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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十二月
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酔っ払いたちの朝帰り。

「一体どうしたんです? 姉貴が潰れるとか珍しい」


 和田部教諭にもかなり酔いが残っていたようだったので、郁己は冷水を差し出す。

 父の割り材である炭酸水だから、シュワシュワ言っている。

 教諭はそいつをグイッと呷ると、


「ぷはぁっ、炭酸水ってのもいいもんだねえ!」


 すっきりした顔で大きく息を吐いた。


「実際、あれだよ。合コンとは言っても飲み会な訳だからなあ。誰しも酔いつぶれる可能性はあるわけで」

「本当、和田部さんはありがとうございます。もう遅いですし、今日は泊まっていかれたら?」


 綾音を上の階に連れて行った両親が戻ってくる。


「いや、和田部さん、さっきはすまなかった。綾音のやつにまた変な男がついたかと思ってなあ」

「ああ、いえ、お気になさらず。それに、タクシーで僕も帰り……アッー」


 お財布を開いた和田部教諭がスッと顔色をなくす。

 お札なんか一枚も無いのである。

 入っていたレシートに、それなりのいいお値段が書かれていた。


「お二人様ってことは、姉貴が飲んだ分も建て替えたんですねえ」

「お二人だと!」

「あなたはもう寝たほうがいいわよ。明日仕事よ?」

「ムキー」


 両親が去っていく。

 気を利かせてくれたんだろうと郁己は思ったので、色々和田部教諭に聞いてみることにする。


「で、実際どうだったんです? オフレコにするから教えて下さいよ」

「あー、坂下の家族はあれだな。なんか頭がイイな。分かったよ、今日は泊めてもらうお代金に話そう」


 和田部教諭が話し始めた合コンの内容。

 それはこんなものである。

 綾音の所属する大学のサークルと、和田部教諭達若手教師が合コンをおこなったのだそうだ。

 そうしたら、教師側に綾音が付き合っていた男がいたとかで、綾音がすぐ帰る、って言って飛び出したらしい。

 吹っ切ったような顔をしていたが、綾音的にはまだ半年少ししか経っていない。

 男っぽいところもある姉なので、意外と引きずるのかもしれない。

 それで、和田部教諭は心配になって後を追ったのだという。

 どうやら、姉を振った教師、綾音の話を和田部教諭にしていたらしい。こんなことをして振った、みたいな。

 教諭は、女性はすべからく愛おしい存在であり、特に若い子にはちょっとセクハラしたいっていう御仁なので、この教師には怒りを覚えたそうな。

 それで、途中で綾音に追いついて、せっかくだから愚痴を聞くよとなって二人きりで飲み屋に入ったと。

 異常にシンパシーを覚える、似たような経験の二人である。

 とにかく話が合い、やけくそとばかりに綾音がパカパカお酒を空けるので、気付いた時には正体不明になっていたと。


「いやあ……人間って、自重を支えないとあんなに重いんだねえ」


 和田部教諭は笑い、これは女性に言うと嫌われるから黙っててくれ、と付け加えた。


「失礼な話ですけど、俺は先生はもっとセクハラな人かと思ってましたよ」

「セクハラは好きだよ? だけど、許されるものとそうじゃないものがあるじゃない。俺はさ、笑って済まされるセクハラから始まる関係を愛しているんだよね」


 哲学的な気がしたがよく考えると普通にエロい男の発言である。

 だが、その辺りよく理解できる郁己である。


「分かりますよ。俺も、彼女の妹の陰謀にあって、この間彼女の家で混浴しちゃって」

「なんだって。お前それラッキースケベじゃないか!」


 いや、食いつかないでください。

 それにあれはラッキースケベなんて次元のものじゃなかった。


「とりあえず、妹さん俺のクラスメイトなんですけど、心配してましたから」

「ああ、一組は色々な意味で優秀だからなあ。晴乃も染められるかと思ったけど、案外自分を保ってるよな」

「副委員長優秀ですよ」

「学年テストトップ3常連の君がそれを言うかなあ……と、流石に俺も眠くなってきたから、一眠りさせてもらうよ……」



 ソファに横たわり、和田部教諭はぐうぐうと眠ってしまった。

 翌朝である。

 一端家に帰って着替えて出勤するというので、和田部教諭がばたばたと用意している。


「ああああ、和田部さんごめんなさいいいいい」


 昨日醜態を晒したことを完璧に記憶しているらしい綾音が、教諭に平謝りしている。


「あ、いや、俺も楽しかったしさ。またそのうち機会があったら、アルコール控えめで飯でも」

「オッホン、堂々と娘を口説かないでくれないかね」

「あなた、出勤時間」


 娘はやらんぞー! って飛び跳ねながら、父が出勤していった。

 あれで現役官僚なのだが、非常に元気な人である。

 それにしても、まだ熟柿の臭いをさせながら、教諭も姉も二日酔いの気配はない。

 どうやら二人で飲んだお酒は、楽しいお酒だったらしい。

 案外この二人、気が合うんじゃないかなんて思う郁己だった。


 外に教諭を送り出すと、早起きして朝稽古していた勇太が通りかかる。


「あれっ!? 郁己の家から和田部先生が!! まさか綾音さんと朝帰り!?」


 勇太的には綾音は初恋の人なので、その辺ちょっと敏感なのである。


「正確にはうちから朝帰るんだ。かくかくしかじか」


 説明をすると納得。

 ちょっと悔しそうな目で和田部教諭をにらみ、


「あ、綾音さんのことをよろしくお願いします」


 こいつ絶対分かってない。

 そして睨まれても、和田部教諭は平常運転である。


「あれっ、それ道着と袴!? いやあ、やっぱり女の子の武道着ってのもそそるよなあ。うん、いい!」

「……私も勇太くんの家で護身術習おうかな」

「坂下さんもやるんですか? 俺もやろうかな」


 なんだか変な方向に話が流れている。

 綾音が教諭を送っていくって言うので、あとは二人にさせておいて。


「ううう、郁己ー。なんだか俺、悔しいぞう」

「まー、お前は女になっちまったからなー。姉貴の代わりに俺を守ってくれ」


 そう言うと、勇太はハッとした顔をした。

 その手があったか、という顔である。


「よーし、ドンと任せとけよ! 一生俺が守ってやる!」


 そいつはプロポーズじゃないのか、と郁己は内心突っ込んだ。

 坂下母は、ニコニコと笑っていたそうである。

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