GWの始まり、デートプラン? 男側友人登場
ゴールデンウィーク突入前日。男坂下、デートプランを練るなり。
郁己が高校に入ってから、つるむ友人が出来た。
和泉恭一郎という男で、一見するといけ好かないイケメンだ。
サラサラの髪に、涼やかな目元、すらりと手足は長くて、成績優秀、運動神経抜群。
入学当初からクラスの女子達の目線を集め、クラス外からもちょこちょこ注目されるレベルのイケメンである。
しかしてその実態は……。
「いや、だからな坂下! お前これはもうデートだって。間違いねえよ! な、素直になれ、な? だからして、俺が組んだデートプランでだ」
「だぁー! やめろ和泉! そういうのじゃないんだ、いいか、これは男と男の……じゃなくて、男と女の友情なんだよ」
すると和泉は真面目な顔になって、
「いいか坂下。男と女の間に友情など成立しえない。大学で武勇伝を作り上げた兄貴の言葉だ。食うか食われるか、それだけなんだよ……!」
強く拳を握りしめて力説する。
彼は残念系男子だった。
見た目クールで、中身は熱血。和泉は最初、男どもからは嫌われていた。
だが、彼は暑苦しい男だった。
馬鹿話にかける情熱や、体育の授業ですら全力で挑んで体力を使い果たすほどのおばかっぷりから、すぐに男たちの間で、愛すべき人物と認識されるようになっていた。
彼は不思議と、郁己とウマが合った。
この男もまた、郁己と勇太はデキていると認識していた。
ゆえのデートプランである。
「いいか坂下ぁ」
和泉が郁己と肩を組む。暑苦しいんでそういうのやめてくれ、と郁己が離れようとするのだが、ハグが情熱過ぎて離れられない。
「高校生活のゴールデンウィークってのは、あれだぞ。すごく重要なんだぞ。ここで本当の恋人にステップアップするチャンスなんだぞ」
「いや、だからそういう関係じゃ……だが、話だけは聞かせてもらおうか」
「よし! 兄貴直伝のデートプランを俺が伝授しよう!」
ちなみに、昼休みのクラスである。
勇太は夏芽に誘われて今日は学食。
あのちっちゃいのとでっかいののコンビは、結構気が合うらしい。
二人共体育会系だしな。
そして残った郁己と和泉を、クラスの女子が、きゃー和泉君が男子とあんなに密着してー、なんていう囁きが聞こえてくるが無視する。
「俺たちはまだ学生だ。財力が無い。だから、金を抑えながら連休を凌ぐ工夫が必要だ」
「ああ、月初めで小遣いを使い切るのはきついからな……」
「まず、定番の映画。これはシネコンの早朝のショーか、連休半ばに開催されるこのペア割デーを狙う。これだけで500円浮くぞ」
「ほう……」
「だが気をつけろ。映画館の購買の食事は高い。ジュース程度に止めて、食事はファストフードだ」
「うむ、道理だな」
「幸い、このシネコンはショッピングモールに併設されている。その後のデートには充分な活動ができるだろう。先ほどファストフードと言ったが、フードコートで食ってはいかんぞ!」
「なに、そうなのか!」
「ゴールデンウィークは親子連れも増える……。子どもたちが走り回る中では、雰囲気も何もあったもんじゃない」
勇太はそういうの好きそうだがなあ、と郁己は思う。
ともあれ、和泉との会議で、映画館からショッピングへ流れるプランを作成した郁己は、戦いへの思いを新たにする。
そして思うのだ。
俺は一体どこへ向かっていっているんだ、と。
「何々? なんかの相談?」
不意に横から話しかけられて、心臓が止まるかと思った。
くりくりっとした目が、横から机を覗きこんでいる。
勇太が気配を殺して現れたのだ。
「いや、あんたらすっごい熱中して喋ってるから、私達に気づかなかったんじゃない」
夏芽が呆れて答えた。
バレー部へ入部を決めたらしい彼女は、納得の長身。
可愛らしいボレロ型の制服を着ていてさえ、そのすらりとした肉体はかっこ良く見える。
兄貴、とでも呼びたくなるほどだ。
「なんか失礼なこと考えたでしょ」
「滅相もございません」
郁己と和泉の声がハモった。
和泉はデートプランを小さく折りたたみ、郁己のポケットに突っ込んだ。
「健闘を祈る」
「パインサラダを用意して待っていてくれ」
「え、パイン食べるの? おれ……私も食べに行きたいな」
そうかそうか、それじゃあ放課後一緒にアイス食べて帰ろうな、と郁己が目を細める。
勇太は今、一人称改造のために懸命な努力をしている。
もともと男らしい側の男の子だった勇太が、なんの因果か今や女の子である。まだついてるが。
女性として活動することはさぞやストレスであろう。
甘い物を補給して自分にご褒美を与えるくらい許されて然るべきだろう。
「じゃあ、帰りは131アイスクリームで親交を深めようじゃないか」
「さんせい!」
「男同士の親交か、悪くない」
「私は部活あるんで」
そのようなことになった。
明日から、連休が始まる。