お年玉談義~使いみちについての考察~
高校生だってまだまだ子供なのである。
郁己と勇太、心葉の目の前には、それぞれもらったお年玉が並べられている。
お互いに親戚が遠いから、お年玉の数は金城家と坂下家の2つ。
親戚づきあいのように親しい二つの家だから、それぞれの子供達にお年玉をあげるわけだ。
高校生ともなれば、結構な金額。
「さあ、どうしましょうか……」
頬を緩ませ、心葉がこのお金の使い道に思いを馳せる。
「……俺は貯金かな」
「あ、俺も……」
何故か郁己と勇太は、らしくもない事を言う。
例年ならば二人でつるんで、無駄遣いとしか思えないような使い道を語り合う二人である。
予定は決定であり未定ではなく、そうして決められたしょうもない使い道通り、粛々とお年玉は消費されていっていたのである。
だが、今年はどうにも空気が違う。
「二人共……正月に何か悪いものでも食べましたか。餅とか」
「失敬だな心葉は!」
金城家で餅焼き担当は勇太である。
餅が悪いということは、即ち勇太の目利きが悪いということに他ならない。
「俺はプライドを傷つけられた! 悪いのはお吸い物の方じゃないの!」
「ぬぬ、聞き捨てなりませんね。私が作ったお吸い物は天下一品です。その言葉、炎帝流への挑戦と受け止めます」
「こいよ! 玄帝流がやっつけてやる!」
恐ろしい姉妹喧嘩が始まってしまった。
郁己はあの中に入って二人を仲裁する勇気はない。明らかに超高校生級の技と技が炸裂し、空気が揺らぎ、床が揺れる。
「道場でやりなさい!」
律子さんが激怒したので、二人共慌てて道場へ逃げた。
二人が一番恐ろしいのはこの人なんだろう。
「まあ俺はマイペースで……。しっかし、バイトでもしないと金は貯まらないな……」
道場で、研修生たちが驚きの声をあげる中、ドッタンバッタン音が鳴り響いてくる。
それを背景に、郁己はお年玉を数えて一人呟いた。
目標とする金額までには、程遠い。やはり自分の力で金を稼ぐ必要がありそうだ。
「どうしたんだい。貯金するって言っていたようだけど」
気付くと、道場から戻ってきたらしい尊さんがいた。
玄帝龍の道場だが、彼は炎帝流なので、スパーリングに交じる事もなく、のんびり一人でストレッチなんかを延々とやっていたらしい。
一月はずっと家にいるらしく、律子さんの機嫌もいい。今も台所から鼻歌が聞こえてくる。
「いやあ、その、二年後くらいにお金が入用になる予定でして」
「ふむ、君が悩むということは、それは相当な金額だね?」
「ええ、まあ」
三桁万円単位で必要なはずであった。調べた結果、シビアに判定した郁己の計算は合っているはずである。
尊さんは一瞬考える様子を見せると、すぐに決断した。
「では、たまに休日に僕を手伝ってくれないか? いつもはゼミの学生を使っているんだが、前途有望な君に唾を付けておくつもりで、我がゼミに勧誘したい。日当は出すよ」
「え、本当ですか」
我ながら真偽を確かめるような、失礼な物言いだったな思ったが、郁己はそう口に出してしまった。
「本当さ。フィールドワークはこれはこれで体力を使うし、情報量だって多いんだ。休み中は君の手を借りることも増えるし、ひょっとするとGWもあまり遊べないかもしれないぞ」
「そこは大丈夫です。勇太にも言って聞かせますんで」
「うん、まああの子も多分、勘付いてるんじゃないかな」
「ああ……お金貯めるって言ってましたもんね……」
傍から見ると謎めいた会話である。
「最近勇太が、色々、その手の雑誌を見てることがあるんだよ。僕も流石に気が早いと言ったんだが……あの子も本格的に先のことを考えているんだな。子供というのは、僕らが気づかない内にあっという間に成長してしまう」
「いやー、その、色々ありましたから」
恐縮することしきりの郁己である。
すると、お茶とお菓子を盆に載せて、律子さんもやってくる。
「あとは、心葉が本ばかりじゃなくて、現実の相手を見つけてくれればいいのだけど……まだ早いかしら」
「僕はまだ早いと思うなあ。心葉まで片付いてしまったら、少しばかりショックだよ」
そんな事を言いながら、夫妻は笑い合う。
お義父さん、お義母さん、お二人は大人ですなあ、なんて内心で思う郁己である。
ちなみに、道場の方は律子さんの代でおしまい。その後は子どもたちの判断に任せようと考えているそうだ。
「案外二人共、早く片付いてしまいそうだし……そうなったらどうしようかしら、ね?」
「うん、国内だけだと限界があるから、ちょっと長めに余裕を持って外に行こうと考えていたんだよね。君が身軽になるなら、僕としても嬉しいな」
「あら、それじゃあ道場のみんなにも伝えないと……」
ラブラブしてやがる。
だが、こういうのを目標にするのもいいな、なんて郁己は思った。
「とりあえず、俺が大学入るまでは教授続けてくださいよ……」
「そうか、僕は郁己くんを勧誘してるんだったな。では君が院に入ったら、勇太と一緒についてくるといい」
将来の計画がどんどん出来上がっていくぞ。
三人で盛り上がって、これからの構想を語り合っていたら、道場のどたばたがようやく止んだ。
決着がついたらしい。
髪の毛がくしゃくしゃになった二人が戻ってくるが、心葉は意気揚々と、勇太は意気消沈。
「うううー! 悔しい、負けたー! なんで心葉、もっと強くなってるのさあ!」
「私は兄さんが郁己さんとイチャイチャしている間も、修練は欠かしませんでしたから」
どうやら心葉が僅差で勝利したようだ。
炎帝流と玄帝流の戦いに一応の決着である。ちなみにこの結果、尊さんと律子さんが婚前に行った仕合の手合わせと一緒らしい。まあ、勝負はかなり尊さんがリードして勝ったそうだが。
「何々? なんで父さんも母さんも楽しそうなのさ? ねえ郁己ー! 俺悔しいよー!」
「おーよしよし勇太。だが俺たちかなり遊びまくったからな。負けてもしょうがない気がするぞ」
「うわーん、彼氏もいないくせに強くなってー!」
「なんですと!! 勇太、これは聞き捨てならぬ事を言いましたね!!」
「おう、やってやるよ! リベンジだぞ!!」
肩を怒らせて、姉妹がまた道場へ乗り込んでいく。
道場で悲鳴が上がった。可哀想に、今日は練習にならないだろう。
「律子さん、これは君が行ったほうがいいんじゃないかな?」
「そうね。それじゃあ、軽く揉んであげるとしますか」
律子さんが普段着のまま道場へ赴き、すぐに、勇太と心葉の悲鳴が上がるのであった。
恐ろしい。




