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勇太、里帰りする。お墓参りと四神の祭り

 さて、四日目である。

 昨日の川釣りは楽しかったが、何だか不気味だったなあ、なんて勇太と二人で喋っている朝食。

 食事も終わり際、宗主がやってきた。


「今日は四神祭りがあるからな。体を空けておきなさい」

「四神祭り?」


 郁己が疑問を感じると、勇太が教えてくれた。


「この辺のお祭りなんだけど、お盆絡みのイベントだよ。明日の奉納盆踊りもそれの一貫。縁日だって関わってるよ。儀式っぽいのは今日やっちゃって、明日はお楽しみの日ってわけ」

「なるほどなあ」


 食事が終わると、今日の稽古は基礎だけで、あとはお祭りに時間を裂く様子。

 まずはお墓参りだというので、二人は墓地へと繰り出した。

 派手な色の旗が幾つか立っていて、それぞれが赤、青、白、黒の四色。

 雰囲気的には、仏教、神道、道教なんかがまぜこぜである。


「なんだかすげえカオスなんですけど」

「大体毎年こうだねー」


 坊さんっぽいのと神主っぽいのと道士っぽいのが三人でバラバラに何かお経やらを読んでいる。

 実際、四神にまつわる話は中国から始まっており、風水と絡められて、平安京建立の際には日本最強の呪術的防御を持つ都として、四神を見立てた地形を防御に使われている。

 玄帝流がどの辺りの時代から始まったのかは不明だが、こうして宗派もごちゃまぜな祈祷が捧げられる程度には、歴史を重ねているようだ。

 年代的には、道教、神道、仏教の順番だろうか。

 玄帝流関係者の人達が集まって、何やら手を合わせている。

 周囲は墓地だが、目の前にあるのは石碑のような大きな墓石だった。

 刻み込まれている名前は、代々の玄帝流宗主の名前だろうか?

 摩耗して読みづらくなっているのが、初代なのかもしれない。

 名前は、湊、と読めた。


「みなと?」

「初代宗主様だって言われてる。今から千年くらい前の人じゃないかな」

「へえ、リアル平安京かあ」


 その時から格闘技なんてあったのか? いや、そもそも玄帝流は今の形じゃなかったのかもしれないな、なんて思いを巡らせてみる。


 お焼香代わりに、それぞれに亀の甲羅を焼いたやつが手渡される。

 これを、墓石の前に設けられた燃える香木の焚き火へくべていく。

 甲羅にも香が焚き詰めてあり、火の中へ落とし入れると、そこらじゅうに何とも言えない香りが広がる。

 不思議な儀式だった。

 見よう見まねで亀の甲羅を火にくべると、郁己はうーむ、と唸りながら顔を上げる。

 神主が面白そうにこちらを見ている。

 どこかで見たことがある。


 …………。


「あ、昨日の…!」


 しーっ、と口の前で指を立てて神主。

 流石は狭い集落。人間関係も狭い。

 一通り、お祈りやら祈祷が終わってしまえば、午後からはお祭りらしい。


 一緒に昼食を摂っていた勇太が、律子さんに腕を掴まれてさらわれていった。


「お、なんだなんだ」

「今年の主役はあの子やからな」


 宗主がからから笑っている。

 聞いては見たのだが、「すぐに分かる」とだけ言って教えてくれなかった。


 その後、確かにすぐ分かった。



 四神祭っていうのはこの地方のお祭り。

 ちょっとしたイベントになっていて、山向こうの町を巻き込み、しかも観光客まで来ている。

 神社だとちょっとスペースが……ということで、トラックに必要な物を全部積み込み、町で開催するらしい。

 場所は上天翁神社の分社なのだが、山の上の寺社は通いづらいということで、この分社が非常に大きい。

 ここと、近くの道路などを全部通行止めにして行うのだ。


 一斉に、狩衣に袴といった格好の人々が立ち上がり、笛や笙の音色を響かせる。

 鼓が音を立てると、鈴を手にした女衆が姿を現す。

 彼女たちは顔を隠すように薄衣を纏い、十二単ではないものの、着物姿で舞うように歩く。

 その隊列が続くと、四神様のお出ましである。


 周囲を衛士の格好をした男性たちに囲まれ、今年の朱雀様、青龍様、白虎様が通り過ぎる。

 大仰な衣装に白粉にお化粧。

 音楽も相まってまるで別世界である。


「ふおお、すげえ本格的じゃん」


 郁己は近くの屋台でイカ焼きを買って、ぱくつきながらの観覧である。

 ここは玄神の里の人々の特等席らしい。最前列から祭りを見ている。


 ひときわ歓声が上がった。

 山車にも似た、デコレーションされたトラックがゆっくり走ってくる。

 その上には四神伝説みたいなのを象った飾りが乗せられて、大きな台座が据えられている。

 台座に腰掛けた男達が、鼓や笛で音を奏でる。

 その中心にいるのが、玄武様……いや、正確には玄武の巫女なのだそうで、毎年この地域の年頃の女の子が選ばれるらしい。

 今年の子はレベル高いな、なんて囁きがあちこちから聞こえてきたので、郁己はじっと目を凝らした。


 驚きのあまり、イカ焼きを下に落としそうになる。


「ゆ、勇太じゃねえか! 何やってるんだ……!」


 清楚な巫女の衣装に、水や玄武をイメージさせる装飾をじゃらじゃらつけて、多分カツラだろう、結い上げた黒い髪の清楚な女性がそこにいる。

 化粧も相まっていつもと全然イメージが違うのだが、間違いなく勇太だった。

 顔が緊張でこわばっている。

 笑顔を見せようとしているが、頬が引きつっているのだ。

 ああいうぶきっちょな表情をするのは勇太以外いない。

 彼女はちょっと落ち着かなげにしていたが、お付の男性に何か言われて、慌ててどっしり構えた。

 周りから、「可愛い」とか感想がこぼれてくる。


 確かにこれは、今まで知らなかった勇太の魅力である。

 女性だけがやる役割ということで、衣装は豪華だけどあくまで主役は中の人で、周りの男達も、巫女役の女性を引き立たせるための舞台装置だ。

 この場にいる全員の注目を浴びる役割ということなのだ。


 こっちに気付いたようで、勇太がちっちゃく手を振って来た。

 ドーランが濃くて顔色は分からないけれど、段々慣れてきたって顔をしているように思った。

 満足そうに、横で宗主が笑う声がした。


 やがて、巫女を追うように最後の車がやってくる。上に載ってるのは特大の飾り物。

 玄神様だ。

 これは人が演じるのではなく、昔から引き継がれてきた大きな大きな木彫の亀である。顔立ちは厳つく、尻尾は蛇になって体に巻き付いている。


 祭神の登場にわっと歓声があがる。

 郁己は立ち上がり、勇太を載せていくトラックを追いかけることにした。


 人々が包む列の中をどんどん進んでいき、最後は分社の裏側まで到着。

 ここでお祭りは終わりだ。

 明日の奉納盆踊りで今年のお祭りの締めをするとのことだった。

 おじさんたちに手伝ってもらって、えっちらおっちら、勇太が降りてくる。

 郁己がいるのを見つけると、動きにくそうにぽてぽて走ってきた。


「郁己ー! びっくりしたよー! いきなりなんだもん。ちっちゃい頃から見てたけどさー、なんで俺がやるんだよー。黙って座ってて、ニコニコしてればいいよって言われても、あんな人数に注目されるの初めてだしー!」

「おつかれ、勇太ちゃん、可愛かったよ!」

「あ、ど、どーもー」


 通りすがりのおじさんに言われて、ニコニコ返事を返す勇太。


「お疲れ勇太、可愛かったよ」


 郁己も真似してみたら、勇太は一瞬絶句して、ドーランがついてない首の付根なんかがちょっと赤くなった。


「んもお、馬鹿郁己! もう忘れろー!」


 ちなみに勇太の記録は宗主が直々につけていて、動画編集をされて後日、金城邸に届いたんだそうだ。

次回が一回か前後編になって里帰り編終わりです

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