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新学期の初日と、一月病の友人たち。

 五月病ではない。

 一月病である。

 いや、彼らは長期休みの度にこの病理にかかっているような気がする。


「うう、学校いやですう」

「トイレに引きこもりたいよう」


 御堂と上田が突っ伏している。

 御堂はサッカー部の練習があったはずだが、勉学に頭を悩ますこと無く、一日中スポーツのことだけ考えていられる長期休みは、実に心地が良かったらしい。

 対する上田は、そもそも勉強が好きではないし、休み中は毎日のように楓に会いに行っていたらしい。

 交通費でお年玉が結構目減りしたというから、愛のあるバカものである。

 だがまあ、まだキスするところまで関係が進んでいないらしく、そのへんが目下の悩みらしい。

 御堂に言わせればお前は爆発しろ!? 的な。


 ぼーっと入り口を見ていた晴乃が、その男が入ってきた瞬間にふらっと席を立ち、わざとらしく黒板消しで板面を拭き取り始める。

 背後を通過する、目立たない男に小さな声で、


「おはよう、境山くん」

「……おはよう」


 密やかなコミュニケーションだが、これを見逃す耳年増ではない。


「あれ? あれれ、晴乃ん、いつの間に? いつの間にぃ?」


 利理が絡んできて、小鞠がぶすっとしたまま、晴乃と去っていく境山を見比べている。

 晴乃が露骨に、めんどくせえ、っていう顔をした。

 そこへ、一年一組ナンバーワンカップルのエントリーである。


「おっはよう!」


 勇太が入ってくると、クラスの空気がちょっと明るくなった。


「おはよう、金城さん」

「勇ちんおはよー」

「初詣振りね、勇」

「おひさー」


 最後のは夏芽。

 勇の後ろからすたすたやってきて、ちょっと身長が伸びつつある、それでも自分には届かない親友をムギュッと抱きしめる。


「むっ、ちょっと肥えたわね」

「えへへ、少しだけサイズアップしまして」

「偉い。女子はこれくらいじゃなきゃだめよね。最高の抱き心地だわ」


 むぎゅむぎゅっとしてると、勇太が顔を赤くしてもじもじし始めた。

 郁己がそれを見てほっこりしている。

 いや、男子連中がみんな、それを見て眉尻を下げている。


「いやあ、眼福だな。岩田さん、もっとやるんだ」


 男らしい物言いは和泉である。こんな事をよく言うのに、女子たちからの支持が落ちない不思議な男だ。

 やはり顔か。


「全く眼福だぜ。岩田さんもっとやれ」

「黙れ」

「うぎゃああ」


 郁己も真似をしてみたら、夏芽に蹴り飛ばされた。

 危うく男として大事な部分にダメージを受けるところであった。


「ひぇっ!? 夏芽ちゃん、手加減してあげて! あれがダメになったら困るの俺だよ!」


 勇太が慌てて親友にストップを掛ける。


「あ、ごめん、まだ未使用だったのよね。それで、ご予定は?」

「いやん、そこは成り行きだよう」


 なんてことを話しているんだい女子達。

 郁己はなんとか起き上がる。

 冬休み明けのクラスの空気はどこかまったりとして、みんな現実感を失っているみたい。

 一人殺伐としているのは、参考書を開いている英美里くらいだ。

 そういえば、彼女と最近あまり会話していないような。

 この三学期が終われば、否応なく特進クラスへ行けるのかどうか、結果が出てしまうのだから、必死さが違うというものだろう。


 時間が空いたせいか、小鞠も柔らかい雰囲気になっていて、これならごく普通に会話ができそうだ。

 晴乃と境山の雰囲気は、ちょっと進歩しているのか? 上田と楓の関係に比べると、進展はゆっくりとしたものになりそうで、恐らく展開は二年生に持ち越すのかもしれない。

 利理のからかいはいつも通りだが、周囲が恋愛に熱を上げている中、この耳年増が焦りを感じないはずはない。恐らく、今もそういう出会いを求めて、意識の糸を巡らせているのだろう。だが、利理のそういう、恋愛になれてますーっていう空気が苦手な男子が多いのも間違いない。

 夏芽はアレだ。バレーが恋人だな。


「郁己!」


 夏芽から開放されたらしく、勇太が戻ってきた。


「ちゃんと、先生に根回しするんだよ。二年目も同じクラスになれるように……! それから大丈夫!? これから使うんだから大事にしないとだよ!? もう、夏芽ちゃんは手加減というものを知らないんだから……」

「ちょ、おま、やめろ勇太、触ってる触ってる!! 揉むな、揉むなよぉ!?」

「あ、硬くなってきた」


 ……というところで、担任教師の登場である。

 ショートホームルームの後、始業式である。校長の長話を聞いて、教頭が乱入して話が中断まではいつもの流れ。

 教頭が、三年生は今学期が最後であること、来年からはまた、新しい生徒が編入という形でも入ってくることなどを告げる。

 緊張感を持ち、城聖学園本校生としての誇りを持ち、日々を送って欲しいとのことだった。

 さらには、この三学期の授業態度でクラス分けが決定するらしい。

 無論、内申書もそれに影響する。


 郁己は、わかってるだろうな、という目を教師陣の中に立つ和田部教諭へ向ける。

 和田部教諭は目が合ったのに気づき、何故かサムズ・アップしてきた。違うよ、求めてるのはそういうアクションじゃない。


 勇太がそれに気付いて、何故かサムズアップを返している。

 この冬休み中にまた背が伸びて、背丈順の並びもそれなりに後ろの方になっている。

 もうそろそろ、晴乃に背丈が追いつきそうである。

 それと同時に、男子の目を惹き付ける体つきは大人びてきていて、利理に匹敵しようかという様相を呈していた。

 伸ばした髪を、校則で規定されているバンドで一束にし、肩口から垂らしている。

 春先の、まだまだ男の子っぽかった勇太の姿はそこにはない。

 完全無欠に女の子だった。


 集会終了後に腕を組んでくると、今更ながらにちょっとドキッとする。

 我に返ると、この俺の腕を抱いている女の子は何者だろう、なんて郁己は考えてしまうのだ。

 こいつとまた同じクラスになるため、働きかけを行わなければならない。

 幸い、来年度からは和田部教諭が担任としてクラスを受け持つ立場になる。彼に自分たちを引き抜いてもらうのだ。

 一人、一月病から脱した郁己の誓いである。

 英美里ではないが、彼にも弛むことは許されない。


「んー?」

「勇太さん、当たってる、めちゃくちゃ当たってる」

「んふふ、当ててんのよ」


 今だけちょっと緩もう。

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