着くと
「僕が君を簡単に紹介して、名前を呼ぶからそしたら、入ってきてくれるかな」
担任はそう言うとドアを開けて、教室の中に姿を消した。
「起立。礼」
「おはようございます」
「おはよう。それじゃ、ホームルーム始めるぞ。今日は、転入生が来た」
担任がそう言うと
「男?女?」
「かっこいいかな?」
「どんな人だろ?」
口々にそんな声が聞こえてきた。期待しないほうがいいと思う。だって、僕なのだから。
「はぁ」
九月という暑い廊下に、僕のため息だけが音を発した。
「まぁ詳しいことは、入ってきてもらおうか。航平君入ってきて」
返事もせずに僕も同じドアを開けた。僕も同じ教室に姿を消したのだ。
「じゃあ航平君、自己紹介して」
「中村航平です。よろし「あ、また会ったな。おまえ航平って言うのか」
僕の声は、聞いたことのある声で遮られた。声の方を向くと、朝の不良君がいた。「なんだ、新道。おまえら知り合いだったのか」
「先生。その呼び方やめてください。僕も神道です」
「あぁ悪い」
メガネをかけた、いかにも優等生君がいきなり言い出した。
「なんだよ大樹、別にいいじゃねぇか。なぁ泰祐さん」
「おまえな、仮にも俺は担任だ。先生を付けろ、先生を」
どんな関係なんだよあの人たち。転入生の僕はどうすればいいんだ。席にも案内されないし。ずっとここで突っ立っているのだろうか。
「あの僕は「何もよくない。俺は、お前なんかと同じにされたくないんだ」
また遮られた。今度は優等生君か。さっきの真面目そうな優等生君はどこに行った。うるさい優等生君だな。
「まぁまぁ、新、じゃなかった、大樹もそう言うなって」
いつもより少し多めに息を吸って
「あの、僕はどうすればいいんですか」
僕の声が教室に響いた。今まで、あの三人を交互に見ていた、みんなの視線が僕に集まった。
「あぁ、そうだったな。悪いなお前の席は輝一の隣だ。前は大樹だから、何かあったら大樹に聞いてくれ。あいつは、学級委員でもあるから」
「なんだよそれ。隣は俺なんだから俺に聞けばいいだろ。航平、俺に聞けよ」
「お前に聞けば問題が増えるだけだ。だから俺に聞いたほうがいいんだ」
はぁ。またあの二人で喧嘩が始まった。いつになったら、おさまるのやら。でもみんな慣れたような顔をしている。
「わかった。ならこうしよう。航平が聞きたい方に聞く。それで文句ないだろ。航平の意志だからな」
先生のその一言で納得したらしい。というかいつから僕は呼び捨てになったのだ。
「航平君それでいいかな」
「別になんでもいいです」
「よしっ。いいそうだ。なら決まりだな」
キーンコーンカーンコーン。
「大事なこと何も話してないけど、まぁいいか。これでホームルームは終わりだ」
おいおい。そんなことでいいのか担任。
「起立。礼」
「ありがとうございました」
そう言うと、みんなは僕の席に集まってきた。なんなんだ。
「航平君。ちょっといいかな」
先生の一声。僕は席を立って先生のいる廊下まで行った。
「なんですか」
「転入初日なのに、バタバタしてて悪かったな。輝一も大樹も航平君の事歓迎してる。もちろん俺もクラスのみんなも。だからなんだ、こう。俺、何が言いたいんだろ。とにかく、学校生活楽しめ。前の学校で何があったとしても。こっちとあっちじゃ、違うんだよ」
言いたい事はわかる。きっと先生はクラスの人を見る僕の目に気づいたのだろう。でも、素直に言葉を受け取ることのできない僕がいる。裏切られる。裏切る。ただ、怖い。
こうして、僕の転校初日は幕を閉じた。