やって来た吹雪(でも大したことにはならない)
ロッジでは定番料理なんかを出していて、何故かメニューが海の家と被っていたりする辺り、奥が深い。
経営者が一緒だったりするんだろうか。
三人でカレーを食べつつ、勇太はコーラ、郁己はサイダー、晴乃はオレンジジュース。
「炭酸って、よく飲めるわよね」
「んー、コーラ美味しいよ?」
「私は炭酸だめなのよね。すぐお腹いっぱいになっちゃって、半分も飲めない」
「炭酸は飲みながらガスを逃がすんだよ。少しずつ」
「げっぷをするの? 下品じゃない?」
「そこは気づかれないようにテクニックを使ってだな」
やや粉っぽいカレーを食べながら、外を見る。
ちょっと吹雪いてきた。
天気予報には無かったことらしく、ロッジの中が騒がしい。
「やだ、なんか地吹雪みたいになってる。兄さんたち大丈夫かな……」
「うーん、空は晴れてるし、大したことは無いと思うんだけど」
勇太と晴乃が窓に駆け寄って外を見ている。
……これは……、吹雪でロッジに閉じ込められた美少女二人と主人公、閉鎖された空間の中で起こる事件……!
なんて事を一瞬で夢想した郁己であったが、目の前で吹雪はスッと晴れた。
「ありゃー」
「すぐ晴れちゃったねえ」
「良かったんじゃない? 大事にはならないだろうし」
席に戻ってジュースの残りなど口にしながら、雑談をしていると保護者のはずの二人組が帰ってきた。
「うわあ、ひどい目に遭ったわあ……! 遭難するかと思った!」
「ああ、なんだあの地吹雪は。視界が全く無くなって困った……!!」
雪まみれである。
彼らばかりではなく、他のスキー客たちも同じ有様のようで、みんなで纏めてロッジの入り口、身体にまとわりついた雪をはたく。
突然の猛吹雪で、ロッジに閉じ込められるなんていうドラマチックなこと、滅多に無いからドラマや創作物で成立するシチュエーションなのだ。
第一閉じ込められたら、食料がすぐに尽きてしまうではないか、なんて郁己は考えつつ、デザートのアイスクリームを食べる。
「兄さん、綾音さん、午後は一緒に行動しましょう。やっぱり、保護者が私達を置いて遊びに行くのは問題だわ」
晴乃が副委員長的な事を言い始めた。
和田部教諭はえーって感じの顔をしたが、綾音は結構乗り気である。
「いいんじゃない? さっきもゴンドラ結構待ったし、初心者コースの近くでのんびりっていうのも、たまにはいいと思うわよ」
「そんなもんですかね。俺としては、坂下さんがいいなら構わないんですが」
女子大生ばかりでなく、女子高生と滑れるというのに乗り気ではない和田部教諭。
まあ、その女子高生というのが口うるさい妹と、恋人付きなのだから、そんな物かもしれない。
お二人は具の少ない焼きそばを食べながら、学園祭のほうが明らかに美味かった的な話をしていた。
確かに、サッカー部の焼きそばは異常に美味しかった。
具が少ないのはいいのだが、焼き方にムラがあるのかもしれない。
そして二人共ビールを飲んでいる。
帰りの運転大丈夫なのか。
「かーっ! これだからビールはやめられないわよね! 身体を動かした後なんて最高だわ!」
「同感ですよ。いやあー、後先考えずに飲むビールは美味い」
多分、また運転代行を呼ぶことになるのだろう。
今度こそ郁己は、一人後部座席の後ろの荷物置き場に設置されるに違いない。
「郁己を一人にはしないよ! 俺も荷物になる!」
「おおー、勇太ー!」
「郁己ー!」
友情を感じる瞬間である。
なんか晴乃の視線が痛いのでハグはしない。
「あー、私なんで一人で来てるんだろ」
彼女のつぶやきは聞こえなかったことにしておく。
二人の昼食終わりを見計らって、スキーに繰り出す。
今度は初心者コース付近をのんびりするということで、みんなで板を持って登っていった。
ビールを散々飲んだ二人がふらふらしている。
初心者コース……正解!
保護者二人は、ふらふらと蛇行しながら滑り降りていく。
本能的にスピードは落としているらしく、そこまで危なくは無いが……。
「さあ、私達も行ってみよ。今度は普通に滑ろっか」
見本を見せるというので、勇太が滑るのを二人で見送る。
彼女は高度なテクニックなんて使わず、そのまま自然な体重移動で、ちょっと前傾。
すーっと綺麗なフォームで麓まで滑り降りていく。
身体を傾けてくるっと曲がり、停止する。
「こんな感じー!」
手を振ってくる。
「あれなら私にもできそうね」
晴乃、腕まくりするジェスチャー。やる気である。
「よし、行ったれ和田部」
「やらいでか」
鼻息も荒く、滑り始める晴乃。
勇太がやったようにちょっと前のめりになって、少しずつスピードが出る。
いい感じだ。
なかなか綺麗なフォームで、すーっと下まで滑っていった。
きちんとやれているじゃないか。
ところが、言うたの立っている場所までやってきて、
「あれ? あれあれあれ!? どうやって止まるの!?」
とか声を上げた。
悲鳴をあげながら止まれずにツルーっと滑っていくので、勇太が慌てて、
「晴乃ちゃん、転んで! 止まる時は転ぶの!」
と声をかけた。
晴乃、横倒しにぽてっと転がってようやく停止。
「あちゃー、しまった、転び方教えてなかった」
「転び方なんてのがあるのか……よっしゃ、俺も上手く転ぼう」
決意して、飛び出した郁己。
ずる、ずるり、とのろのろ下って行って、
「おりゃあ」
麓に着く前に転んだ。
「あほ郁己ーっ!? 早いよ! 転ぶの早過ぎるよ!! チキンにもほどがあるよ!」
「お前それが彼氏に投げかける言葉かよー!」
「そんなヘタレな彼氏を持ったつもりはないよ!」
「あっはっはっはっは」
晴乃が馬鹿笑いしている。
おのれ眼鏡っ娘め。俺もメガネだが許さんぞ、と郁己が立ち上がる。
そして勢いよく滑ろうとして、つつーっと右に曲がっていって、ヘリに溜めてあった雪の塊に突っ込んだ。
「ぐええ」
「おいーーーー!!」
憤然として勇太が駆け上がってくる。
だって出来ないものはしょうがないじゃん!? と開き直る郁己。割りと彼氏にはスパルタな勇太と、やる気あんのか的な論争が開始される。
だが、餅は餅屋。
体育会系競技は体育会系である。
いつもの勉強会のお返しとばかりに、全身筋肉痛になるまで絞られたのであった。
帰り際に詰め込まれた、車の荷物置き場。
ダイレクトに揺れがやってくる場所だというのに、乗った瞬間爆睡してしまったのも無理は無い。
「次はあいつも呼んでやろうかな」
なんて晴乃が言っていたのは、聞かなかったふりをしてやろう。
肩に寄りかかってきた、勇太の重みが心地よかった。




