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学園祭二日目、文芸部の受付にて

 二日目ともなると、クラスメイト達は要領を掴んで活動できるようになっている。

 さすが若いだけあって学習能力が高いのだ。

 メイド長の采配は冴え渡り、従う女子生徒たちも営業スマイルを浮かべながらキビキビと動く。

 一番の売れっ子である勇太だが、午前中でノルマは終了。

 昨日の時点で模擬店が、二日ぶんの売上目標を達成しているのだから融通が効くのだ。

 ということで、彼女は今文芸部の受付までやってきている。


 昼過ぎからの時間帯は一名か二名で受付にいればいいのだが、なんとなく一年生三人が集まっている。


「亜香里野、の、人たち、昨日、きた、よ。部長、と、火花散らして、た、みたい」


 ちょうどその時は、上田と外で話し込んでいたらしい楓。

 彼の休憩時間に一緒に模擬店を回って、結構満喫したらしい。

 そういう思い出についてはあまり外に漏らさず、自分の内に秘めてニコニコしてる辺りが彼女らしい。

 表情を見ていればいかに楽しかったのかが分かる。


「そっかあ。でも、楓ちゃんはその間に楽しめててよかったねー」

「う、ん。でも、勇ちゃんと、坂下、くんは、全然、回ってない、でしょ」

「そうだなあ。俺たちは昨日死ぬほど忙しくて、身動きできんかった」

「聞いてよ楓ちゃん。郁己ったら俺がお客さんに声かけられるたびに、ムスッとした顔になっていくんだよ? 仕事だから仕方ないじゃんねえ」


 言うたと楓、顔を見合わせて笑う。楓はなんだか、勇太が俺、という一人称をぽろっと漏らした所で思わず笑顔になったように見えた。

 女子二人を受付に置いて、郁己は室内で展示物の簡単な清掃中。


「いや、だってさ、せっかく勇の和服姿が見られると思ったら終日裏方だぜ!? ずっとお預けなのはきついって……!」

「だからって、みんなの前で抱きつくなよう! あれ後ですっごい言われたんだからな!」

「いやあ、ごちそうさまでした」

「いーくーみー!」


 楽しい二人のやり取り。

 ニコニコとそれを眺めていた楓だったが、見学者が現れたのに気づき、


「どうぞ、ご覧になっていってください」


 昨日から何度も繰り返して、なれたセリフを口にした。

 カウンターに用意してある文集は、大人の人達がちょこちょこ買っていく。

 一部300円だ。

 あまり学生や、年の近い若い子はやってこない。

 独特の空間だと楓も思う。

 

 使用している教室の窓からは、山の斜面とそこから自生する緑の木々がよく見える。

 直ぐ目の前の枝で、鳥がこちらを見つめていることもある。

 音楽は特に無くて、静かな中で、ただ展示された文章を見てもらう。

 楓はこの時間が大好きだった。


 勇太がとたんに静かになる。

 楓が彼女の視線を追うと、どうやら貼りだされた勇太の文章を、しげしげと眺めている男性がいる。

 勇太の文章は、楓からすると荒削りで、語彙だってそんなに多くない。

 だけれども、そこから溢れ出すエネルギーや、表現したい! という書き手の気持ちはいたいほど、それを読む人間に伝わってくる。


 彼女の文章を読んでいた男性は、読み進める内にニヤリ、と笑みを浮かべ、頷いている。

 決して短くはない文章を、彼は一言一句逃さず読み切り、ちょっと満足気に立ち去っていった。

 ほっと勇太が隣で安堵の吐息を漏らす。


「よかった、ね。勇ちゃん。あの人、勇ちゃんの感想文、気に入ってた、よ」

「そ、そうかなー。俺ちょっと発表したあとで自信なくなって来たんだけど」

「私も、読んだ、よ。すごく、よかった。これからの、勇ちゃんの作品にも、期待、してる」

「え、そ、そんなー」


 えへへ、と照れる勇太。

 そんな勇太の目の前で、郁己がまじまじと彼女の作品を読み始めた。

 勇太が真っ赤になって立ち上がる。


「やーめーろーよー! 郁己読むなよー!」

「フフフフフフフフフ」


 勇太が郁己をぽかぽかやっているのを微笑ましく眺める楓。

 人の来る様子もだいたい落ち着いてきて、お昼下がりという頃合いで楓は二人に声をかけた。


「もう、私一人、で、大丈夫だから。最後に学園祭、回ってきたら、どう?」


 じゃれあってた二人が振り返る。


「楓ちゃん、いいの?」

「ん、私、ここが好き、だから」

「水森さん、ありがとう」


 勇太と郁己は何やらぺちゃくちゃ喋りながら、外へ出て行った。

 それを見送る楓。

 ちょっと伸びをして、椅子に深く腰掛けた。

 ああいう関係に、早くなりたいなあ、なんて思う。

 そして、今日来た入場者のチェックなんかやりながら、勇太と郁己を自分たちになぞらえて、空想を働かせる。


「は、はずかしい……!」


 空想ですら恥ずかしくて先を続けられない。

 自分は想像力豊かだと思っていたけれど、妄想していたものが現実になると、こうも気恥ずかしくなるものか。

 人目がないことをいいことに、一人悶えていると、突然受付前に人が立った。


「いい?」

「ひゃ、ひゃい……!」


 慌てて起き上がる。

 入場者名簿にカリカリと記入している男に、見覚えがある。

 彼はずっと、外でお客の呼びこみをしてたはずで……。


「お待たせ、水森さん。部長さんに会って、一緒に店番していいって許可もらったからさ」


 彼は受付に回り込むと、楓の隣にすとんと収まった。

 手にしていたのは、焼きそばやら唐揚げやら……。


「上田、くん……!」

「あ、別の食べ物のほうが良かった!?」

「ううん、嬉しい……。でも、上田、くん、クラス、は手伝わなくて、いい、の?」

「営業チームは解散だよ。それどころじゃなくなっちまったんだ。伊調がすっごい美人の外人さんを三人も連れて来てさ……」


 ゆっくりと、学園祭は終わりに向かっていく。

 来年は、上田くんと一緒に模擬店を回りたいな、なんて思う楓であった。


次回が学園祭ラスト、勇太と郁己が校内をぶらつきます

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