文化祭前、今年の出し物は?
さて、学級委員長氏と副委員長嬢が壇上に立っている。
黒板に記されたお題は、『第六十二回碧風祭一年一組の出し物』というものである。
「開催までは二週間。我々が開催する品目を決定せねばなりません。意見がある方は積極的に挙手願います」
チョークを片手に、副委員長嬢がピシっと板書の姿勢になった。
「はい!」
「はい、御堂くん」
「着物喫茶」
ほう、と教室から感心するような声が聞こえる。確かに個性的かもしれない。
「その場合、衣装はどうすんの? 着物って言っても幅がひろいじゃん」
「男子は甚兵衛で女子は和服の女中さんみたいな」
ほうほう、と教室からまた声が聞こえる。
「着物はレンタルで?」
「統一するならレンタルではないだろうか」
「それではその点に関しては、正式に決定してから詰めていくとしましょう、他に出し物に関する意見は」
「はーい!」
「はい、金城さん」
「たこ焼きの屋台!」
「それは勇が今食べたいものだよね?」
「うん」
一応板書で書かれる。
その他、定番のお化け屋敷、教室内で縁日風の出し物、クラスの人間が比較的自由に動ける展示物、などの意見が出されたが、厳正な挙手によって決定されたのは着物喫茶であった。
「着物……!」
郁己の脳裏に蘇るのは、夏に玄帝流の里で着物をまとっていた勇太のイメージである。
普段とはまるで別人のように大人びた印象の、巫女姿の勇太。
浴衣を身につけて、艶やかな印象の勇太。
いいじゃないか。
男女ともにこのアイディアは優秀、という判断である。
総支配人として御堂俊作が名乗りを上げた。サッカー部の出し物である屋台には、顔出し程度にするらしい。
その後、クラスの予算とメニューの話に移り、経理会計を丸山英美里が担当することで一応の了を見た。
そして諸々の話し合いの後、かなり速やかな決定で、店先に出るものと調理に回るものが分けられた。
伊調守に関する取り扱いは、男子達の半分、女子たちの大部分を戦闘不能にしてしまうということで、覆面を被ってサンドイッチマンとして働く方向で決定。
上田と境山も同行し、ちんどん屋風のムーブで客寄せを行う。
「委員長、有能だな……すげえ速度で決まっていく」
郁己は舌を巻いた。
「中学の時の出し物とかは、もっと混沌としてたよねー。放課後までもつれ込んで、結局決まらなかったりしたもん。男子の悪ふざけとかあってさ」
「だな。だがうちの委員長、デジタルに判断してくるから強いな。肯定否定無しですべての意見を出し尽くさせ、それを討議するとは」
「副委員長の板書も早くて綺麗だよね。放課後あの二人が打ち合わせをしてるの見たよ」
「もうあの二人付き合ってるんじゃないか」
「ありえそうだけどねえ」
そんな郁己と勇太は、今、文芸部の部室へ向かう途中である。
一年生三人、二年生二人、三年生二人という少人数の部なのだ。
「待っていたよ、金城くん、坂下くん」
等々力先輩がブラインドに、指先で小さな隙間を開けながら窓の外を眺めている。
その背中が入室者の名前を呼んだ。
「等々力部長相変わらずおっきいねー」
その2mほどある背中に勇太は声をかけ、着席した。
地味な三年生女子二名と、二年生女子一名、そして楓が既に席についている。
郁己も勇太の隣に腰掛けた。
「毎年恒例の事となるが……我が文芸部では文集の作成を行っている。金城くん、坂下くん。これらの作業は一学期より開始し、夏に印刷する形を取っている。つまり、今回の文集に君たちが参加することはできない。この事は肝に銘じてくれたまえ」
背後を振り返ること無く、巨大な背中が言葉を紡ぐ。
「あ、はい、それは了解しています」
郁己の言葉に、等々力氏は背中で頷いてみせた。
「展示形式で、何か書きたいものがある者の発表も受け付けている。やりたいことがあるならば、私に伝えて欲しい」
「はい!」
勇太が挙手した。
「じゃあ私、感想文書きます!」
「良かろう」
いいんだ!?
この短期間で仕上げるということらしい。勇太に眠っていた文学への意欲が今目覚めつつあるのだ。
それと同時に、郁己はクラス発表の営業班、勇太は接客・被服班に所属している。
忙しい二週間が始まろうとしているのだ。
「勇、ちゃん、がんばって」
楓が小さくガッツポーズ。
勇太も笑顔で、ガッツポーズを返した。
「何で書く、か、決めて、あるの?」
「ううん、まだ何も考えてないんだけど……難しい本だと読むのに時間かかっちゃうかもしれないなあ」
「じゃあ、ね、とっておき、あるよ」
図書委員でもある楓にはオススメの一冊があるらしい。
後でね、ということで、帰りに立ち寄る図書室で教えてくれるらしい。
すっかり女の子二人は仲良くなって、和気あいあい。夏芽や英美里とはまた違った人間関係が、勇太と楓の間にはあって、これはこれで美しき女の友情を感じる郁己。
実際、頭脳面、文化面で勇太を何度も助けてきている楓。
引っ込み思案っぽいキャラに似合わず、頼りがいがあるのだ。
人の痛みや気持ちに敏感なのだという気もする。
郁己も、彼女には一目置いていた。
文芸部もこの日は早めに解散し、各々用意する物があるなら、準備しておくようにということになった。
帰りに立ち寄った図書室である。
楓は勇太に一冊の本を手渡した。
芥川龍之介の短編集である。彼がパロディにした誰もが知る物語などが収められていて、確かに取り掛かりやすい。それに、一本一本が非常に短い。
「有名な、作家さんだけど、好きなとこからよめる、よ。知ってる話と、比べるのもいい、と、おもう」
「おおー! 俺もこの話知ってるよ! わー、こんな本あったんだ!」
「おれ?」
「わ、私!」
素がでたな。
もっとも、楓の前なら勇太は素でもいい気はするが。
いつか、勇太が腹を割って話せる相手に、楓はなるだろう。
それはそんなに遠い話ではないと郁己は思った。
今日は、電車の中での会話はお預けになりそうだ。
勇太は受け取った本を、目をキラキラさせて眺めている。
これから彼女は読書三昧になるのだろう。
学祭準備編をちょこちょこと




