翼を広げて
挨拶だけ…と、ライアンに電話をすると「それなら食事でも」と、会う約束をして電話を切った。樹里は約束の時間まで街をのんびりと散策して、それからライアンと合流すると、最初に食事をしたレストランで、最後の晩餐を楽しんだ。
樹里はライアンに、あの絵本の話をした。すると、ライアンは「それで…?」と、結末が気になる様子。樹里は話を続けた。「女の子は勇気を出して、大空へと羽ばたいた。だけど、オオカミのことが気になって引き返そうとした途端、バランスを崩して地面へと叩きつけられそうになって…」しかし、樹里はライアンの反応がおもしろくて、わざと黙り込んだ。そして、
「結局、女の子はベッドから落ちて目が覚めた…ってゆう、夢の中の出来事だったの」
そう言って樹里が微笑むと、ライアンはやられたって顔をした。
「だけど…」
樹里が何かを伝えたくて言葉を選んでいる様子を察したライアンは「ん?」と首を傾げて、優しく微笑んだ。
「女の子は、元の世界に戻って幸せになれたのかしら?」
そう言って樹里は肩をすくめた。すると、
「きっと、いろんな意味が込められているんだと思うよ。自分の力で前に進むことの大切さとか、そこでたくさんの知識や経験を得ることも無駄ではない…とか。あと、集中しないと事故につながるとか?」
と、ライアンは笑った。
「ジュリ?」
「そうね。"幸せになれるか?" なんて、すぐに決められることじゃないものね」
「そうさ。to wait for a ripe moment. 日本語だと…」
「機が熟す…のを、待つ―、かな」
すると、ライアンは「That's right (その通り)」と言ってウインクをした。
「最後に、とっておきのプレゼントを君にあげるよ…」
そう言って、ライアンがクルマで向かった先は高台の公園だった。
「ハリウッドサインね!」
樹里はクルマから降りると、その大きな看板を見上げた。しかし「…なんだか、ゆがんでる」と、首を傾げた。するとライアンが「街から見上げたとき、いい感じに並んで見えるように工夫されているんだよ」と教えてくれた。そして、そこから街を見下ろすと、綺麗な街の明かりが無数に広がっていた―。
翌日、樹里がスティーブの部屋を訪ねると「…ずっと、ここにいればいいのに」と言われ、少し戸惑ってしまった。しかし「お世話になりました!」と元気に挨拶をして、アパートを後にした。
夢と現実の世界を曖昧に歩いて、幸せに縋 (すが)ってきた過去にさよならしよう。そして、自分の翼で羽ばたこう。何度、道に迷っても、きっと無駄な時間ではないと信じて―。
<終>




