文化祭準備!まずは着物を探さなきゃ
「おや、何故接客チームに男子がいるのかなぁ」
「金城さん、助っ人呼んだでしょ?」
「うん、まあ……」
郁己は女子たちに囲まれてなかなか居辛い空気を感じていた。
勇太にヘルプを出されて呼び出されたものの、勇太以外はクラスの女子三名である。
勇太よりちょっと小さいのが、板澤小鞠。髪の毛をツーテールにしていて、外見的な幼さを活かす方向に自分をコーディネートしている。結構気が強い。
勇太よりちょっと大きくて中肉中背なのが、和田部晴乃。ニコニコしていて、いつもまとめ役を買って出る。苦労性だがそうは見せないタイプで、眼鏡っ子であり、何を隠そう、学級副委員長嬢その人である。髪型はショートボブ。
勇太に負けないほどぼんきゅぼんなのが、竹松利理。明らかに服装が体型を露わにするようなタイトなもので、自分のセックスアピールをよく分かっている。ちょっと語尾を伸ばして甘えたような喋り方をする。ポニーテールである。
そして我らが金城勇太。
ハーレムである。
「まあまあ、みんな。男子がいた方が何かとやりやすい事もあるかもしれないよ。それに、金城さんが頼りにしているんだから、期待してもいいんじゃないかな」
「晴乃がそういうならぁ。あたし的にはあんま、坂下は好みじゃないんだけどぉ」
「坂下くん、足引っ張らないでよ? 金城さんに免じて今日は同行しても許したげるけど」
「へい」
荷物持ちとして郁己は同行を許された。
まあ、女子たちとしては彼は勇太の彼氏なので、邪険にする気は無いのだ。
五人は洋服などのレンタルショップへ足を運ぶ。
「すみませーん!」
声を上げたのは小鞠だ。
この娘は物怖じというものを知らない。5月前後で勇太に身長を抜かれ、クラス一のちびっ子になってしまったが、そのハートは並の男よりも太い。
「はいはい」
奥から店員の男性がやってくる。
ここからが商談開始である。
晴乃が前面に出て、用途、求めている着物の種類なんかを伝える。
「なるほど、学園祭の。それじゃあ、決まった規格のものを何着か必要ですよね」
「はい。男子の甚兵衛タイプと、女子の着物タイプで、それぞれ10着ずつあると嬉しいんですが」
「他店の在庫を探せばあると思いますよ。ただ、今日すぐは無理ですね」
「いつ頃までかかります?」
「一週間いただければ」
「それじゃあ、それでお願いします」
テキパキと話が進んでいく。
「副委員長さっすがぁ」
「かっこいいよね晴乃ちゃん」
利理と勇太が晴乃の後ろ姿にエールを送る。
「それで、デザインの方なんですけど」
郁己が仕様書を取り出してきた。
イラストなんかが得意な女子に書いてもらったなんちゃって図案である。
「柄はこういうイメージがいいんです。男子は柄は無くていいので、色だけ」
「ふむ、ちょっと全店の在庫を調べてみますね」
「お願いします。それから、今日来てる四人の女子の試着もしてみたいんですけど」
「あ、わかりました。ええと……ちょうどいけますね。当店には女性用はこちらの柄なら四着です。こちらにより近いものといいますと……二着ですね」
郁己の横で、晴乃がメモを取りながら頷いた。
ゴーサインが出る。
「ではこちらの柄で」
「坂下くんさっすがぁ」
「ま、男子はあれくらいやってくれないとね」
「えっへん、郁己はかっこいいんだよ」
勇太と利理は何をしに来ているのかね。
個人的には、むちむちした二人がぎゅっと身を寄せあってぽしょぽしょ小声で喋ってるのは色々目の保養にはなるが。
その前に、邪魔なちっちゃいのがどーんといる。
「何よっ」
「いや、なんでもない」
取り寄せと予算の話、レンタル期間まですべての予定を詰めて、契約成立である。
代金は後日、学校から業者へ振り込まれる。
それよりも、今日は試着が大事である。
柄は王道の矢絣。色合いは少し明るい赤いろ。
某パスタチェーン店よりもポップな感じになってしまうけれど、これはこれで可愛いんじゃないかという女子たちの意見である。
「私ぃ、むねおっきいから、似合わないかもぉ?」
「そんなことないよ! 私だって夏に着物着たけど似合ってたもん」
利理の発言に、小鞠と晴乃がギッと眼光を鋭くする。
経験者として対応できるのは勇太だけである。
胸元の格差社会はさておいて、いざ着物を着るとなればウキウキしてくるもの。
唯一の男子は店内の椅子に腰掛けてボーっとしつつ、女子たちのきゃぴきゃぴした声に耳を傾けていた。
「うわーっ、これ可愛いー!」
「ま、まあまあじゃないのっ。ひええ、結構首筋出るのね……」
「胸元はだけちゃだめぇ?」
「ダメです。そういうお店じゃないんですからキチッと着てください」
「帯はアタッチメントみたいな感じなんだね。作りはなんちゃって着物だ」
「あれ、金城さんちゃんとした着物をつけたことあるの?」
「うん、夏休みに実家でね。祭神様の巫女さんやったんだ」
「「「おおおお」」」
後でその時の写メを見せてやろう、と郁己は思った。
彼の手には自分のスマホがある。
着替えが終わった女子たちの姿を撮影し、例示としてクラスの仲間達に見せるのが郁己の仕事なのだ。
ちなみにこの後、郁己も着替えて撮影されることになっている。
非常に照れくさいが、きっとニーズは無いだろうなんて思っている。
「お待たせえ!」
テンションも高く勇太登場。
なるほど、矢絣模様の着物に白いエプロン。コレは可愛い。
勇太のやや日焼けした首元がくっきりと見えていて、肌色は合わせ目の間に消えていく。
肩口のラインは緩やかで、着物を着た女性の姿はなんとも優しく見えるものだと郁己は感じた。
「どう?」
郁己の前で、勇太がくるりと回ってみせる。
何度か着物を着たから、身のこなしだってお手のものだ。
体のラインを隠すと思いがちな着物でも、女性特有の曲線はむしろ強調する気がした。
実に可愛らしく、風情がある。
「よく似あってるよ」
「えへへ」
「おーい、そこのカップルー。店内でいちゃつくんじゃない」
小鞠がやってきた。
勇太よりも細くて幼児体型の彼女だが、凹凸が少ない分着物はしっくり来るように思う。
むしろ、この着物が身につけられた時に想定されているボディラインをきちんとなぞったような、教科書通りの着物姿。
これはこれでいい。いや、かなりいい。あとは髪型であろう。
「ふ、ふん、何じっと見てんのよ」
「小毬ちゃん可愛いもんね。ねー、郁己」
「お、おう」
「ほめても何もでないわよっ」
「あー、こまりっち照れてるねぇ」
「ウォッ」
郁己は叫びかけた。
利理の着物姿は余りに暴力的だったからである。はだけかけた肩口に溢れんばかりの胸元。合わせ目が息をしていない。
スリットからは足が覗けるが、下着のラインが見えない。
まさか脱いだのか。
流石は一年一組で最もセクシャルだと言われる女。
気を抜くと意識を持って行かれそうだ。
勇太が腿をつねってきた。
いたいいたい!
「利理の格好こそ何よ! 着物舐めてんの?」
「えへへ、私着付け苦手みたいー」
「それじゃ私が直してあげるね!」
勇太が利理の崩れかかった着付けをぱっぱと修正していく。見事なお手並みである。
ところどころ、着物のラインを崩すほどのボリュームを有しながらも、しっかりと収まりが付いた。
最後に登場は晴乃だ。
ショートボブのメガネ真面目系副委員長、かっちりした居住まいは、女中タイプの着物を着ていてさえ、実に凛々しく見える。
「どうかしら」
少し照れながらくるっと回る。本人、満更ではないらしい。
「晴乃、かっこいいかも……」
「副委員長似合ってるぅ……。委員長惚れちゃうかもよぉ」
「やだ、やめてよ、板澤さん、竹松さん。みんなだってすっごく似合ってるし、可愛いと思うよ」
「晴乃ちゃんは割りと特別だと思うよ! メイド長! って言う感じだ」
「上手いこと言うな勇太」
「メイド長……!」
「メイド長ー」
「メイド長!?」
ということで、集合して写真を一枚、パシャリ。
これをクラスのトークアプリに流す。男どもから、すぐに怒涛のような反響が返って来た。
「おっ、かなり好評みたいだ」
「みたいね。さっ、次は坂下くんでしょ」
「はあ、あまり期待しないでいただきたい」
「してないわよっ」
「私は楽しみかもぉ?」
「男子はどんな感じなんだろうね?」
「郁己、がんばー!」
男子の甚兵衛は実にシンプルである。
そんなに洋服と感覚が変わらない。
ざっと着て外に出てきた。
「こんな風だけど」
「「「「おおお」」」」
女子たちがどよめいた。
「悪く無いわねっ……。きらいじゃないわ」
「洋服よりもセクシーだよねぇ?」
「案外露出が多いんだね……。体のラインもきちっと出てる」
「………!」
勇太が無言で写メを撮りまくっている。アプリに流すのにそんなにたくさんいらんだろう。
「後でプリントアウトする」
キリッとした顔で勇太が言った。
親友がおかしな方向に走りだしている……。
さあ、次は文芸部だ。
人が増えてくると群像劇っぽくなってきますね




