台風到来。休校だと思った?残念でした、平常運転だよ!
「は、離せ郁己ぃー! 俺は徒歩で行くんだー!!」
「落ち着け勇太! この天気であの地形を徒歩はやばい!」
世はまさに台風日和。
街に進撃してくる台風は、すんでのところで逸れるルートに入ったものの、暴風と雨の余波はなかなかすごい。
そして城聖学園高等学校は気合が入っているのか、休校などせずに平常運転を宣言したのである。
登校サバイバルが始まった。
郁己と勇太は早めの電車を用い、紙一重で電車ストップを回避。
遅延を開始した電車が阿鼻叫喚を生み出すのを背後に、今駅前で揉めているところだ。
なかなかクールな風が吹いている。雨も降ってる。
「勇太、いいか、台風はウキウキするが、時と場合によるんだ。場所によっては凄い降水量で洪水だって起こるんだぞ。だからまずはバスに乗るんだ」
「俺の徒歩記録が!」
「そこのカップル、揉めてないでさっさと中に入んなさいよ」
「ぐえ」
「ぎゅ」
二人を中に押し込んだのは夏芽である。英美里も後ろにいる。
ということで、郁己と勇太はバスに搭載されて出発と相成った。
いつも以上にバスはすし詰めである。
「あ、おじさんの傘がぶっ壊れた」
外を見ていた勇太がつぶやく。
「ほんと、ありえないわよね」
英美里が顔をしかめてみせた。
「台風で休校にしないなんて。昼から上がるっていうけど、登校自体が危険じゃない。未来あるあたしたちに何かあったらどうするつもりかしら」
「私は別にどっちでもいいけどなー。なんかこういうのって、イベントみたいでわくわくしない?」
夏芽のセリフに、英美里は信じられないものを見るような目を向けた。
おおいやだ、これだから脳筋は、と顔に書いてある。
「あー、俺も丸山さんに賛成かな。家でごろごろしていたい」
「そりゃ坂下君は隣に勇が住んでるものね」
「爆発すればいいのよ」
「ん?」
名前を呼ばれて勇太が振り返った。
外の世界の台風模様に大層ご満悦な様子である。
「そう言えば聞いたけど、金城さん文芸部入ったの? 意外」
「うん、うちの先輩たちもすっごく残念がってたわよ。今年は全国四位だったじゃない? だから、来年に向けて強力なリベロが欲しかったのにって」
勇太は体育の時間は英雄である。
女子の中でも夏芽や他数人と頂点を争う身体能力で、いつもバレー部や卓球部の先輩たちが、虎視眈々と彼女の獲得を狙っていた。
そんな彼女が、文化祭意外では活躍しないあの地味な文芸部(部員総数5名)に入ったのである。
衝撃が学園を駆け抜けた。
郁己を加えて大幅増員となった文芸部は、飛ぶ鳥落とす勢い……ではなく相変わらず粛々と行動している。
彼ら文芸部は運動部にとって面白くない存在なのだが、二年生部長の等々力亜門先輩が、新聞部の副編集も兼任しており、学園内のゴシップに大層詳しい。
痛い秘密を握られている運動部上層部は身動きが取れなくなり、勇太争奪戦は一応の了を迎えたと見られている。
ちなみに、男子のみであるサッカー部も、マネージャーとして勇太を狙っていたようだ。
「おれ、じゃなくて私、芸術的サイノーに目覚めちゃったから」
勇太がドヤ顔で言うのを、女子二人はちょっとほっこりして眺めて、それから二人で勇太の頭をなでなでした。
「勇は変わってないわねー。安心したわ」
「金城さんはおばかなままがいいわよね」
「ん?」
勇太一人だけ状況が分かってない。
ほっこりしている内に学園到着である。
バスは非情にも、校舎から200mほど離れた入り口のロータリーで停車。
学生たちが悲鳴を上げる。
外はさわやかな暴風雨である。
運転手は情け容赦なく出口の扉を開いた。
学生たちは戦士となり、戦場に投げ出される。
「うぎゃあああああ」
「ぎえええええ」
「ひいいいいいい」
「あたしの傘ああああ」
「おっ」
「勇が持ってかれる! 坂下くん飛びついて!」
「うおおおおお勇太あああああ」
無事校内にたどり着いた。
多少持って行かれても、山側にはフェンスがあるのでそこで食い止められて無事だったんじゃない、なんて意見が飛び出してきている。
全員濡れネズミであった。
英美里のセットしたであろう髪が貞子ヘアになっている。
夏芽も髪がぐっしょりして、なんだかぐったりしている。
勇太が背後で、ぶるぶる頭を振って水気を飛ばしていた。
「ひゃー、面白かったー!」
「子供は元気ねえ……」
「まったく」
女子二人は、一人だけ元気なのを引き連れて教室へと向かった。
一方郁己は、下駄箱前で派閥の仲間たちと遭遇。
全員酷い有様で実に男前である。
「御堂! 上田! 境山! 伊調! よくぞ、よくぞ辿り着いたな……!」
「坂下お前、一人だけ女子三人に囲まれやがって!」
「……!」
「グフッ、これは許されないね」
「水森さんが休みなのによう!」
「や、やめろー下克上かーーー」
みんな同じバスにいたらしい。
さて、たどり着いた教室はカオスの坩堝であった。
なにせみんなひどい有様である。
「やばいやばい、風邪引いちゃう」
「お、暖房入れてくれたみたい。気が利くー」
「これはこれで暑い……」
などと、平常の有様ではない。
教室到達率はおよそ50%である。
しかも、ホームルームと一時限目は担任、担当教諭が学校に辿りつけないために自習。
休校にしたほうが良かったのではないか、との疑念が学生たちの間に湧き上がった二時限目。
憎たらしいほどあっさりと、空は晴れ上がったのである。
教師陣も学生たちも昼には到着。
通常通りのカリキュラムが再開された。
喜んでいたのは一人だけだったという。
「ほら郁己! これで帰りは徒歩だね!」




