衣替え、紅葉の季節
今日から、一斉に衣替え。
軽快だった夏服では肌寒い季節を迎え、また懐かしい冬服のどっしり感に包まれるようになる。
この冬服のデザインが人気だというから、女子達はテンションが高い。
男子達は、女子達の服を透けて見える下着だとか、細かなところの露出が減るので、悲しみを訴えるものも多い。
郁己の前を歩く少女も、入学した頃と同じボレロを身に纏って意気揚々と道を行く。
あの頃はもっと、制服がダブっとしていたと思うけれど、いま見てみれば手足も伸びて、割りとちょうどいいくらいの塩梅になってきている気がする。
月日というのは流れるのだなあ、と郁己は感じる。
そんな彼も、春に比べれば身長がそれなりに伸びている。
城聖学園へと向かう、駅との中間地点には大きな橋が掛かっていて、足元に流れる河を望む事ができる。
川べりに生い茂る草木は既に色づき始めており、段々と下がっていく気温が秋の訪れを感じさせる。
郁己は少しだけ歩みを早めると、勇太の横に並んだ。
普段使っている道を行けば、ゆっくりと大回りして学園へと向かう、バスと同じ通り道。
何とはなしに、二人で今日は、別の道を通ってみようということになり、いつもの道から一本外れた小道に踏み込んで見る。
川原へと降りられる斜面を望む小道は、家々が点々とする他は鬱蒼と茂る木々に覆われている。
その隙間からは爽々と流れる河の音と、陽の光に照らされた水面が垣間見える。
小さなお地蔵さんを収めたお堂を通り過ぎ、個人経営のような工務店のところで、道が大きく蛇行している。
少し遠回りになるかな、という所でパッと道が開け、よく見知った一本向こうの通りが視界に入った。
郁己が勇太と一緒に、たまに使う帰り道である。
「こっちに出るんだねえ」
てくてくと勇太が先に通りへ踏み出した。
「道はみんな、どこかへ繋がってる的なあれだなあ」
郁己も後に続く。
帰り道に使うだけで、行きには使っていなかった道。
理由は簡単、この道は急斜面に作られた住宅地をぐねぐね上って行く道なのだ。
逆方向にこの道を歩くと、なんだか不思議な気分になる。
コンビニを横目に見ながら歩道を渡り、正面にはまるで町並みに出来た亀裂のような、小さな曲がり角がある。
そこを入ると、すぐに雰囲気がある神社があって、神社を左手に見ながら斜面を上って行く。
この斜面は、ちょうど城聖学園が作られた山を囲む形になっていて、元々はここも、学園を包む山の一部だったのだと感じさせる。
勇太は足取りも軽く、だけど時折立ち止まって、遅れがちな親友が横に並ぶのを待つ。
互いの距離感も、四月の頃とは色々変わってきたのかもしれない。
左手側の家並みがまばらになり、家のすぐ後ろが青々とした林に変わり始める。
山頂から流れてくる水は、用水路を通って降っていて、用水路から家を一本挟むと、人工の川がある。
これも大きな用水路。
水はとても綺麗らしくて、時折ホタルが見られるらしい。
七月はいろいろ忙しくて気づかなかったが、来年こそは見よう、なんて二人で話し合った。
急に強い風が吹く。
風は木の葉を巻き上げて、緑の中で自己主張する、赤く、黄色く色変わりした葉っぱをひらりひらりと舞い散らす。
ホタルの見える用水路にかかる橋を渡り、一際急な斜面を超えると……いつもの学校へ続く道だ。
四月には随分きつい坂道に思えたけれど、今になるとそうでもない。
一体この学園は、どんなひどい地形に建てられたんだ、なんて気分になる。
バスのロータリーにて、郁己の軍団と遭遇。
わいわい騒ぎながらみんなで校門をくぐり、校舎までの無駄に長い道のりを歩く。
この時間帯、バスは数分おきに立て続けにやってくる。
早足で、夏芽が駆けて来る。形で生きをしながら、英美里が彼女に文句を言っている。
いつもの面子が揃ってきている。
ごちゃっと一塊になって下駄箱へ雪崩れ込み、そのまま一年一組へ到着である。
「おはよー!」
勇太が威勢よく声を上げた。
さて、十月の始まりだ。九月からそうだったのだけど、夏休み気分も抜けて、いよいよ秋本番。
教室に腰掛けて、思い思いに会話するみんなが冬服になり、教室の雰囲気も様変わりしている。
「金城さん、随分大勢で登校してきたわねえ」
小鞠がぱたぱたとやってきた。
彼女はいかにも制服に着られているような様子である。
用意した制服に対して、思ったよりも背が伸びていないらしい。まあ、彼女には未来がある。
郁己としてはああいう色々なんでもかんでもちっちゃい子も嫌いではない。
大きくても小さくても女の子なのである。
「みんなでバスで来たのぉ?」
色々揺らしながら利理もやって来る。
ゆったりした制服を着ていてすら揺れているのが分かる。
……うん、大きいものは大きいものでいい。
郁己が座る席の前に勇太がいて、彼女を囲むように、夏芽、英美里、小鞠、利理が集まっていくため、まるで郁己ハーレムのように見えている。
なんだか男子達からの視線が痛い。
そして、担任教諭殿の登場である。
十月の始まりが告げられ、しばしの後に一人の男が壇上へ上がる。
傍らには晴乃が控える。
彼女はすらりと背筋を伸ばして白墨を手に取り、書きつける音も爽やかに、黒板へ議題を記していく。
男が教壇に身を預け、乗り出した。
「では、これより体育祭における、みんなの参加競技を決定する」
学級委員長氏は朗々と、そう告げた。




