部活見学、古典的被服への感動。
この学園はファンタジーなんで、古きよきアレだってあるのであります。
「なんだよう、郁己。さっきから俺のこと見て。気持ち悪いぞぉ」
体操着姿で座り込んでる勇太を、チラチラ見てしまう。
いや、これを見ずして何を見るのだろう、ってくらい、郁己は勇太を見ていた。
だって、だってあれは反則だ。
郁己の視界に映る幼なじみは、あるものを身につけている。
近所のお姉さんからお下がりでもらった、青いやつ。
ブルマだ。
普段から、実家の道場で鍛えられている勇太の肢体は、健康美というやつだ。
むっちりとした太ももと、女性らしい曲線を描くお尻のライン。この2つが芸術的なバランスで、この青い布地によってつなぎとめられている。
もちろん、そればかりではない。
体操着を下から押し上げる、強い主張をする2つの膨らみ。
膨らみだしたのは去年のことだし、まだ胸が痛い胸が痛いと言っているから、成長の途上らしい。
出来れば親友としてはその成長度合いを確かめてみたいが、一線を越えてしまいそうで躊躇する。
「……いや、無理だから。それ見ないようにするの無理だ」
「や、やめろよう、そんな女の子見るみたいな目でえ」
真っ赤になって上着を伸ばし、必死に隠す勇太。
ああ、その姿も反則的だ。
この春から女の子になった親友はそれほどまでに可愛らしく、暴力的に郁己の倫理的価値観を揺さぶってくる。
だから、こうして二人でやって来た部活見学にも気が入らない。
バレー部と卓球部が今日は合同で体育館を使用している。
ゴム靴がキュッキュッと床を踏む音。
ダンっとボールが叩きつけられる。
かんっ、かんっ、と軽やかな音を立てて、卓球台をオレンジのボールが行き来する。
だが、新入生にいいとこ見せたい上級生たちも、割りと気はそぞろなのだ。
城聖学園高等学校では、体育会系部活動の見学は、体操着をもって行われる。
若々しい一年生が体操着に身を包んで見に来るわけだ。
年下大好きなお姉さんも、お兄さんたちもスポーツに身が入らなくなる。
中でも今日は特別。
一人だけ、この季節にブルマ姿で見学している。
ちょっとちんちくりんでつんつん頭だけど、とっても可愛い一年生女子。
「なんか、郁己以外からも視線を感じるんだけど……」
口元をひきつらせて勇太が言う。
郁己はそれとなく動いて、勇太を上級生たちの視界から隠す。
あからさまに先輩男子達は失望した顔になった。
勇太をじっくり見ていいのは、俺だけなのだ。
どこか誇らしげな感情を抱き、少年は優越感に浸る。
あくまで友情、友情の証としてね。
距離が近くなってしまって、勇太の身体の一部と密着してしまう。
幼なじみは何故だか体温が上がっていて、ほんわか暖かかった。
同級生たちのやっかみ混じりの視線も感じる。
「なあ勇太」
「うん?」
郁己は立ち上がり、
「もう行こっか」
勇太はきょろきょろと周りを見回すと、すすっと立ち上がった。
肉付きのいい、きれいな脚がむき出しになる。膝裏がなまめかしい。
辺りから、おおっという野太い感嘆の呻きが漏れた。
郁己の胸のあたりがなんだかモヤモヤする。
勇太はこんなに可愛くなってしまったのだから、こうやって他の男どもに見せつけていてもいいものだろうか。
いや、良くない。親友として彼を守らねばならない。
あくまで親友、親友として。
「行こ、郁己。明日はどこ行くの」
郁己はすすっと動いて、背後から勇太のお尻を見ようとするけしからん視線をカット。
ブーッというブーイングが聞こえたが無視無視。
目の前では、形がいい、しかもふんわりと柔らかそうなお肉に包まれたお尻が揺れていて、とても目を離すことが出来ないのだが、
「文化部行こう、文化部。とりあえず、もう今日は帰ろうぜ」
なんとか目線を切って、後ろから勇太の肩に手を置いた。勢いをつけるようにどんどん押していく。
「わわっ、押すなよ郁己~!」
親友の肩は細く、なだらかで柔らかく、しっとりと湿っていた。
郁己は、自分の理性が段々抑えきれなくなってきているのを感じている。
早く夏になれ。
郁己は念じた。




