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ダチが女になりまして。  作者: あけちともあき
一年目、十一月
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秋の遠足、文学少女、親友を祝福す

 城聖学園という立地は、ハイキングでもしようと思えば、行ける場所に事欠かない。

 何せ山間というか、山一つを削りとって作られているのだ。

 敷地が山である。周囲も勿論山である。

 大きな山というのではなく、丘と山の間の小山くらいの、登るのに無理があまり無さそうなくらいの山なのだった。

 だから、秋の遠足も自然と山が目的地になる。


 一年生は学園合同の遠足。

 それほど人数は多くないから、教師も三名で楽に引率が出来る。

 班というものも一応は設けられていたが、実際は好きなもの同士で組んでも、クラス移動しても自由みたいなものだった。

 ぼっちな子には教師が寄り添うらしい。


「やっ、水森さん、一緒に行こう」

「うん、上田、くん」


 楓は、一組の集まりからやってきた上田の姿に頬を綻ばせた。

 クラスの仲間達にひと声かけて、班からちょっと外れる。

 上田と付き合うようになって、クラスメイトともそれなりに会話ができるようになっていた。


「結構歩いてるけど大丈夫? 水森さん足痛くない?」

「大丈夫、だよ。ありがとう。文芸部、だって、たまには歩かないと、ね」

「いざとなったら、俺がおんぶするから!」

「それ、ちょっと、はずか、しい」


 上田の決心に、楓は笑い出した。

 今、歩みを進めているのは上り坂。小山を遠足目的地に選んだのだから、確かに行きは上りばかりだろう。

 だが、延々と登り続けていれば足だってパンパンになる。

 全員が運動部ではないわけだし。運動部だって、瞬発力タイプと持久力タイプで、得意な運動が違う。

 ……ということで、

 やや平たくなった所で小休止となった。


「ふう……」


 草原に腰を下ろして、溜息をつく。

 足を止めると、どっと汗が噴き出してくるのが分かる。もう十一月だというのに、体が火照って仕方がない。


「はい」

「ありがとう」


 上田が差し出してくれる水筒のお茶がありがたい。

 彼の水筒の蓋をコップにして、ごくっと飲んだ。


「今俺がお茶を飲めば間接キス」

「え?」

「なんでもございません」

「わ、わたし、は、べつに、構わない、けど」


 もじもじする楓。相変わらず彼らは初々しい感じのままなのだ。

 そんな二人から、少し離れた所で友人たちとはしゃいでいる二人組が映る。

 勇太と郁己だ。

 夏芽から、二人が本格的に付き合いだしたと聞いている。岩田夏芽は勇太を通じて知り合った友達。ああいう、バリバリの体育会系の人なんて、以前の楓なら怖がってしまい、話しかけようとも思わなかっただろう。

 勇太はそういう縁を辺りに振り撒いている、と楓は思う。

 楓から見ると、勇太は人に与えてばかりだったけれど、彼女も今、ようやく得ることが出来たものがあったみたいで、それが我が事のように嬉しい。


「上田、くん。勇ちゃんと、坂下、くんて」

「おう、ようやくカミングアウトしたらしいよね。おせえっての」


 そういう上田も、顔は笑っている。

 楓と彼を結びつけた人たちなのだ。一緒に海にも行ったりと、色々なイベントに誘ってくれた。


「よぉし、私、も、あっち行く」

「え、大丈夫!? まだ疲れてない!?」

「平気…! 私も、体、鍛えなくちゃ、なんだから」


 汗も引いてきて、水分を吸ったシャツは気持ち悪いけど、そのうち乾くだろうと断定。

 楓はわいわいと騒ぐ一組の輪に顔を出す。


「こんにちは…」

「楓ちゃん!」


 一番に見つけてくれたのはやっぱり勇太である。

 郁己の隣からピョイっと立ち上がると、跳ねるようにやって来た。


「大丈夫? 膝とかガクガクしてない?」

「上田、くんと、おんなじこと言ってる」


 勇太と二人で笑った。


「あとね、お祝い、言おうと思って。色々、あったかも、だけど、ひとまず、よかったね」

「うん、ありがとう」


 親友をむぎゅっと抱きしめると、夏よりもまた少し身長が伸びた親友は、むぎゅうっと熱烈に抱き返してきた。

 なんだか、男子達がこっちをみてほっこりしている。

 気にしない。

 なんだか勇ちゃんの手が必要以上に力が入ってる気がするけど、これも気にしない。

 体を離すと、彼女は何故か真っ赤になっていて、


「ふう、危ないところだった」


 なんて言っている。

 郁己がハラハラした顔でこちらを見ていたので、


「勇ちゃん、お返し、します」


 郁己を振り返っていた勇太の背中をぽん、と押してあげた。


「えへへ、なんか楓ちゃんにはかなわないよ。…そうだ、この後の道は一緒に行こうよ」

「いいの? 嬉しい……」





 郁己が見てる前で、勇太は楓と手を繋いで楽しげに山を上って行く。

 登山路といっても勾配は非常に緩やか。

 ハイキングロードである。

 勇太のテンションが高いのは、楓と色々スキンシップ出来たからに違いない。

 奴の中の男子中学生はまだ生きている。


「あー、やっぱ美少女二人が仲良くしてるのは和むよなあ。坂下、金城さんを大事にしてやれよ」


 お前は何をカップルの先輩面をしているんだ。

 それと前を行く二人の片一方の中身は半分男子のメンタリティだぞ。

 まあ、男は女々しく、女は雄々しいみたいなそんな皮肉を聞いたこともあるので、半分男だから勇太は女の子女の子しているのではないかとも思えるわけで。

 肉体的には完全無欠に少女である勇太が、なんか不必要に楓にくっついたり、ふざけあって抱きついたりしている。あの野郎、調子に乗ってやがるな。


「何だ坂下、な、なんで憤怒の形相をしてるんだ? あれか、金城さんを取られて寂しいんだな?」

「別に勇太が羨ましいわけじゃねえぞ!」

「ヒィッ、なにマジギレしてんだよ!? 便秘かよ!」

「人の精神状態を全部便の状態に例えるなよ!?」


 まあ、今はもうただならぬ関係になってしまった訳だし、急速な第二次性徴も概ね一段落したらしい勇太は、実に女の子よりも女の子らしい、けしからん体になってきている。

 これからの事を思うと、とてもテンションが上がるのではあるが、それはそれ、これはこれだ。

 合法的に女子とベタベタできる親友……いや、恋人が羨ましい。

 水森さんはいいにおいがしそうではないか。


「ちぇい!」

「ぐわあっ、上田なにをする!」

「坂下が水森さんに対し、良からぬことを考えているにおいがしたのだ」

「人の心の中を読むなよ!」


 わいわい騒いで登山していたら、気が付くと目的地だった。

 みんなでめいめいに固まって弁当を開く。

 思えば、遠足というやつはなんなのだろう。

 集団行動と公平性を身につけるために行うもの、と、以前ググった時に書いてあった。

 それが目的なのだとしても、授業の一環として、こうやってハイキングするのは良いのだろうか。

 楽しいだけではないのか。


「みんな、悲しいお知らせだよ。私、今日はチキンをたくさん焼いてこなかった」


 勇太がしょんぼりした風に言う。

 体育祭のあれがデフォルトだとでも思っているのだろうか。


「いや、まあそれが普通なんじゃない? あの量は正直私でもどうかと思うわ」


 夏芽はでっかいおにぎりを取り出している。

 ただでさえ大きな手のひらの、彼女なのに、その手からはみ出すようなサイズだ。

 小鞠と利理はすっかりいつも通りで、二人で何やらお弁当交換をしている。

 それでも流石に、まだ郁己と勇太がいるところに来る勇気はないようで、ちょっと離れていた。

 郁己も、勇太も、気持ちの整理がついているわけではないから、その状況はありがたい。

 景色のいいところでお弁当を楽しめば、あとはもう下山して帰るばかりである。


「集合ー」


 和田部教諭が集合をかけた。

 どうやら何か、レクリエーションをやるらしい……。

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