表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欲望=魔物  作者: クニクニ
1章
4/172

再会

4/13 (木) 放課後  学生食堂


 すっかり日も沈み、校内の人影もほぼ消えていた。


 僕はまだ自分の家に帰らず、学生食堂で1人缶コーヒーをちびちび飲んでいた。


 折谷(おりたに)学園は人里離れた山奥に造られ、、全校生徒および教師には小さいながらも1人に1件、貸家が与えられている。

 もちろん1年生である僕らにもだ。


 貸家は学園の校舎を囲むように建てられていて、侵入者があったときには生徒1人1人が迎撃(げいげき)にあたり、学園中央を守る仕組みになっている。

 また、アパートのように大きな建物に大人数が集まると、万が一魔物が暴走する事故があったときに生徒全員に被害が及ぶ危険があるため、それを分散する目的もある。


 敷地内には店の規模はそれぞれ小さいながらもファミレスや中華食堂、カラオケボックスにボーリング場、コンビニ、スーパー、洋品店、スポーツジムなどが(のき)を連ね、さながら小さな町の様相を呈している。

 しかもこれらの利用料金は個人で使用する範囲なら無料。衣食住はもちろんのこと、電気・ガス・水道・通信料金も学園側が支払ってくれるまさに至れり尽くせりの対応だ。

 それぞれのショップで働く業者、店員は学園に雇われた一般人で、閉鎖空間で発現者(はつげんしゃ)と共に生活する危険を伴うため給与も割高という話だ。


 裏を返せば発現者の育成産業はそれほど莫大な利益を生み出すということになる。


 しかし、この夢のような生活も明日で最期となることがほぼ確定している。

 絶望に打ちひしがれながら最後の晩餐(ばんさん)となるであろう缶コーヒーを流し込むが、その味もよくわからない。

 不安と恐怖からくる吐き気に襲われ、食事どころではなかった。



「やあ、(しん)ちゃん」


 不意に明るい男の声が聞こえた。


 いつの間にか僕の傍らには上級生とおぼしき男子生徒が立っていた。


 その声には聞き覚えがあった。最後に聞いたのは2年前。多少声色(こわいろ)は変わってはいたが、僕のことを普ちゃんと呼ぶことからも確信できる。

 忘れもしない2歳年上の幼馴染。


「あっ、(よう)ちゃん!」


 この学園に来てから初めて大声をあげた。

 そこにいたのはまぎれもなく養ちゃん、『火田(ひだ) 養助(ようすけ)』だった。


 昔から大柄だったその体躯はさらに大きくなり、190センチは有に越えていると思われる長身にがっしりした筋肉質のボディを擁していた。

 勉強もスポーツも万能で、子供のころから他とはちがう存在感を放っていたが、そのオーラがますます強くなり後光(ごこう)が差しているかのように見える。


「久しぶり、元気だったかい普ちゃん」


 中身も2年前と変わらず、堂々としていながらも相手を気遣う優しさも含んだ口調で話しかけてくれた。


 養ちゃんとは小学校低学年からの付き合いで、学年が2つ離れてはいたが、家が近所ということもあってよく一緒に遊んでいた。

 人見知りする僕とは正反対の社交的で面倒見のいい、頼りになる兄貴といった存在だった。


 養ちゃんの誘いで小4から町の空手教室にも通うようになり、2人一緒に夢中で空手にのめり込んだ。

 でも僕が中1の時、養ちゃんは卒業とともに急に引っ越していってしまい、一気に熱が冷めた僕は空手教室を止め、残りの中学生活を(ただ)なんとなく過ごすようになった。


 つまり養ちゃんがあのとき引っ越したのは発現者の素質を認められてこの学園に入学したからだった。


「そうか、養ちゃんはあの時ここに入学したから急にいなくなったのか」


 周りの人々に発現候補者と知られないようにするため、入学の手続きは秘密裡(ひみつり)に行われるのがここの鉄則だ。

 親友がいきなり姿を消したショックは当時の僕には大きかった。その理由だけでも知りたいと願っていたが、思わぬ形の再会となった。


「いやあ、あの時はごめんごめん。周りには口外できない決まりだからね。仕方なくて」


「いいや。引っ越した理由が分かっただけでもうれしいよ。ずっと心配だったから」



 明日の試験のプレッシャーも忘れ、再会の喜びを缶コーヒーで乾杯したあと、しばしお互いの2年間のいきさつを語り合った。


「ところで普ちゃん、明日判定試験を受けるんだって?」


 判定試験という言葉にしばし忘れていた緊張が(よみがえ)る。


「ああ、そうなんだ。せっかく養ちゃんにまた会えたんだけど、僕は明日殺されることになっちゃって……入学して1週間も経つのに未だに発現しないなんて笑っちゃうだろ、ははっ……」


 我ながらなんてヘタクソな誤魔化しかただ。これじゃあ養ちゃんに心配してくださいと言っているようなもんだろう。

 俺はアホか。


「普ちゃん。普ちゃんは明日死なないよ」


 まっすぐに僕を見つめ、養ちゃんが真剣に語りかける。


「普ちゃんは昔から心配性なところがある。失敗したらどうしようって悩んだまんまやったんじゃ、ほんとの実力は出せないよ」


 昔から親からも教師からもよく似たようなことを言われた記憶があるが、この人に言われると不思議と素直に聞き入れられる説得力がある。


「それと普ちゃん、子供のころ話した最強の怪獣のはなし覚えてる? 僕はデカくてサメみたいな歯がついたやつが最強だっていってたでしょ。僕の魔物、あれとそっくりだったよ」


 そういえばそんな話したっけ。なんとなく覚えている気がするけど、なんとも唐突な話題に僕は面食らう。


「あと、最後に僕が魔物を召喚するときのとっておきの方法。おもいっきりカッコつけて呼ぶんだよ、『出てこい、オレの魔物!』とか叫んじゃって。もちろん、恥ずかしがったりしたらダメだからね」


 これは養ちゃんなりのアドバイスなのだろうか。だが、この人の言うことなら絶対だ。言われたことを胸に深く刻み込む。

 養ちゃんはゆっくり立ち上がり、飲みかけの缶コーヒーを取って食堂から出ていく。


「普ちゃんなら絶対合格できる。僕が言うんだから間違いないよ」   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ