体育祭、綱引きとお昼ごはん
綱引きタイムである。
わいわいと、大きな綱の両端に本校、亜香里野両校の生徒が集まる。
これはまあ、言わばレクリエーションのようなもの。
毎年それなりに頑張り、互いに数字を取り合うイベントだったはずなのだが……。
「亜香里野ぉーっ!!」
「ファイトッ!!」
やたらと亜香里野キャンパスの面々に気合が漲っているのである。
「おおー、なんか殺気立ってるねえ。空気が重いんだけど」
控え席で、勇太は亜香里野の放つ並ならぬオーラを感じる。
何故そこまで必死になるのか。
これは本校に対する対抗意識だけではない。
綱引きチームの一番後方には、由香会長と一緒に学園祭にやってきた、あの大柄な男がいるではないか。
生徒会副会長の、大田数馬である。
彼は、村越由香に心酔し、彼女を崇める強烈な親派だった。
奴が睨みを効かせているのだ。
そして、村越由香の意図に沿うよう、学園の生徒たちを動かしていっている。
「青帝流の駆け出し君が、調子に乗ってるー」
「勇太くん、物騒な目をするのはやめたまえ」
殺気を放つ勇太を、郁己がなだめる。
どうどう、と親友を諌めながら、頭をなでたり背中をさすったりするっと尻を撫でたりする。
「あきゃっ」
勇太が飛び跳ねた。
「郁己ぃー!」
「ギェピー」
毒気が抜けていつもの勇太になったが、その代わり郁己は天地逆さになって地べたに転がることになる。
そんなことをしている間に、綱引きの決着はついていた。
引っ張られて倒れ伏している本校側生徒。
立っているのは亜香里野側である。
圧倒的勝利……!
これが、気迫の差なのであろう。
また勇太がムカムカし始めている。
勇太は、村越由香会長に関してはそうでもなさそうなのに、あの大田という男には妙に敵愾心を燃やしている。
彼女に言わせると、なんかムカツクということらしい。
「よーしよし、勇太、落ち着くんだ。お前はお腹が空いてるんだろう? な? 腹が減ると誰しも攻撃的になっちまうからな」
図らずも午前の競技は終了である。
100m走で2位だったというのに、その容姿で両キャンパスの女子たちからの歓声を浴びている和泉とかがいたがそれは省略する。
昼食時間である。
勇太をずっと撫でていた郁己はホッとする。
「よし、勇太、飯だ。ランチ。オーケー?」
「オーケー!」
勇太の機嫌が治った。
相方がアホの子だと助かる。
クラスの垣根なんか無いも同じ。
今回は同じ敵と戦う仲間である。
ってことで、
「勇、ちゃん、わたし、芋煮作って、きたよ」
「わはー! 楓ちゃん凄い! 凝ってるー!」
大きな魔法瓶から、よく煮こまれた芋煮が出てくる。紙のお皿にそれを受け、勇太は満面の笑顔で食べ始める。
楓にとっては、勇太と出会った時の思い出の料理だ。
調理実習で、この料理を選んだから、今の楓がある。
「上田、くんも」
「うおおおお、水森さんの手料理……! 俺、もう死んでもいい……!」
「死んじゃ、だめ、だよ……!」
「じゃあ生きる!」
「はいはいー、ごちそうさまー」
夏芽が二人のイチャイチャを軽く流しながら、楓の芋煮を頂戴する。
小鞠も目を爛々と輝かせ、湯気を立てる芋煮に熱視線を送っていた。
「はい、みんな、どうぞ」
魔法瓶いっぱいの芋煮だが、すぐに無くなってしまいそうだ。
勇太、夏芽、小鞠と、ちびでかちびで並んで芋煮を食べる姿はなかなかユーモラスである。
「私はぁ、天むす作ってきたよぉ」
と、ランチボックスを開けるのは利理だ。
中には色とりどりの天むすが控えている。
このだらしない系女子は、意外にも女子力が高いのか。周囲の男子達が戦慄する。こんなワガママボディでしかも料理が出来るなんて、結婚したい!
だが、この天むすを食べられるのは女子達だけなのである。
「すご、美味しい、よ。わさび菜、の、天むすなんだ、ね」
「おいしーっしょ? 愛知のおばーちゃんの得意料理なのぉ」
「へえ、利理にしてはやるじゃない」
「んー、小鞠んは何を持ってきたのよぅ」
利理の質問を受けて、小鞠は不敵に笑った。
「見なさい……!」
弁当箱から漏れ出る金色の光と茶色の大地!
それは、大量の玉子焼きと、大量の唐揚げであった。
予めシェアすることを考えて用意された弁当……。板澤小鞠は策士でもあったのだ。
「すっごい! 小鞠ちゃん美味しそう! ちょうだい!」
「たんと食べるがいいわ!」
小鞠が控えめな胸を誇らしげに張る。
からかうつもりだった利理も、まさかこれほど潔いものが現れるとは思っておらず、気圧されながら箸を伸ばす。
「小鞠ん……恐ろしいヤツ……んまっ」
確かに美味い。
しかも、これもまた小鞠自身が作ったものだという。
きちんと下味がついた唐揚げは味わい深く、玉子焼きは甘くふっくらしている。
このクラスの女子達は女子力が高い……!
御堂、境山、和泉、そして郁己が戦慄する。
……おや? 上田はともかく、伊調がいない。
楓といちゃつく上田の向こう、一般席で、伊調が異様なオーラを出しながら、学園祭に連れて来ていた美女たちといちゃついているではないか。
あれは……なんだ……!?
きっと幻を見ているに違いない。
「じゃあ、当の金城さんは何を作ってきたのかしら?」
「勇ちゃんも料理するのぉ?」
「勇は料理しなさそうよね?」
「勇、ちゃん、どんな、お弁当……?」
注目を浴びて、勇太、不敵に笑う。
郁己が知るかぎりでは、勇太は料理は食べる専門である。作ったり女子力をどうこうとか、そんな話は聞いたことがない。
だから、今日の料理も律子さんがつくってきたはずで……。
「郁己……いつまでもダメ子の俺じゃないよ……!」
「なん……だと……」
勇太がリュックからランチボックスを取り出……でかっ!?
その大きさに少年少女たちが慄く。
リュックの90%がランチボックスであった。
三段重ねのそれを開くと、中には、みつしりと肉が詰まっている。
一段目……。タレを付けてガッツリ焼いたチキンレッグである。手羽先である。
二段目……。タレを付けてガッツリ焼いた焼き鳥である。大振りな焼き鳥である。
三段目……。タレを付けてガッツリ焼いた野菜炒めであった。良かった、三段目は鶏肉じゃなかった。
「……パーティ用のランチ?」
「運動会ランチ!」
「いやいやいやいや」
「いやいやいやいや」
勇太の返答に、みんなが半笑いになる。
話を聞くと流石に一人で焼いたのでは無いらしい。
心葉と二人で早起きして朝からせっせと焼いてきたらしい。
まだ家には結構残っているそうで、今日の金城家は昼食で鶏肉を食べているはずだという。
「実家からまるごと二羽ぶん送ってきてさ。ついカッとなってやっちゃったんだよね」
女子力というか男らしい料理である。
流石に女子たちでは消費しきれない。
「よーし、男ども集まれー! 勇が料理を作ってきてくれたよー!!」
夏芽が声を上げると、うおおおおおおー!と野太い歓声が響く。
食べ盛りの男子達が群がり、重箱の中にみつしりと詰まった肉が消化されていく。
「すげえ歯ごたえだ! なんて、なんて男らしい料理……!」
「味濃いなー! ご飯欲しくなるわー」
「このガッツリ感……男の子の味だよな……!」
別の意味で絶賛である。
勇太はテレテレしながらえへへ、なんて笑っているが、決して女子として褒められてはいない。
ともかく、一年一組のテンションはマックス、気合は十分。
「お腹いっぱい食べて、午後は反撃するよーっ!!」
勇太が拳を突き上げると、
「おおーっ!!」
クラスの仲間達もまた拳を突き上げる。
さあ、食後の運動、玉入れが待っている。




