新学期。一人の帰り道とおもいきや?
お気楽にやろうとしてもこいつら勝手に悩みだす
新学期が始まった。
「坂下!焼けたな!」
「お前も真っ黒だな御堂!」
「……」
「全然焼けてないな境山!」
「グフッ、とんだ冒険だったよ」
「伊調、なんかオーラが違うな!」
仲間たちに挨拶をして回る。
みな、かけがえのない夏休みを過ごし、一回り成長したようだ。
色々と不味い方向に成長した奴もいる気がするが。
郁己の親友たる勇太もまた、成長を遂げていた。
始業式の日、文芸部の部室まで押しかけたのだそうだ。
ちょうど楓がいたそうで、勇太はそこで入部届を提出。
略式ながら、受理されたということ。
城聖学園は学生たちのやる気を尊重する学校である。
ということで、始業式の日から部活をやっていいし、下校時間までは残っても構わないのだ。
夕方は、先生方ではなく警備会社の人が校内を回る。
「じゃあ、俺活動していくから!」
イキイキとした笑顔で言われて、
「お、おう」
とちょっと寂しい郁己。
ぷらぷらっと一人、早い時間に下校することにした。
帰り道を一人で行くのもなんなので、バスに乗ってみる。
なんと初バスである。
思ったよりも興奮は無かった。
まったりバスに揺られていると、
「あら、珍しい」
丸山英美里がいた。
「隣座るわよ」
ぎゅっと押しこむように座ってくる。
せまいせまい!
慌てて郁己、カバンを膝の上に置く。
「坂下くん、カバンは席に置かないのがマナーよ。上のカゴに置くか、膝の上」
そう言って、彼女は腿をパーンと叩いた。
なんと威勢のいい。
「お、おう」
「何よ元気ないわね。補習であたしを圧倒した坂下くんはどこに行ったわけ? それに一人でバスなんて、らしくないわねえ。金城さんは?」
「あー、実はなあ」
かくかくしかじか。
「坂下くんは彼女の自主性を呼び起こしてしまったという訳ね。それで一人寂しくバスの中ってわけ?」
「いや、別に寂しくは……」
「寂しがってるじゃない。でも、あの子は君にベッタリだったものね。こうやって一旦距離を離してみるのもいいんじゃない?」
「むむ、含蓄ある言葉」
「と言っても、あたしもまだ誰とも付き合ったことも無いんだけど」
浪人してたしねー。と、遠い目をする英美里。
「ま、それでも君より一年長く生きてるし、挫折とかも知ってるわ。相談乗るわよ」
子供の頃の一年っていうのは大きいものである。
たった一年違うだけで、相手は随分大人に見える。
英美里は補習の頃の必死さが抜けて、随分落ち着いているように感じられた。
「いやまあ……いや……。多分、俺は寂しいんだと思う」
「そうよね」
「なんていうか、やり遂げたーっていうか。傲慢かもしれないけど、独り立ちさせたっていうか、さ」
「そうねえ。坂下くん、金城さんのお世話ばかりしてあげていたものね」
「いざ勇太が一人で活動する! ってなったら、なんか途端に気が抜けて、こう、ぽっかり穴が空いたような」
「分かるわ。金城さん、坂下くんに依存してたけど、君も彼女がいたから気を張ってこれたのよね」
なんか、口に出してみると、ちょっとすっきりしてくる。
英美里は聞き役に回り、基本的に肯定の返事を返してくる。
「でも、これっていい事なんだよな。あいつがいつまでも一人で立っていられないなら、それって凄く不自然なことだし、勇太にとっても不幸だ」
「ええ、そうね。君は彼女を、人間としてちゃんとした形にしてあげたのね」
「ああ。あいつ、凄く危なっかしかったからさ……。でも、あいつなりに成長してたんだなあ」
「そうね。金城さん、時が経つに連れて、段々いきいきして来てるもの」
「俺はどうすればいいのかな」
「……君も好きなことしたらいいじゃない」
初めて意見が返って来て、ハッとした。
「俺の好きなことってなんだっけ」
「そこまでは知らないわよ? でも、考える暇も無かったんなら、今から一息入れてゆっくりと探してみたら?」
「そっか……。丸山さん、なんかありがとう」
「いえいえ。お姉さんとしては、悩める若人を少しでも導けたなら幸いですよ」
バスが駅について、
「じゃ」
と別れることになる。
「うーむ、俺のやりたいことか……」
考えこんでしまう。
駅の改札前で立ち止まっていると、トイレから見覚えのある男が出てきた。
トイレと言えば上田である。
「改装されて、レベルが上ってるな……。だが上蓋が無いのは機能的だけどどうなんだ。やはり壊されてしまうのか……?」
ぶつぶつ言いながら出てくる。
彼は、沈んだ様子の郁己に気付いたらしい。
「いよう、坂下!」
改札から出てきた。
「珍しいな、一人か」
「俺と勇はセットかよ」
「セットだろ」
笑いながら返してきた。
「上田も一人なのか?」
「いや、俺は水森さん待ち。電車で途中まで一緒なんだよ。今日は駅のトイレが改装されてな。俺としてはチェックせずにはいられなかった。学校での回数を一回減らしてここまで来たんだぜ?」
ミスタートイレット、上田悠二が語る。
やはりこの男、トイレとは切っても切り離せないのだ。
何故か郁己は、この時、上田が眩しく見えた。
「上田……なんか色々ごめんな」
「な、なんだよ気持ち悪いな。あれか、お前さては金城さんに振られたか。いや、無いな」
「なんでそんなこと言い切れるんだよ」
断言してきた上田に、郁己は食いついた。
すると、この男はドヤ顔をするのだ。
「お前気づいてないのか? やっぱ近くにいすぎると分からなくなるんだな!」
「だから何がだよ!」
「お前と金城さんって、セットで一人みたいな感じなんだよ。パズルのピースみたいで、二人いてキッチリ綺麗に噛み合ってるんだ。傍から見てて、入り込む隙間が無いって言われてるの知ってるか?」
「お、おう……!?」
上田に説教めいたことを言われてしまった。
郁己は目を白黒させる。
するとそこへ、
「上田、くん」
「あれっ!?」
2つの聞き覚えがある声。
楓が改札を抜けてきて、上田の隣に収まった。そして、郁己の隣もしっくりくる奴がカチッと収まる。
「えへへ、楓ちゃんに怒られちゃった。俺一人で舞い上がって、郁己のこと見えてなかったや」
勇太は照れ笑いしながら、
「だから、郁己も文芸部に入ろう! 俺のやりたいことって、考えてみたら郁己もそこに入ってた」
「お、おう」
郁己はなんだか、半笑いが漏れてくる自分に気づいて戸惑う。
ありゃ、なんだこれは、なんか嬉しいぞ。
楓と上田がニコニコしながら自分たちを見ている。
「そんじゃまあ、帰ろうぜ! 俺と水森さんも、お前らみたいなの目指してんだ。あんまり落ち着かないとこ見せないでくれよ」
「よか……ったね、勇、ちゃん。坂下、くん」
「おう、あ、ありがとう」
「うふふ」
かくして、翌日、坂下郁己も文芸部へ入部するのであった。




