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女子会~食欲の秋とか~

 さて、男どもを廃し、まさに今。

 駅前には女子たちが集っていた。

 大型デパートに入ったスイーツショップが、ケーキバイキングを開催したのである。

 これを発見した板澤小鞠は女子会の結成を宣言し、彼女の理想に共鳴した女達がここに集まった。

 一人目は、小さな体に大きな胃袋。ケーキバイキングのワンマンズアーミー金城勇太。

 二人目は、食べたものは胸に行く。脂も肉も甘味も全部胸。一年一組バストの女王、竹松利理。

 三人目は、甘いモノは私のガソリン。打ち出すスパイクがすべてを壊す破壊王、岩田夏芽。

 四人目は、お腹の脂なんて怖くない。勉強に必要な物はブドウ糖、勉強マシーン丸山英美里。

 和田部晴乃はバランス良い食事論を提示してきたので、小鞠は泣く泣く彼女を切り捨てることにした。


 五人の戦士たちは小鞠を先頭に、スイーツショップへ乗り込んでいった。

 おばさま、OL、女子高生が埋め尽くす、まさにここは戦場である。

 殺伐とした空気の中、戦いが始まる。


 小鞠は優秀なるメンバーたちに振り返った。


「いいわね。ケーキバイキングは食うか食われるか。一瞬でも気を抜けば、空きっ腹を抱えて帰ることになるわよ。それが嫌なら、気合入れなさい!」


 小さな体から巨大なオーラが立ち上る。


「本来は学園祭の打ち上げも兼ねていたんだけど、もうこうなっちゃったら仕方ないわね。とことんまでやるしかない。逃げ道なんて無いわ。前に進むしか、私たちには許されてない。周りを見回せば分かるでしょう? 敵は一騎当千。ほんの少しの油断が命取りになる。だけど、進まなくちゃだめなのよ。なぜなら、そこにケーキバイキングがあるんだから……!!」


 小鞠が拳を強く握りしめる。

 それを見つめる少女たちが、深く頷いた。


「行くわよ、アンタ達……!!」

「おー!」

「おぉー」

「やるわよ!」

「はいはい」


 制限時間は90分。

 この限られた時間でどれだけのケーキを食べることが出来るのか。これが勝負の分かれ道なのだ。

 量ではない、質である。

 だが、その高品質をできることならばたくさん食べたいではないか……!


「よろしいですね? これより90分。このタイムウォッチが鳴れば試合終了です。悔いの残りませんよう」


 ウェイトレスがテーブルに設置された装置のボタンを押す。

 五人は無言で立ち上がった。


「よーし、食べるぞぉ」


 ニコニコしながら勇太。

 スポンジ生地のがっつりクリーム系をガンガンお皿に取っている。

 素人め……! と小鞠は苦々しく見やった。あれではすぐにお腹がふくれ、たくさんのケーキを楽しむことが出来まい。

 夏芽はミルクレープやワッフル生地、サクサクのウェハース地と言った食べごたえある物中心。


「やっぱり、食べてるって感覚があると楽しいよね」

「ねー」


 勇太と夏芽が楽しそうにケーキタワーを積み上げていく。

 周囲のおばさまがたが、本当にあんなに食べられるのか、という目で見ている。

 だが、二人は席について談笑しながら10分足らずでお皿を空にして立ち上がってくるのだ。

 仲睦まじくケーキ交換なんかしながら、ケーキ一つを一口で片付けていく。


 利理と英美里は、チーズケーキ系のメニューを中心に周回中。

 常識的な胃袋の二人だが、栄養が全部胸に行く系の利理と、まんべんなく全身に行く英美里では真剣さが違う。


「カロリーがね……。甘いものは必要なんだけど、ベイクドチーズよりはレアの方が……」

「えぇー。大丈夫だよぉ。カロリー高くてもお腹に行くわけじゃ無し……でも、これ以上大きくなると、可愛いブラがもうないのよねぇ」


 じっと英美里、我が胸を見る。

 Bでは谷間は出来ないのである。


「なんという格差……でも、分かってない、分かってないわ」


 小鞠は彼女たちを背に、食感、風味、素材、大きさ、生地に差異があるものを選び、飽きること無く一つ一つを食べることが出来るようにお皿に揃えていく。


「さあ、食べるわよ……!」


 なりこそ小さいが、小鞠がケーキバイキングに懸ける情熱は並々ならぬものがある。

 ケーキを愛し、スイーツを愛する小鞠にとって、定額でたくさんのスイーツを食べることが出来るこのイベントはまさに天国だった。

 だからこそ本気になる。

 天国だからこそ、骨の髄までしゃぶりつくす勢いで、その快楽を味わい尽くさねば気が済まない。


 ケーキバイキングのドリンクはフリーだったが、小鞠はあえて雑味のない水と、砂糖もミルクもないストレートティで挑む。

 口の中の甘くなった味を、水と紅茶でリセットするのだ。

 勇太や夏芽みたいに、果汁100%ジュースなんてとんでもない。

 ジュースで腹をふくらませるつもりかッ。


 マカロンを食べ、ミルフィーユを食べ、濃厚チーズケーキからのコーヒーケーキ。

 合間に紅茶を挟んで、ティラミスから甘酸っぱいフルーツケーキ、王道のイチゴショートにモンブラン。

 的確なローテーションを行って、有限なる胃袋というスペースに、ケーキを詰め込んでいく作業。

 一見不毛だったが、これは小鞠にとっては最高の娯楽だった。

 負けられぬ戦いにして娯楽。

 今戦場でただ一人、小鞠はケーキという敵に挑む。

 どれだけ食べても身長には回らないのだとしても挑むのだ。

 何故挑むのか、そこにケーキがあるからだ。



 やがて、90分経過を告げる鐘の音は鳴り響き、小鞠にとっての夢の戦場は終わりを告げた。

 彼女はその小さな体を、ゆっくりと傾かせ、椅子に寄りかかったまま動かなくなった。


「あー……もう食べられない。動けない。しぬ……」


 この小さな体に、おかわり六皿ぶんのケーキを詰め込んだ小鞠は、無限の胃袋勢と同量を食べた計算になる。


「小鞠ちゃん大丈夫? わ、すっごいお腹いっぱいっぽい!」

「はいはい、私が抱っこしていくわね。途中で胃薬買ったほうが良さそうよね?」

「あなた達見てると胸焼けがしてくるわ……」

「お腹いっぱーいぃ。またこよーねっ」


 戦いは終わった。

 私は闘いぬいたのだ。

 そんな小さな誇りを胸に、小鞠は心地よい揺れを感じていた。

 夏芽が女子たちを引き連れ、どこかに向かっている。

 ふと、何かが差し出された。

 これは戦いを生き抜いた自分に対するトロフィーだろうか。

 この小鞠には、それを貰う権利がある。

 そんなことを考えながら、重いお腹をさすりつつトロフィーを受け取り……とやろうとしたら口に突っ込まれて中に入っているまずい液体を注ぎ込まれた。


「うぇぇっ!? まっずう!」


 胃薬であった。

 この日、板澤小鞠はお腹を壊すこともなく、ごく健康な肉体のまま帰宅することになった。

 だが、彼女の口の中にケーキの余韻などなく、ただただ、あの漢方薬めいたえぐみだけが広がっていたという。

 体育祭のパン食い競走でリベンジすること、小鞠は強く誓った。

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