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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十一月
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秋の遠足、楽しい渓流下り?

 レクリエーションが用意されていると言ったな。あれはどうやら嘘だったらしい。

 郁己はそんな思いを抱いてここにいる。

 滔々と流れる川の上に、カヤックが用意されている。

 有志だけが参加する、渓流下りである。

 11月にやることじゃない。

 

 正確には船を用意して、渓流を下りながら紅葉を愛でるらしい。

 だが、和田部教諭が気を利かせて、この日のために渓流下りを用意してくれたそうなのだ。

 余計なことばかりしてくれる。

 ちなみに経費は学校の予算から出る。


「はいっ! はいっ! 私やります!」


 もう、真っ先に手を上げるのは誰かって、もちろん勇太だ。

 そして巻き込まれるのが郁己である。

 他、御堂と境山と伊調を巻き込んで、女子が後一人いるといいなって言うんで、利理が何やら陰謀を働かせた模様。

 小鞠が押し込まれてきて実に気まずい。


「ど、どうも」

「……こちらこそ」


 勇太を小鞠が非常に微妙な空気を醸し出している。

 郁己としてはもう逃げたい。

 どこかに逃げてしまいたい。


「逃げちゃダメだ」

「グフッ、逃げちゃダメですよ」

「……」

「な、なにをするきさまらー」


 こっそり逃げようとする郁己を捉える、坂下派閥の三名である。

 結局この六名でカヤックにインとなった。

 しかも先頭は勇太と小鞠である。

 すぐ後ろに郁己。

 ……気まずい。


 進水。


 水は冷たくなってきて、だが辺りを包む紅葉の中を下っていく渓流下りだ。

 救命具を身に着けていて、それなりにあったかい。

 跳ねる水も愛嬌で、最初こそ硬かった勇太と小鞠の表情だが、すぐに笑顔に変わる。

 不安定な水上を、櫂を使って漕ぎながら下っていく。

 右に左に揺られ、川底の浅い、深いで水の流れも大きく変わる。

 決して速度は速くなくても、当事者になるとかなりエキサイティング。


「うわっはー! これちょっと、ひゃっ、水かかったあー!」

「行くわよ金城さん、交互に漕ぐの! それっ、それっ!」

「女子達は元気ですなあ」


 男どもが逆にブルっている。

 川とか怖いし、ガタガタ上下に揺れるのも怖い。

 あと急に共闘を開始してガンガン水を漕ぐ女子怖い。


「うっしゃー! バンバン漕ぐからねっ!! とりゃとりゃっ!」

「ちょっと、金城さんパワー強すぎ! ほら男子! あんたたちも漕いで! バランス崩れたらひっくり返るわよ!」

「うひひいーー」


 男たちが必死になって漕ぐ。

 背後からは、大きめのカヤックでまったりとみんなが下ってくる。

 あっちはなぜか長閑な風なのに、どうしてこっちはこんなに必死になっているんだろう。


 カヤックが渓谷のちょっと狭い流れを超えると、突然視界が広がった。

 現れたのは、一面の紅葉。

 赤、黄色、時々緑が交じるけれど、視界の隅から隅までが秋色に染まった。


「うわあああああああ」

「ほええええええ」


 勇太と小鞠が、漕ぐのも忘れて一瞬我を忘れる。


「綺麗だねえ、小鞠ちゃん」

「そうね……勇。 あのさ」

「うん」

「……ごめん。抜け駆けみたいで」

「いいよ。小鞠ちゃんがそうしたいって思ったんでしょ。意気地が無かったのは俺の方だし……」


 水の流れる音に混じって、二人の会話は後ろまで聞こえてこない。

 辛うじて郁己は聞き取ることができて、なんか嫌な汗が出る。


「ま、あたしは噛ませ犬としては役に立ったかな」

「小鞠ちゃん!」


 むぎゅっと勇太が抱きついた。


「うひゃっ、な、なによ!」

「俺、小毬ちゃんと友達のままでいたい……!」

「そんなこと、しなくてもっ、……いいの、あたしが友達のままでも」

「いいに決まってるじゃん。ううん、こっちからお願いするよ。友達でいてって」

「ばか……ほんと、あんたって馬鹿よね、勇」


 小鞠も抱き返して、そして……。

 カヤックの前の方の櫂が両方共空いた。

 後方の男たちは頑張って漕いでいたわけで、バランスが崩れてカヤックがウィリーする。


「うおおおおおおお」


 叫びながら、6人とも川に落っこちていく。


「救助ー! 救助ー!!」


 和田部教諭が積み込まれていた浮き輪を大量に投擲したのであった。




「ま、実際11月の水温って死ぬわよね。ほんとうちの先生は考えなしだわー」

「大方、水しぶきで服が透けてウヒヒ、なんて考えてたのよ兄さんは」

「ギクッ」

「ギクッってあんたはああああああ!!」

「落ち着いて晴乃!? 和田部先生がしぬわ!」


 まあ、なんだかんだあって非常に大変なこともあったが、概ね無事で遠足も終わった。

 勇太、小鞠、郁己と御堂と境山と伊調は、借り物のジャージ姿で帰還である。


「あ、小毬ちゃん、髪に紅葉ついてる」


 小鞠がお団子状にまとめた髪の隙間に、真っ赤な葉っぱがはりついていた。

 はがしてあげると、小鞠はそれを見上げて、


「ま、髪についたままっていうのも風流だったかもね」


 なんて言った。


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