ただ1人の友達
4/13 (木) 放課後 渡り廊下
「普人くーん、どうだった?」
家路につこうとした渡り廊下で声を掛けられた。
「ああ、柵平君か」
走り寄ってきた制服姿の女の子……ではなく男の娘。
小柄で華奢な体つきにプリティフェイスの『柵平 友和』は僕のクラスメイトで唯一の友人と言ってもいい。
彼が僕のことを友人と思ってくれてたならの話だが。
クラスで唯一いまだに発現していない僕は当然のようにみんなから敬遠され、元来の人見知りの激しさも手伝って1人浮いた存在になっていた。
しかし、この柵平君だけは場の空気を読まずに、いや、むしろ絶妙に場の空気を読み切って目立たないように僕にそれとなく話しかけてくるのだ。
なにが目的なのだろうとこちらが心配になるくらいに。
ちなみに彼が僕を名前で呼ぶのは特別な間柄……というわけではなく、ただ単にクラスにもうひとり『小林』という苗字の男子がいるからだ。
「やっぱり今日もダメだったよ。明日、不適合者判定試験だってさ。短いあいだだったけど、話しかけてくれてありがとう」
「ちょっとちょっと、まだ不合格と決まったわけじゃないだろう? そのための試験なんだからさ」
こんなカワイイ男の娘になぐさめられると、余計に自分の不甲斐なさが身に染みる。
「素質があるからこの学園に来たんじゃないか。ボクには見えるよ、君の放つ魔力のオーラが。普人くんなら大丈夫だよ」
ごもっともな理由と根拠のない励ましを同時に受け、引きつった作り笑いを返すのがやっとだった。
「まあ、死んだ気でやってみるよ」
『死んだ気』とは決して大げさに言っているのではない。実際この試験を受けた9割の1年生は殺されるというウワサだ。
素質があっても発現しない者、発現してもその能力が使い物にならないと判断された者、著しく性格が破たんしていて他の生徒に悪影響を及ぼす可能性がある者。
そういったごく稀に出る学園に利益を生み出さないと判断された生徒が不適合者判定試験を受けることになる。
対戦相手は上級生と決まっていて、試験とは名ばかりのどちらかが死亡するまで戦い続ける殺し合いのようなものらしい。
性格破たん者はともかく、能力が劣る発現者・発現しなかった発現候補者が訓練と経験を積んだ上級生相手にほぼ助かる見込みはない。
要するにどうせ無能を始末するなら噛ませ犬として上級生の実戦訓練に使おうという恐ろしく合理的な制度なのだ。
極めてレアなケースだが、立会人の教師に能力を認められたり、実戦形式での戦闘によってそれまで発現しなかった魔物が現れたり、逆に上級生を倒したりした1年生が合格となった事例もあると霧真者先生は言っていたが、そんな奇跡を期待するのはあまりに非現実的だろう。
「うん。ぜったい大丈夫。普人くんがいなくなったらボク、友達いなくなっちゃうからね、絶対合格してよね」
これはヒドい。
君のように誰からも愛される見た目と、抜群に空気を読める人付き合いの良さを持つ人間が、僕みたいな最底辺の顔見知りが1人いなくなったくらいで代わりはいくらでもいるだろうに。
しかし、これほどの嫌味を恥ずかしげもなく堂々と言われると逆に清々しい。
こいつは僕のMとしての素質をためしているのではないかとさえ思えてくる。
「じゃあ、また明日。ぜったい合格してね。約束だからね」
手を振りながら去ってゆく僕の唯一の友達は西日のせいか、なぜだか妙に輝いているように見えた。