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体育祭終了からの……二学期中間テスト勉強!

 体育祭終了である。

 激戦であったが、僅差で亜香里野キャンパスの勝利となった。

 だが、何故か亜香里野側の選手たちは疲弊している者も多く、本校側はやりきった笑顔を浮かべて爽やかな様子だ。

 なんだか、晴乃が肩を怒らせて教員席に行き、件の男性教諭を叱りつけている。


「ああ、あれ? あの先生ねえ、晴乃んのお兄さん」

「ええーっ!?」


 数々のセクハラ競技を生み出したのは、晴乃の一回りも年上の兄、和田部教諭だったらしい。

 閉会式も終わり、みんなばらばらと帰っていく。

 明日は予備日で休みだから、きっと家でぐったり寝転んで、今日の疲れを癒やすのかもしれない。


 楽しかった学園祭と体育祭も終了し、学園はしばしの間、落ち着きを取り戻す。

 そしてやって来るのは、嬉し恥ずかし、二学期中間テストである。

 10月末のこのイベントにより、浮かれていた学生たちへ冷水を叩きつけるが如き効果があるわけだ。

 特に、浮かれていた一年生たちは途端、阿鼻叫喚の有様となった。



「ううう、郁己、郁己いー」


 勇太が泣きそうな顔で袖を引っ張ってくる。

 学園祭の仕込みや体育祭の練習にかまけて、全く家庭での学習をやってこなかったのだ。

 来週中間テストです、なんて言われて、ハイそうですかという答えはどう頑張っても彼女の口からは出てこない。

 テストが無残な結果に終われば、妹からの軽蔑の視線と、律子さんからの学習塾行きなさい宣言が待っている……気がする。


「俺、このままじゃ塾行かされちゃうよ! 放課後の時間が減るのはやだああ」


 多かれ少なかれ、世間一般の高校生諸君の大多数は通っている学習塾である。

 行っていない勇太が若干珍しいのだが、彼女としてはアフターは自由に楽しみたいというスタンスなのだろう。


「そうか……。勇太、俺はいつも、毎日の予習復習は最低限やっておくように言ってたよな」

「言ってたね」

「やってなかったでしょ」

「うん」


 郁己は、過去に学ぶということをやらないこの幼馴染を、とりあえず丸めたノートでペチッた。


「あきゃっ! ううう、だってずーっと楽しいコトばっかりだったんだもん。仕方ないじゃんさあ」


 それでも、現代文の授業は自分から進んで手上げなどするようになっているから、以前より全然良くなっているだろう。

 勇太は読書習慣がついてきていて、文芸部で文章を書いたりなどするから、読解力や記述する力も上がっている。

 今回はそちら方面で、対策は必要あるまい。


「わかった。それじゃあ、今回もやるか……!」


 こんかいも合同勉強会という形式を取り、金城邸に何人かのゲストをお招きした。

 水森楓、上田悠介ペアはいつもどおり。

 楓は一人でもちょこちょこ金城邸に遊びに来ていて、心葉と読書談義を咲かせているらしい。

 これに加えて、学園祭以降に親しくなった板澤小鞠と竹松利理がやって来る事になった。

 一見すると男女2:4、戸籍上は3:3の組み合わせである。

 なお、この世界では18歳で成人のため、その年令を以って勇太は家庭裁判所にて、正式に女性に性別を変更することになっている。


「ここが金城さんの家……。大きいわね」

「今日はよろしくお願いしまぁす」


 二人がやってきた。

 休日となった体育祭予備日の朝である。

 小鞠の私服は割りと少女趣味で、可愛らしい。

 フリルのついたワンピースや、明るい色使いがとても高校生とは思えな……いや、彼女らしさを演出している。


「ああ、これ? あたしが服を買いに行くと、母さんがついてきて、すっごく口出ししてくんの。メインお財布はあの人だから、逆らえなくって」


 なんて言っているが、本人この服は満更でもなさそうである。


「またまた。小鞠んはそーゆーおこちゃまな洋服大好きなんでしょぉ? 私知ってるぅー」


 対する利理は、とてもギャル度が高い、よくわからないロゴがキラキラしながら入れられたTシャツに、おでこを見せる髪型にメイクもそれなりにバッチリ。

 城聖学園が髪染め禁止なので、ややウェーブした黒髪なのが、ギャルっぽさを強めないギリギリのところで踏みとどまっている。

 小鞠をからかって、今はお腹にショートボディブローをたくさん喰らって呻いているが、まあこの二人も仲がいい。


「みん、な、お願い、します」

「水森さんよね。よろしくね」

「楓ちゃんよろー」


 勉強会内容的には、特に変わったことをするでもなく、淡々とテスト範囲をさらって郁己なりの重要ポイントをきっちり勉強していく。

 郁己のスタイルとしては、広く範囲を勉強して自分のものとし、テストの出題に、ある程度アドリブでも回答できるようにしておくのがベスト。

 だが、これは予習復習をきっちり行い、今の授業を完全に理解している必要がある。

 それに、理科や社会系教科はどちらにせよ暗記重点だ。

 故に、ある程度ヤマを張り、そこを中心に教えていく形になる。


「水森さん、この辺覚えておけばいいかな」

「そこは、ね。上田くんは、こっち、も押さえて、おいたほうが、いい、よ」

「……本当に上田が付き合ってるのね」

「な、なんだよう板澤! 俺が水森さんと付き合ってたらおかしいのかよ」

「いやね、ちゃんと彼氏してんの、とかちょっと思って」

「上田、くん、優しいよ?」


 楓の返答に、小鞠はハイハイ、ごちそうさまって顔になる。

 利理はなんだか、勇太・郁己ペアや楓・上田ペアをみて嬉しそうだ。

 恋バナとか好きなんである。この女子は。

 だが、勇太・郁己ペアにはいつもどおり甘さなどない。


「よーし、ここからここまでの範囲は覚えたな! これを見ろ! 俺がさっき作った即席の抜き打ちテストだ! 早速やるぞ!」

「ひぃ!?」

「ひぃ!? じゃない! 鉄は熱い内に打てって言うだろ? 記憶したうちに実践で使って、脳に焼き付けるんだ。さあ開始!」

「ううう……、が、がんばる……!」

「制限時間5分な」

「わあああん」


 同じ内容のものが、小鞠と利理にも渡される。

 先ほど郁己が、みんなのドリンクを買いにコンビニへ走った時、コピーしてきたらしい。

 内容は小鞠も唸る本格派。

 一応学習塾に通う小鞠と利理は、塾での小テストもよく受けることがある。郁己が作成したこれは、本場の小テストと遜色ない。


「坂下は結構こういうの向いてるかもね」


 そんなことを言いながら、小鞠はカリカリと空欄を埋めていく。

 利理が、郁己と小鞠をチラチラっと見ている。そしてちょっとふふふ、なんて笑う。


「そうかなあ。俺はまだ、何がやりたいかとか考えてないなあ。でもまあ、教師とかも面白いかもしれないな。なんか勇を教えてると、生きてるって気がする」

「私は生きてる心地しないよ!」


 郁己の述懐に、勇太が抗議の声を上げる。


「ふぅん。いいと思うけどな、教師。考えてみたら?」

「そうか、教師かあ……」


 小鞠の視線がちょっと郁己に行って、またすぐテストに戻る。

 今回、金城邸の勉強会に参加しようと言ったのは小鞠である。

 晴乃が塾の休日講習に行っているので、利理は暇だった。そして何か彼女の好きなにおいがしそうだったのでついてきた。

 ふむふむ、と利理はその嗅覚を働かせる。

 なんだか……ちょっと波乱のにおいがするわねぇ……。


 彼女は一心不乱にテストを解く勇太と、チラチラと視線を泳がせる小鞠を見つめて、最後に……。


「あー、体育祭の女子の体操着良かった……」


 残念なことをつぶやいている郁己を見る。


(これから、ちょっと大変かもしれないぞぉ? 坂下くん?)

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