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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十二月
81/107

追い出しの後。

 文芸部の追い出し会は、その週の土曜日、比較的安価な洋食チェーン店で行われた。

 あまり騒ぐのはNGなお店なのだが、もとより文芸部、そこまで賑やかな人もいない。

 いるだけで非常に目立つ御仁はいるのだが。


「注文を頼みたいのだが」

「は、はいぃっ」


 ウェイトレスさんが、プロレスラーのような体格の男に声をかけられて怯えている。

 その男こそが文芸部の部長、等々力亜門である。

 郁己と勇太は、この巨漢が学園祭で演じたオネエキャラをまだ忘れていはない。

 この漢の中にはオネエが住んでいる……!


 まあ、だが、はっちゃけなければ比較的常識人の亜門先輩である。

 会は粛々と進み、亜門が卒業生たちに言葉を贈り、無事閉会の運びとなった。

 文芸部の三年生諸氏は実に地味な方々である。

 何でこの人達が、亜門を入部させようと思ったのかよくわからない。

 彼らいわく、ああ見えて亜門は文芸を愛する心優しい男なのだそうだ。

 だが、新聞部副部長という肩書を使い、敵は徹底的に追い込むスタイルだ。

 優しいってなんだろう。


「私は、そんな、等々力先輩、きらいじゃない、けどな」


 楓は心が広い。

 というか、郁己と勇太が入部するまでは、一年生は楓一人だったのだ。

 案外彼女は、この文芸部の空気にあっているのかもしれない。


「べっ、別に上田君、が、嫌いとか、そういうの、じゃ、ないよ」

「それはわかってる」

「楓ちゃんは優しいよね」


 勇太の言葉に、楓ははにかんで笑う。


「私が貰った分の、優しい気持ち、を、広げ、たい、っていうのは、あるかも」


 いい子だ。

 郁己も勇太もほっこりする。

 対面の席でなかったら、きっと勇太は彼女をハグしていただろう。

 勇太は何気にハグ魔である。

 友達の女の子にむぎゅっと抱きつくところをちょくちょく見る。

 我が恋人ながら、羨まけしからん。そのくせ郁己がハグするぞーって気配を見せると、赤くなって逃げる。


 こいつを今月中に、なんとか捕まえてハグしてやらねばならぬ、と郁己は心に誓うのであった。



 追い出し会も終わると、解散は早い。

 上級生たちは立ち話をしていたが、下級生たちは帰ってもいいということで、三人は挨拶をしてその場を辞した。

 十二月でも日が高い時間である。

 ぺちゃくちゃと会話しながら駅へと向かう。


「来週には終業式じゃん? なんか、あっという間だよねー」

「う、ん。勇ちゃんたちと知り合って、から、時間、たつの、凄く早い、よ。毎日が、楽しいかも」


 いざ一人きりで過ごすとなると、毎日をやり過ごすのは実に億劫なものである。

 特に、若いころなんて一日の感覚が長いから、休み時間の10分間さえ無限に感じられてしまったりする。


「和泉くん、が、やるっていう、カラオケ、楽しみなの。私、一度も、行ったことない、から」

「そっかー。それじゃあ、一緒に何歌うか考えておこうよ!」

「うん、いいね、それ」


 今の楓にとって、この時間はあっという間に流れていってしまうものなのだろう。

 郁己にとっては、女の子同士できゃあきゃあ盛り上がられて、微妙に入りづらい男一人の現状は、何気に時間が長く感じるのであった。


「楓ちゃんはさ、何の歌をうたうの?」

「うーん」


 楓はちょっと考えこんだ。

 カラオケ初めてというから、歌のレパートリーなんか勿論無いんだろう。


「例えば、好きな番組の主題歌とか」

「私、テレビ、みない、から……。あ、でも、おばあちゃん、が聞いてる、CDがある、かも。私もよく、いっしょにきいて、る、から」


 聞いてみると、なるほど昭和の歌である。

 グループサウンズとか、フォークの時代の歌。


「私はアイドルソングかなあ」


 勇太はこう見えて、かつてテレビっ子だったので、その頃テレビに出ていたアイドルソングなんかはそらで歌える。

 完全に女の子化してからは、声帯も女の子そのものになったようで、普段の声色はちょっと高めのハスキーだからかなりの高音まで綺麗に出せるのだ。

 この辺に関しては、勇太自身嬉しい誤算であったと発言している。

 原キーで女性ボーカルの歌を歌えるのである。


「俺はまあ、古めのアニソンかなー」

「あー、郁己そういうの得意だもんねー」

「そう、なんだ。上田、くんはどう、なのかな」

「あいつはCMソングだろうなあ。コミックソングとか凄く上手いんだあいつ」


 キャラが想像できる。


「和泉くんとかうまそうだよね」

「いや、それがさ」


 笑いながら郁己が言う。


「あいつの唯一の欠点が、音痴ってことなんだよ」

「ええー! 意外ー!!」

「勇、ちゃん、笑ったら、失礼、だよ、ふふ」

「楓ちゃんだって笑ってるじゃない」


 勇太と楓に笑われるなら、和泉も本望であろう。

 彼の歌声は、ボエーっていう感じで非常にひどい。

 何故彼がカラオケ大会を企画したのか、もうよくわからないくらいに音痴であった。

 声質はいいのだが……。


「あ、駅、だね。じゃあ、二人共……また、ね」


 話をしていたら、あっという間に駅に到着だ。

 月曜まで、しばしのお別れ。

 24日が木曜日だから、25日金曜日が最終日になるわけで、その足でカラオケ大会というわけだ。

 だから、大きなイベントの前にクリスマスイブを越すことになる。


「じゃあね、楓ちゃん! 月曜日に会おうね!」


 しばし親友に別れを告げる。

 着々とイベントをこなして、今年の終わりは段々と迫ってくるのだ。

 今日は楽しい一日だったけれど、とても振り返っている余裕なんて無い。


「クリスマス、か……」


 郁己は、新しい関係で迎える聖夜をどう過ごそうか、思いを巡らせ始めた。

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