女神降臨
4/14 (金) 正午 中庭
「小林くーん」
昼休み、中庭のベンチで1人カップコーヒーを飲んでいるとポニーテールの少女が駆け寄ってきた。
「あれ? たしか同じクラスの……」
ボッチな僕は、目の前の美少女の名前を憶えてなかったが、確かに同学年の女子であることは憶えていた。
「万屋です。万屋 理紀」
「あー、そうそう、万屋さん。ごめん、ど忘れしちゃって」
完全なる嘘を吐き出すと同時に、その高貴なお名前を自分の脳ミソに焼印を押し付けるがごとく刻みつける。
ここまで全力疾走してきたのか、焦げ茶色の透き通るような髪の毛を揺らし、はあはあと肩を上下させながら大きなブラウンの瞳で僕を見つめている。
自然と僕の視線は荒く呼吸するたびにタプタプ揺れる豊満なおっぱいにクギづけになる。
どストライクとゆー言葉しか見つからない。
宝石のように光り輝く万屋さんは神妙な表情で僕に話しかけてくれる。
「小林君、これから試験うけるんだよね」
「あ、うん。そうなんだ」
学園玄関の掲示板に不適合者判定試験の通知が張りだされていたため、僕がこれから試験を受けることは全校生徒が周知の事実だった。
今朝教室に入った途端、授業前の喧騒が静まりクラス全員の視線が僕に集中した。
精肉工場に送られる家畜を見るような憐れみの視線を受けながら、平静を装い席に着いたものだ。
「がんばってね。わたし、応援してるから」
心配そうな表情で天使が僕の顔を覗き込んでくる。
な、なんだこれは。こんなうれしいことがあっていいのか。
こんなカワイイ女の子が僕を応援してくれている。
神が与えてくれた最後の慈悲なのか。いや、むしろ万屋さん、あなたが神か。
「う、うん。ありがとう」
その最高にカワイイ顔をしっかりと目に焼き付けておきたいのだが、照れてしまって目が完全に泳いでしまう。
あー、今頃万屋さんは『こいつキモチわりーな。』と思っているに違いない。
でもわざわざ一声掛けるためにここまで来てくれたんだ。少しくらいは僕に気があるんじゃないのか。
どうせ最後なんだし、手を握るくらいは許してくれるんじゃないのか。
何を迷っているんだ俺は。そうだ、これはもうラストチャンスなんだぞ。
俺にはこの娘の手を握る権利がある! あるに決まってる!!
「あ、あ、あの。最後にあくてゅちてもらっても、い、いいですか?」
「ダメっ!」
即答。
人生最初で最後の、女子に勇気を出してはじめての握手お願いしますが噛みまくったうえ即答拒否。
「すみませんでした……生まれてきてすみませんでした……ぜんぶ、忘れてください」
深々と頭を下げ、万屋さんに非礼を詫びる。
何かが吹っ切れた気がした。
「あ、いや、ちがうっ! ちがうの、小林君。これはそうゆうことじゃなくて……」
俺は何を浮かれているんだ。
俺ごときが何を勘違いしているんだ。
わざわざ応援しに来てくれた万屋さんにどうせ死ぬんだからってなんて図々しいこと言ってるんだ。
身の程をわきまえろ。
死ぬ前に死ぬほど恥ずかしい思いをした僕は逃げるように試験へと向かった。