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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十二月
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微妙な関係? 近くて遠い。

 波乱のカラオケから翌日である。

 今日から冬休みと言う事で、郁己はいつも通り、高速で宿題を片付けていく。

 お供は教育テレビの児童向け教育番組である。

 これをひたすらBGM代わりに流しながら、居間で粛々と宿題を片付ける。

 これが彼が長期休みに入る際、やるべき仕事であった。


「あんたマメよねー。……ていうか、昨日勇太となんかあったでしょ」


 ドキッ。

 ペンの動きが止まる。


「ななな、何を言っているのかなお姉さま」

「いや、だってさ。宿題やるなら、勇太を呼んでやった方がいいじゃん。一昨日の、昨日の、それで今日と来て、何が悲しくて一人でしこしこ勉強しなきゃならないのよ」

「それはですね……」


 汗をかきながら、呻く郁己。


「じゃあ勇太呼ぶわね」

「やめて電話しないで!」

「あ、勇太ー? 一緒に宿題しようって郁己が」


 受話器の向こうからすごい音がした。

 何か色々ひっくり返すような。

 少しして、


「来るって」

「ヒェッ」


 有言実行である。

 綾音は迅速に勇太を召喚したのだが、その五分後、心葉に引っ張られながら勇太がやってきた。


「おじゃまします」

「やめてええ! 心葉はなしてええ」


 心葉は綾音に歩み寄ると、彼女に向けて大きな声で囁いた。


「昨日から勇太が変なのです。楽しいカラオケに出かけてきたのでしょうが、その後にしては妙に心ここにあらずといった様子」

「あら、奇遇ね。うちの郁己もそうなのよ。一体何があったって言うのかしら、一昨日の夜までは普通に仲が良くてほっぺたにキスまでする仲だったのにねえ」


 好奇心の視線が二人を突き刺す。

 好奇心というか、もうこれは何があったのか大体見当がついている目なのではないだろうか。


「一線を越えたんですね」


 心葉の両目がギラッと光った。怖い。


「そそそ、そんなことない! 俺と郁己はまだまだ清い関係だよ!? 肉体関係はないよ!!」

「まだ越えていないのですか」

「ヘタレねえ」


 少なくとも綾音にはヘタレとは言われたくないし、心葉も一線を越える事にこだわり過ぎではないかと思う。


「何にも無かったって! だから二人共、気にしないでくれると嬉しいなあーなんて……」

「………」


 心葉が眉を寄せて二人を睨め付ける。

 瞬きもせず、じろじろと郁己と勇太の頭から爪先の先まで見て……スッと視線が二人の瞳に戻ってくる。

 その目が追っている先を見て、ニヤリと彼女の唇の端が吊り上がる。


「キスですね」


 ビクッと震える二人。

 やだ、この子怖い!


「少なくとも昨日のカラオケで何かがあって、こうやって二人に距離が出来てしまったというのは確かですからね。その理由を考えて、自己申告でも肉体関係が無いならば、考えられるのは一つでしょう。アルコールの臭いはしませんでしたから、二人きりでというのも考えにくいですし、大方、王様ゲームのような事をやって成り行きでキスをしてしまってその事実をお互いに受け止めきれない状態という所ではないのですか?」

「なんで心葉見てきたように言えるんだよぉ!?」


 勇太が真っ赤になって叫ぶ。

 概ね事実に即している。

 かくして、郁己と勇太が秘密にしようと思っていた出来事が白日のもとに晒されてしまう事となった。


「いや、というか、お母さんも理解していると思いますよ。私達の両親はかなり鋭い方々ですから」

「あー、うちは二人共気づいてないわね。うちの両親はかなり鈍いから」


 付き合いだした時ですら動揺していた坂下家の両親が、僅か二ヶ月で進展した二人の仲を知れば、動揺どころでは済まない気がする。

 何気に打たれ弱い二人なのである。

 この打たれ弱さは娘である綾音にもきっちり受け継がれている。攻めている間は強いのだが、守りに入ると実に弱い。


「ど、どうしよう郁己。俺あの時はもう頭真っ白で何も考えてなくて、後でどうなるかとか全然考えてなかったけど、よく考えたらみんなの前であんなに長くキスしてぇぇぇ……!」

「いや、そ、そんな悪いのは勇太じゃなくてだな、流された俺も悪いわけでその、これからどうすればいいかは俺も分からなくて」


 心葉がいい笑顔をしている。

 綾音は呆れた風に、二人の若さを羨むような視線を向けていたが、その直後にスマホに着信。


「あっ……マジで!? やばい、やばいやばい、来ちゃった来ちゃった、どうしよう……!」


 呟きながら、ドタバタと居間を出て行く。

 そして、ボソボソ何か喋る声がして、階段を駆け上がっていく足音。


「姉貴も俺たちの事言えないよな……」

「俺、綾音姉ちゃんに何も言えなくなっちまった気がするよ……」


 二人を見下ろして、心葉はフッと息を吐いた。


「私も出かけるところがあるので、行ってきます。二人共いつも通りでいいと思いますよ。意識しすぎです」


 なるほど、心葉は二人よりも、ちょっとだけ考え方が大人だった。

 彼女はまだ恋を知らないと言うが、文学世界で語られる恋愛に、この場にいる誰よりも触れている。

 理想の恋愛とか、かくあるべし、という思考は深く深く、彼女の中に根差しているのかもしれない。


「第一、勇太も郁己さんも、男と女としてお付き合いを始めた以上、いつかは必ず通る道なのです。これはまだ入り口に過ぎないですし、これからもっと先にだって進んでいくことになるんですよ? 今からその有様でどうするんです。私達やあなたの両親だって、そういう道を辿ってきてるんですから、私達の順番が来たってことなんです」


 彼女は一息にそこまで言うと、


「健闘を祈りますよ、兄さん」


 勇太の肩を小突いて立ち去っていった。

 残されたのは二人である。

 ドタバタと足音を立てて綾音が出かけて行ったから、本当に二人きりになってしまった。


「どど、どうしよう」

「……宿題しようか」

「うん……」


 教育テレビの番組は、いつの間にかチャンネルが切り替わり、お昼のバラエティ番組になっていた。

 頭に入らない放送を垂れ流しながら、宿題に向かい合う二人の頭のなかはごちゃごちゃ。

 心葉が放った言葉は思ったよりもずっと深く、重く、郁己と勇太の心に突き刺さって、ぐるぐると巡る。


(この先のこと?)

(もっと先になってやっていくこと?)


 二人共、中学校をスケベな一般的男子として過ごした記憶がある。

 だからこそ、この先っていうのが一体何なのかよく分かっている。

 もっとふわふわした、現実離れした事実だったのが、昨日の出来事から急激に現実味を帯びて迫ってくる。

 今までタブーだったことが、推奨される事になってしまうパラドックスだ。


 ……俺たちは、このままエッチしちゃっていいんだろうか……?


 頭でっかちな中学生男子の中身なまま。そんな二人には、まだまだ結論なんて出せないのだ。

ちょっと思春期モード全開

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