もう1人の受験者
4/14 (金) 午後 第1室内模擬戦場
試験会場は室内模擬戦場だった。
テニスコート2面分ほどの体育館に土が敷かれ、入り口以外の扉は既に鍵が掛けられていた。
中にはもう霧真者先生を含む4人が集まっていた。
「あ、どうもよろしくおねがいします」
僕も小走りに駆け寄り、挨拶をする。
「あら、来たわね。彼が1年の小林 晋人君」
霧真者先生がほかの3人に僕を紹介する。
その後、先生が僕に3人を紹介してくれた。
ムキムキの筋肉体型に色黒で、白い歯が眩しい中年の梅田先生。2年生の担任で霧真者先生と共に今回の試験の立会人を務める。
髪を後ろで束ね、無精ひげに白衣を着た痩せ型メガネの男性が保健医の箱入先生。万が一のためにいるらしいが、手当てをするのはあくまで試験後だそうだ。
そして白髪の目つきの鋭い生徒が2年生の節家先輩。今回の対戦相手となる人だ。
「よろしく」
節家先輩があさっての方向を見ながら僕に挨拶する。
「よ、よろしくおねがいします」
僕はこの人に殺されるのか……
一見やる気の無さそうな表情だが、オーラを纏っているかのように淡く光って見える。
先輩だけでなく3人の先生たちもさすがに命懸けの試験のせいか、気合で体から湯気が立ってるかのようだ。
「ところで霧真者先生、もう1人の受験者はどうしましたか?」
梅田先生が尋ねる。
「ああ、そろそろ来ると思うんですけど。少しルーズな生徒でして」
そういえば掲示板に張り出された通知には僕のほかにもう1人名前が載っていた。
たしか『石場 竜二』と書かれていたはずだ。
その名前だけは知っていたが、どんな人物かは知らなかった。
石場という生徒が登校したところをまだ一度も見ていないからだ。
毎朝出欠をとるとき、先生が石場の名を呼んでも返事をする者はいなかった。
この学園には特に欠席による罰則はない。教師陣が進級に必要な戦闘技術や特殊能力を身に着けていると認めれば授業に出なくても問題ない。
徹底した実力主義社会だ。
しかし、不適合者判定試験を受けるのだから僕同様なにか問題があるはずだ。
入学式翌日の発現の儀式のときもいなかったはずだから、入学前から発現していた3人の内の1人ということになる。
つまり無能発現者か性格破たん者ということだ。
「あ、来たみたいです。石場くーん、こっちこっち」
霧真者先生が手招きする。
入ってきたのは金髪ツンツン頭のヤンキーだった。
「あーわりいわりい。飯食ってて遅れたわ」
どうやら性格破たん者の方らしい。
「ありゃダメだ」
梅田先生がため息をつく。
全員揃ったので霧真者先生が試験の説明を始めた。
「ではまず石場君から試験を受けてもらいます。対戦相手は節家君。試験時間は無制限で、我々教師のどちらかが試験終了を知らせるブザーを鳴らした場合、または生徒どちらかの死亡が確認された時点で試験終了です。
攻撃は魔物の力を利用したものでも、それ以外の攻撃でもok。とにかくブザーが鳴るまでは相手を殺す気でやってください。ブザーが聞こえたらすぐに攻撃をやめること。万一ブザーが故障した場合は口頭で伝えます。試合中は安全のため、建物壁面と天上に魔力防護膜を張ります」
さらっとドギツいこと言うなあ。しかしルールは正確に知っておいたほうがいい。
霧真者先生と梅田先生が手にしている機械がどうやら試験終了のブザーのスイッチらしい。
要するにあれが押されるまではなんでもありのデスマッチってことか。
「なにか質問ありますか?」
「なあ、俺が先輩ぶっ殺したらこっちの落ちこぼれの相手は俺がやりたいんだけど」
ぜひそうなって欲しいもんだ。正直節家先輩相手だと現状勝ち目がない気がする。
こっちのバカヤンキーならなんとかなるかもしれん。
「うーん、じゃあそうしましょうか。じゃあこの試験で節家君が死んじゃった場合は石場君が小林君と戦いまーす。節家君が生きてたら節家君が小林君と戦うってことで。
いいなか? 節家君、小林君」
「いいですよ」
「あ、はい」
これはラッキーだ。どちらに転んでも試験前に相手の能力・戦闘スタイルがどんなもんか事前に見ることができる。
「よかったな、落ちこぼれ。俺があとで楽に殺してやるからな」
「ああ、たのむよ」
適当に石場をおだててやる気にさせないと。理想は2人が潰し合ってボロボロの相手とやること。最悪なのは圧倒的力量差でどんな能力かもわからずにどちらかが瞬殺されること。
とりあえずは節家先輩の動きを集中して観察する。
下半身を軽くストレッチしたあと、両脇を締めたガードの構えから軽くパンチングしてフォームを確かめている。
どうやら先輩はボクシングスタイルで戦うようだ。
石場の方は相変わらず腕組みして突っ立ったまんまだ。
どうやら魔物の攻撃によほど自信があるらしい。
「霧真者先生ー。準備okです」
梅田先生が制御盤のスイッチを操作し、入り口の扉を施錠している霧真者先生に合図を送っている。
魔力防護膜の電源を入れたようだ。これで戦闘により建物が崩れることはないだろう。
箱入先生と僕は壁際のパイプ椅子に座り、観戦体勢にはいる。
「では試験はじめ!」
霧真者先生がスタートの合図を出した。