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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十二月
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期末テストに挑め! これが終わったら俺スケートに行くんだ……

「えへへ、このテストが終わったら、俺、スケートに行くんだ……」


 早速タイトル回収かよ!?

 と郁己は突っ込んだ。

 テスト勉強中、虚ろな目をして勇太が呟いたセリフである。

 相変わらずこの子は、勉強というものに弱い。


「気をしっかり持て。な? 苦しいのはほんの一時だから。だから言ってたろ? 習慣づければ楽になるって。今からでも習慣つけて行こうなー」

「ううう。つらい、つらいですコーチ」


 ふるふると震えながらすがりついてくる勇太。

 確かに今日は、土曜日だというのに朝から夕方まで勉強漬けである。

 だが、郁己がこの日のために用意した、テスト勉強カリキュラムを披露しているのである。

 それくらいの勉強時間が取れれば、この優れた勉強方法を理解してもらえるだろうと思っていたのだ。

 結果、勇太が壊れかけたので、今回はここまで。あとは夕食後ということになった。


「やった……!」


 そう呻き、勇太はへなへなと崩れ落ちた。


「ううーーー。恋人になっても、なんで手加減してくれないんだよ郁己……」

「勇太は、俺がそういうところで手を抜くタイプだと思ってた?」

「……思ってない」


 本日は泊まりがけでの勉強会である。

 明日には楓と上田も合流し、翌々月曜日からのテストへ向けてのラストスパートとなる。


「郁己さん、お風呂入っちゃったら?」


 エプロン姿の心葉が出てきてそう告げた。

 郁己がトイレに行った帰りである。既にお湯は沸いているらしい。


「それじゃあお言葉に甘えて……」


 着替えを取りに行き、夕飯前に一風呂……ということになった。

 一番風呂である。

 客分としては大事にされていることが分かって、申し訳ない反面、ちょっと嬉しい。


「まあ、勇太の旦那さんになる人ですからもう身内ですよ」

「うっ」


 さらっと言われて、彼女に二の句を告げなかった。



 脱衣所にエアコンが入っている。

 小さなものだが、冷えがちなこの小スペースがほんのり暖かく、寒い冬にはありがたい。

 郁己は衣類をカゴに収めると、マイ手ぬぐいを頭に載せて堂々と風呂場に突入した。

 流し湯をして、やや深めの風呂桶に浸かる。


「ふぃー……」


 一日の勉強で、凝り固まった筋肉がほぐされていくようだ。

 16歳にして、脳の芯から蕩けそうな声を出してしまった。

 暖かさに頭がぼーっとなっていく。


 ガラッと脱衣所の扉が開く音。

 衣擦れの音がして、


「ううう、頭痛いー。体痛いー。つらいー」


 泣き言が聞こえた。

 風呂場の扉が開く。

 ふらふらと何者かが入ってきて、流し湯もそこそこに浴槽に飛び込んできた。


「うおー! お風呂場では静かにー!」

「あ、ごめんね………って」


 それなりに大きな浴槽とは言え、二人入ると距離もかなり詰まる。

 一糸まとわぬ勇太が、肩を密着させる距離にいた。

 あまりにさらっと自然に風呂に入ってくるので気づかなかった。

 どうやら郁己も相当疲れているらしい。


「な、なんで郁己入ってんの」

「……心葉に一番風呂をすすめられまして」

「俺も心葉に一番風呂を……あいつめ謀ったなあああああ!?」


 仕組まれた相風呂……!

 妹ちゃん恐るべしである。

 湯船に浮かぶ、白くて丸いお肉が二つ。湯船に手ぬぐいをつけるなんてことはしないのがマナー。

 勇太は間違いなく、生まれたままの姿である。それは郁己だってそう。

 つい一昨年までは、遊びに来たついでに一緒に風呂にはいるぐらいはしていたのだが、二年経つと別の意味で全く別人の身体である。


「…………」


 ゴクリとつばを飲む。

 のぼせそうだ。

 お風呂にのぼせるわけではなく。


「い、郁己……」


 彼女も熱に浮かされたみたいな声で告げる。


「げ、元気になりすぎ」


 いかん。

 何やら、二人共場の空気に流されかけている。

 どうやらお互いに、空気や雰囲気に相当弱いらしい。

 相手の身体を意図して見ないようにすれば、顔を見るしかなくなる。

 見つめ合っていると、なんだか湯加減もあってぽーっとなり、徐々に互いの顔の距離が近く……。


「はっ! 貴様、見ているな!」


 勇太が素早く振り返った。

 洗濯物を回収に来た心葉が扉の隙間からガン見している。


「チッ、一線を越えませんでしたか」


 ……恐ろしい子!!

 彼女が覗いてなかったら、間違いなく一線を越えてしまっていた自信がある。

 自制心が弱い我が身である。

 勇太も自制心弱いね。


「もう、俺は身体洗ってさっさと出るよ!」


 勇太は宣言、湯船から立ち上がる。

 しなやかな身体が視界いっぱいに映る。


「うわー」


 均整の取れた女らしい身体をもろに見て、一部分だけ主張の強いところとか視界に焼き付いて、郁己の思考がショートした。


「勇太は大胆です」

「いつまで覗いてんの!?」


 いつもの風呂場の気分で立ち上がり、郁己に全部見せてしまったことに気付いた勇太。

 照れ隠しに心葉に退去を命じると、粛々と洗い場で石鹸を泡立て始めた。


「郁己」

「へい」

「……せ……、責任はとってもらう」

「はっ、かしこまり」


 結局、洗い場の温度差にたまらず湯船へ避難してきた勇太。

 郁己はこのあと三回ほども、大変眼福なものを拝むことになってしまった。



「まさか二人きりで最後まで一緒に入っているとは……驚きました」


 心葉が無表情にそういうことを言うが、この子は絶対楽しんでいる。


「そういう時は場の空気に流されてはダメよ。きちんと、用意すべきものを用意しなくちゃ」


 律子さんが厳しい顔をして言って、背後に用意してあった、手のひらに収まるような薄い小箱を指し示した

 そ、それは明るい家族計画の……!!

 真面目そうでとんだトンチキなお母様である。


「というのは冗談で、流石にまだ早いわ。郁己くんは自制してくれてありがとう。勇太ったらそういうの苦手そうだから」

「息子の自制心を憶測で語るのやめてくれないかな!?」


 食卓だというのに下世話な話で盛り上がる。

 ちなみにお父上の尊さんは、また長期の出張である。出張してる期間のほうが圧倒的に長い。

 男は郁己一人、あとは女性二人、勇太一人である。

 会話は終始女性サイドがリードして行われる。

 何故か勇太が男性サイドにいるので、郁己とともに、律子さん・心葉ペアの攻撃を受け続けている。

 やれ、キスはもうしたの、だの、一度二人きりで遠くに行くべき、だの、あまり四六時中一緒にいるよりは、たまに距離をあけると燃え上がる、だの。

 最後のは律子さんの経験談ですよね?

 尊さんは家を空けていることが多いから、たまに帰ってくると二人のラブラブっぷりは凄いらしい。

 心葉談。


 ともかく、そんな食事を終えて勉強に戻るが、お互い風呂場での裸身の映像が脳裏にちらつき、勉強どころではない。

 思わずチラチラと勇太を見ていると、あちらも同じようにこっちをチラチラみているようで、しょっちゅう目が合う。

 気まずいのだが止められない。

 これはいけない。

 落ち着け、落ち着くのだ我が分身よ。

 そう思えども、思うようには落ち着けない本能の悲しさ。

 二人は悶々としながら一夜を過ごし、翌日の勉強会へと突入するのである。

本編は風呂であった。

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