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欲望=魔物  作者: クニクニ
1章
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折谷学園

 『発現者(はつげんしゃ)』と呼ばれる人間が現れ始めたのはここ30年ほどという話だ。

 もっと前から存在していたのかもしれないが、世間に広く知れ始めたのはごく最近のこと。


 素質を持つ人間の前にある日突然、化け物が現れるという。これが『発現(はつげん)』と呼ばれる現象で、化け物を『魔物(まもの)』という。

 魔物は発現者ごとに違った特殊な能力を持っていて、科学では説明がつかない人類にとって未知の力とされている。


 発現者はごく(まれ)な存在で世界中でも1万人程度とされるが、これは確認されている者の数で実際はもっと多くの発現者が存在すると予測される。


 その大半は子供、とくに中高生くらいの年代で発現する。

 理由は不明だが、魔物の特徴・能力が発現者の欲望・願望・不満といったものを反映していることから、その年代がもっとも精神的に不安定なことに起因しているのではないかという説が一般的だ。


 発現者になると魔物の源となる『魔力(まりょく)』が感じられるようになる。

 魔力は誰にでも存在する力だが、発現者のそれは常人とは桁外れの質・量を持つ。

 これはつまり発現者、あるいはその素質を持った人間は、発現者によって判別可能ということだ。


 発現者・発現候補者の子供たちを集め、その能力を開花・訓練し、民間・政府機関に排出しているのがこの『折谷学園(おりたにがくえん)』というわけ。

 強大な未知の力を持つ若者を正しく導き、社会に送り出す…と、聞こえはいいが、要は超能力使える傭兵(ようへい)育てて高値で売り付けますっていうアコギな商売をしているところだ。


 実際、発現者が犯罪に手を染めたり、故意・事故を問わず社会的大事件を起こすことも急激に増えはじめている。

 今までの人間の概念をはるかに超えた能力では警察・国もお手上げの無法状態で、発現者の管理は発現者にやらせるというのはごく自然な流れだろう。


 中学校での発現者判別検診は国によって義務化され、発現者・発現候補者と診断されたものは中学卒業後は強制的に折谷学園に送られるシステムだ。

 発現候補者と認定された子供の親には国と学園から手厚い補償がなされるが、子供に対する権利は全て学園に移行される。


 僕の両親も僕が学園に入るときには泣いていた。

 親が号泣する姿を見たのはそれが最初で最後だった。


 こうして僕は発現候補者として折谷学園に入学を果たしたわけだが、まさかこんなことになろうとは……




 入学式翌日、1年生はまずその能力を発現させなければ話にならない。


 新入生19人のうち、既に発現している3人を除いた16人は3組に分かれ、霧真者(きりまじゃ)先生から発現するための儀式(?)を受けた。

 先生が新入生1人1人に種のようなものを胸に押し当てていく。

 種はそれぞれの胸のなかに自然に埋まっていき、すぐに僕の体にも変化が現れた。


 全身が熱くなり、不思議と力がみなぎるような昂揚感(こうようかん)が湧き上がってくる。

 先生の説明によると種によって生徒の魔力を一時的に高め、体に収まりきれなくなった魔力は魔物に変換され、強制的に体外に放出される仕組みだそうだ。

 周りの新入生たちにはその後、次々と魔物が現れた。

 大型動物に似た生物や小動物、昆虫のような生き物など、実にさまざまで個性的な魔物たちが姿をあらわした。


 僕以外のみんなには。


「うーん、おかしいわね。小林君だけ発現しないなんて。明日もう一度やってみましょう」


 霧真者先生はそういって、他のみんなに魔物の召喚(しょうかん)の仕方と帰還のさせ方を説明しはじめた。


 僕はなんだか居た(たま)れない気持ちでその場に立ち尽くしていた。

 周りのみんなから、なんだか(さげす)んだ視線を向けられている気がして仕方がなかった。


 実際は、ほかのみんなは発現の興奮と先生の説明に集中していて、無能な僕を相手にする暇などなかっただろう。




 翌日の放課後、僕は霧真者先生とマンツーマンで発現の儀式を行ったが一向に魔物が現れる気配はなかった。


 次の日も、その次の日も放課後の儀式を続けたがダメだった。

 周りから置いてけぼりをくう(あせ)りと先生への申し訳なさでガチガチに身体を緊張させ、毎回帰るころには手汗でベタベタになった(てのひら)をズボンで拭きながらがっくり肩をおとして教室をあとにした。


「あー、やんなる……ホントやんなる……めんどくさい……自分の才能の無さがめんどくさい……」


 自分の部屋にもどってぼやきながら泣く日々が1週間ほど続いた。



 そしてとうとう霧真者先生から不適合者判定試験を言い渡された。

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