森の美術館
キャンプ二日目。朝食を済ませると、みんなでバンガローとその周辺の掃除をする。そして、前日と同じようにグループに別れて集合した。
午前の課題はアート&クラフト。スケッチ・工作・写真撮影など、好きなものを選んでチャレンジする…らしい。そのとき、マットと目が合った。すると、樹里に何か言おうと近づいてきたが、梨奈がすかさず「スケッチするから付き合ってよ!」と、樹里の腕を引っ張った。するとライアンは「足元、気をつけて」と、笑顔で送り出してくれた。樹里は梨奈と手を繋ぐと、急いでマットを探した…が、すでに姿はなかった。仕方なく、遊歩道を先に進んだ。
「梨奈ちゃん、せっかくロサンゼルスに来てるのに、もっと他のお友達と仲良くしたら?」
樹里が呆れたように言うと、梨奈は「No problem. (問題なし!)」と流暢な英語で答えた。確かに、英会話は梨奈の方が完璧だった…。
見晴らしのいいロケーションを見つけると、梨奈は早速スケッチを開始した。梨奈も、きっと(セシルやジェシカと同類で)"手抜き" をするんだろうな…と、樹里は思い込んでいたが、スケッチに対しては真剣に取り組んでいた。また、おしゃべりを聞かされる―、と思っていた樹里は、拍子抜けしてしまった。
そして、取り残された気分になっていた…。
しばらくすると、遠くからセシルとジェシカの声が聞こえた。
「やってられないわね」
「この後、スパに行かない? 明日も撮影があるのよ」
どうやら、このサマーキャンプを楽しめないでいるようだった。ブツブツと不満を口にしている。そのとき、樹里の存在に気づくと、セシルはパッと笑顔を作り「調子はどう?」と、話題を逸らした。
「そうだ! この後、街に戻ったら、ショッピングに行かない?」
セシルが唐突に言った。ジェシカも「いいね!」とセシルをアシストする。「ジュリ、迎えに行くから! 約束よ」そう言い放つと、ふたりは来た道を戻っていった。樹里は、そんなふたりを見送ると「まるでストームね」と苦笑した。
樹里が木陰でウトウトしていたら「出来た!」と、梨奈が大声をあげた。樹里はその声に驚いたが、平静を装って梨奈のスケッチ・ブックを覗いた。すると、そこには見たままの風景が描き出されていた。
「すごい…。梨奈ちゃん、上手なのね」
「小さいときから習っているから」
と、梨奈は恥ずかしそうに言った。ちょうどそのとき、ライアンがやってきた。ライアンも梨奈の描いたスケッチを見て「すごいね」と褒めた。すると、梨奈はうれしそうに微笑んだ。
午後からは乗馬体験。だけど、ライアンたちのボランティアはこれで終了だった。ランチタイムが終わると、記念撮影をして解散した―。
「どうだった? 疲れたんじゃない?」
「そんなこと…。私は何も出来なくて。でも、楽しかった」
「そうか。それならよかった―」
アパートまで送ってもらうと、樹里はお礼を言ってライアンと別れた。部屋に戻り、シャワーを浴びると、バスローブのままソファーに寝転び「着替えなきゃ…」とつぶやいた。




