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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十二月
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一年一組定例報告会。今週のご予定は?

スケートから一夜明け、月曜日である。

 終業式を間近に控えた城聖学園ではあるが、冬休みを迎えるのとはまた別の理由で、学校全体が浮かれた雰囲気に包まれている。



「来週には終業式だが、その日は25日じゃないか」

「そうだな」


 例によって、郁己と和泉である。


「坂下はクリスマスに何か予定は入っているのか?」

「いや、入って無いな……。なんかやるのか?」


 ちらっと和泉が勇太を見た。

 勇太は一瞬首を傾げると、ニコっと笑って返す。

 和泉がとても良い笑顔になった。それは俺のだからな、と郁己は釘を刺す。


「チッ、出会うのが俺のほうが早かったらって、いつも思うよ」

「そりゃ無理だな。俺と勇太は十四年くらいの付き合いだからな」

「それは……勝てんなあ……」


 和泉が遠い目をした。

 いい加減勇太を諦めろ。


「まあいいや。以前、イベント表を見せただろ? あれのカラオケをやろうと思ってさ」

「おお、なんか打ち上げっぽいなー」

「終業式終了直後はあれで決まりじゃないか? 仲間を集めてさ」


 だとすると。

 郁己は呼ぶメンバーをまとめ始める。

 郁己、勇太、和泉、夏芽、楓、上田、御堂、境山、伊調、小鞠、晴乃、利理。

 この12人だろうか。


「そんなもんじゃないか? 一応全員に予定を聞いてみよう」


 ということで、郁己と和泉は手分けして聞いて回ることになる。


勇太「もちろんオッケーだよ! うわー、何歌おうかなー」


夏芽「流石に年末は練習も減るからね。いいわよ。私の美声を聞かせてあげようじゃない。和泉も毎回企画、お疲れ様ね」


楓「う、ん。いい、よ? 上田、くんといっしょ、なら」

上田「勿論俺も行くよ!!」


御堂「女子と合コンだと!? 行くぞ!」

境山「……」

伊調「グフッ、構わないよ。僕の方は別に急ぎじゃないしね」


小鞠「…………べ、別に行ってもいいわよ」

「なんかすまんな」

小鞠「何あやまってんのよ。気にしないでって言ってるの」


晴乃「坂下くん、うちのバカがおじゃましたって? 本当にごめんね! え、お姉さん助けたの? うちのバカが? え、へー、へええ、あいつもいいところあるじゃん。あ、カラオケ? 行くわ」


利理「行くよぉー。何、坂下は小鞠んにも声かけたの? 勇気あるねぇー」


 ということで、全員OKとなった。


「和泉ィ! 9人くらい俺が声かけたんだけど!!」

「坂下は仕事が迅速で助かるよ。おかげで俺は予約をとるのに集中できた。幹事は俺がやるし、楽しいゲームだって用意してくからさ。期待しててくれよ」


 おそらくは、今年みんなで遊ぶイベントとしては最後になるであろう、クリスマスのカラオケ大会だ。

 せいぜい楽しみにしよう、と郁己は思った。



 あらかたイベントを終えてしまった学校は、静かなものである。

 ざわざわとした喧騒も、切羽詰まってはいない。

 少なくとも、受験やら何やらというプレッシャーから自由なのは今年だけ。

 気楽な一年生という時間を楽しもうではないか。


 文芸部の部室に向かう。

 三年生二人は今年で引退ということになるらしい。

 来年度頭からは大学受験。

 部活に顔を出すこともなくなる。


 等々力先輩が、三年生の送別会を企画しているらしい。

 今週の末である。


「なんか、年末にもなるとイベントが目白押しだねえ」

「うん、いっぱい、ある、から、体力使う、よね」


 三年生を送る文集を出すというので、集めた文章を編集している、楓と勇太である。

 卒業時に本として綴じた形で贈るらしい。

 これは穴を開けて、手作りになる。

 たった二冊を印刷しようとなると、べらぼうに高くなってしまうから。


「楓ちゃんは大丈夫? 疲れてない?」

「う、ん、中学の、ころ、は何にも無かったんだもの。今、楽しまないと、もったいない、よ。私、今、すごく幸せ」

「そっかぁー。私も幸せかなー」

「勇ちゃんは、郁己、くん、いるもんね」

「いやああ、そんなんじゃないよう」


 照れる勇太。

 郁己としても、聞いている方が恥ずかしい。

 今年のイベント盛りだくさんっぷりは、去年が受験勉強漬けだった反動のようにも思える。

 巷では師走というだけあって、社会人の皆様は忙しそう。

 こうやって遊びまくることができる学生は、社会をまわして下さる彼らに感謝しながら、せいぜい楽しい時間を過ごさせてもらうのだ。


 ちょこちょこと作成していた文集も、数はたったの二冊。

 概ね完成への目処がついてくる。

 これに、去りゆく三年生へ贈る言葉なんかを考えて、ちょこちょこっと加える事になる。

 今日の作業はおしまい! とばかりに、一年生一同は立ち上がって帰宅の準備。


「うむ、土曜日にはよろしく頼む」


 等々力部長の言葉に返事を返し、下校することになった。

 下駄箱で待っている辺り、上田は実に甲斐性のある男であると思う。

 割りと見ている限りでは、付き合いだしてから楓と上田はしょっちゅう一緒にいる。

 二人共そこまで趣味や考え方が一致していないから、お互い譲りあう関係である。

 一度、上田にはそういう関係が疲れないか聞いてみたのだが、これはこれで楽しいらしい。


「坂下、今の俺は、シングルであった頃よりも実に満たされているんだ。誰かのために生きるのは素晴らしいぞ……! おっと、仏に説法だったな!」


 相変わらず、トイレ研究は怠っていないらしい。

 この間は、トイレメーカーの工場見学に、楓と一緒に行ったらしいというから頭が下がる。


 そんなこんなで、十二月後半戦なのである。

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