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特別補習。今からだって今後のこと。

郁己は天才とか秀才タイプではなく、子供の頃に黄門式で論理思考と数学的思考の土台を作ってそれを弛まずに色々な通信教育でカスタムし続けたタイプ。

 郁己は塾などには行っていないのだが、通信教育的な、X会という制度を利用している。

 毎回実戦さながらのテスト形式の教材が送られて来て、それを解くことで、受験本番に対応できる学力を養うというものである。

 流石に受講者たちのレベルは高く、まだ郁己は四桁台の順位の壁を越えられないでいる。

 あと少しすれば三桁台なのだが。

 この悩みを打ち明けた所、和泉には「お前おかしいよ!? 何でこのレベルの学校にいるんだよ!?」と言われ、勇太は全くわからない感じで「がんばれえ」とか言われたので、とりあえず自分なりに頑張ることにしている。


 さて、城聖学園は夏休み期間に補修を行うのだが、希望者が参加できる特別補習という制度がある。

 これは有料となっており、有名学習塾から講師を招いて講習を行う形である。

 一年生から受験に向かい合う内容を行っていて、外部の学生もこれには参加することが出来る。

 学習内容は専用のホームページで確認することが出来、日にちを選んでの参加も可能だ。

 郁己はこれに、3日分ほど興味のある講義を選んで参加していた。

 クラスの中で、来年の特別進学クラス、通称特進を希望する者たちも、この講義には参加する。年度末には特進への昇格テストがあるのだ。このクラスに入るか入らないかだけで、受かる大学のレベルが数段変わるという。


「まあ、俺はそこまでこだわってないんだけどねえ」


 勇太は普通にこのレベルにはついてこれないので、郁己一人での参加となる。他は、郁己のクラスからはあと五人。

 ある程度会話する仲間は、その中では丸山英美里と伊調守の二人だ。

 ちなみに、通称”邪神”伊調は、こんなナリだが期末テストで学年四位である。郁己はしれっと一位だ。ギリギリ十位だった丸山さんが、ギギギ、と歯ぎしりしていたのが記憶に新しい。


「来たのね、坂下くん……と、邪神」


 前から二番目、通路側の席。

 内側から、英美里、郁己、伊調の順番である。英美里が伊調と隣になることに、「ヒッ」とか言って抵抗を見せたために中心に郁己が座っている。

 伊調は別に傷つくこともなく、グフッとか笑っているので問題ない。普通、嫌われているような生徒はいじめの対象になることがあるが、伊調はちょっとそういうレベルを遥かに超越しているので、畏れられているレベルだと郁己は認識している。心強い仲間だ。道端ですれ違うガラの悪い兄ちゃんですら、目を剥いてそっと距離を空ける。

 いや、伊調の話はいい。


「今回の講師、轟先生だろ? 俺もちょっと興味あってさ」


 郁己は親しげに言う。

 だが、周囲の目線はこの三人、特に郁己と伊調に注がれている。

 学年首位のトップと四位なのだ。特進への昇格テストでは、最大のライバルになると目されているのだ。


「グヒヒ、僕はね、学習塾のカリスマ講師とやらを見極めにね」


 不穏な空気を漂わせる伊調。でも彼は大体常に不穏な感じだ。

 郁己はほっこりする。


「丸山さんもそうなんだろ? どういう講義内容なのか気になるよな」

「そうね、あたしは今年一年に命かけてるから、こういうのは絶対逃せないの」


 彼女はクラスの中でも、勉強に対する態度は真摯な方である。普段のノリは軽いが、授業中にふざけることは絶対に無い。学習塾の夏期講習も受講していたはずだ。

 さて、轟先生の講義が始まった。

 轟先生は、今それなりに有名な名物講師で、あちこちの講習で引っ張りだこらしい。

 熱血指導と計算され尽くした受験対策の講義内容は有意義であり、学生たちのモチベーションを引き上げるのがとにかく上手い。

 彼の講義が進むたびに、教室内の熱量が徐々に上がっていく。

 郁己は舌を巻いた。なるほど、これは人気が出るはずだ。

 勇太を連れて来ても良かったかもしれない。

 英美里は真剣そのものだった。

 一言たりとも講義内容を聞き逃さないようにし、板書を写メで撮影し、要点はノートに書き込む。

 必死、と言ってもいい。

 休み時間に入り、英美里は背もたれに体を預けて、ため息を付いた。


「はぁぁ、しんどい」


 目の間を揉む。


「丸山さんはもうちょっと肩の力抜いてもいいんじゃない?」


 郁己の言葉に、英美里はじとっとした目で睨んできた。


「私みたいな凡人はね、必死に努力して、努力して、努力しないと、上のステージに立てないのよ。それに私は、気を抜かないって決めてるの」

「そうかあ。なんか見ててきつそうでさ」

「グフッ、坂下くん、丸山さん、僕はちょっとトイレに行くよ」

「おう伊調、いってらっしゃい」


 ズゾゾォッと伊調が立ち上がり、トイレへ向かっていく。人並みがモーセの十戒のように割れる。

 恐ろしい物を見るような目でそれを見送った後、英美里はまた郁己に目線を預けた。


「私ね、ここに入る前に一年浪人してるの」

「あ、そうなんだ」

「そうよ。坂下くんより一個年上なの。だから、後がないっていう感覚なのかもしれないわね」


 彼女はパラパラっとノートをめくって、さっきの講義内容に、目を落とす。


「きついわよ、高校浪人って。仲間たちは青春を謳歌してるだろうって時に、私はどうしてここにいるんだろうって、家で一人で。予備校行っても、不安が消えなくて。ここに受かった時は、本当に嬉しかったわ。これで私は救われるって思った」


 重い話である。いつもは気楽そうな彼女だが、恐らく意識してそういう態度を取っているのだ。


「私にとってね、特進は絶対に昇格しないと行けないクラスなの。私がやって来た一年は無駄じゃなかったって、私にも、両親にも分からせるために、これだけは絶対」


 そして、強い目つきで郁己を見る。


「だから絶対負けない」

「……俺特進行かないけど?」

「…………………」


 一瞬辺りを沈黙が支配した。


「…………………………はぁ!?」


 周囲が振り返るほどの大声で、英美里が叫んだ。


「マジで!? え!? なに、それ本気なわけ!? あの成績で特進行かないって、どういう!? え? なにこれ、分かんない、理解できない!」


 立ち上がって、混乱した様子でうろうろ歩き始める英美里。


「ま、俺も事情があるんで、そういうことだから。ライバル視しなくていいよ」

「うううううう………」


 恨めしげに英美里は郁己を睨んで、そしてまたため息をついて席に腰掛けた。


「何よそれ……」


 気が抜けてしまったようだ。

 伊調が戻ってきてからも、彼女は本調子になれない様子で、それでもなんとか講義に付いて行っていた。

 ただ、彼女に満ちていた対抗心みたいなものは、薄れたように思う。

 三人で食堂で昼食を取るとき、他愛もない話をすることができた。


 夏の城聖学園の食堂は、一般公開されている。

 プールの利用客も相まって、それなりの混みようだ。

 と、向こうから見覚えのあるつんつん頭がやってきた。


「いよー、郁己ー! 講義終わったの?」


 すっかり小麦色に日焼けした勇太だ。

 隣には何故か真っ白な心葉を従えている。二人共髪がちょっとぺたんこになっていたので、午前中はずっとプールにいたらしい。


「おー、勇太ー。そうだなー、午後もあるけどフケちゃおうかなー」

「はぁ!?」


 英美里が怖い声を出した。


「じゃあ、つーわけで丸山さん、俺帰るわ。また新学期な! 伊調も頑張れよ!」

「グヒッ」


 何故か心葉が戦闘モードで向かい合っていた伊調が、にこやかに郁己に手を振った。


「郁己さん、あの男、危険です。宗家の師範と同じ気を感じます」

「心葉ちゃん、それは気のせいだよ。あれはああいう生命体だ」

「伊調くんまたねー!」


 三人がわいわいと去っていく。

 伊調が食器を返しに蠢いていくと、その先で悲鳴が上がった。


 一人食堂の席で、水をぐいっと飲み込み、英美里はテーブルにぐたっと伏せた。


「あー、勝てないなあ」


 彼女にとっての夏は、まだまだ終わらない。

この後、伊調守は異世界に召喚され、奴隷となった旧世界の天龍種の盲目の美少女を助けながら世界を狙う邪悪な造物主や複数の宇宙を駒としてゲームを行う超越存在たちと戦って邪神として異界宇宙に君臨してハーレムを築いた後そのままこっちの宇宙と繋げて凱旋して戻ってきてまた二学期を普通に過ごすのだがそれは語られぬ話である。

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