海水浴、いかにして金槌な彼女を海に連れ出すか。
カレー、ラーメン、焼きそば。ついでにたこ焼きやお好み焼き。
定番海の家メニューをぱくつきながら、勇太達は午後からの予定を話し合っていた。
「あれ、そういえば、心葉ちゃんは水着着ないのか?」
「持ってきてるはずだよ? なんでか着替えてないけど」
郁己の質問に、首を傾げる勇太。
「もしかして、泳げない、とか?」
和泉の言葉に、何故か楓が頷いた。
「わか、る。私も、泳げない、から、上田、くん、いなかったら、海に行こうと思わない、もん」
「せっかく水着を持ってきてるなら、水に入らないと勿体無いわよね!」
早くも食事を終えた夏芽が言った。
「うし、泳ぎを教えるなら任せてくれ!」
「上田、くん?」
「あ、いえ、俺は水森さん専門です」
上田が勢いをつけて立ち上がったが、楓に上目遣いに見つめられて、すとんと座った。
「それじゃあ、金城さんが教えるとか?」
「あー、あはは、俺、じゃなくて私、あんまり心葉に対して立場強くなくって……」
元々荒れていた不出来な兄に対して、優等生タイプの妹である。それに事情があって、幼少期の心葉は父親に連れられて、世界中を回っていたらしい。兄妹としても、そこまで長い時間を過ごしていないのである。……ということを郁己は知っているので、適任が誰かを思いつかない。
「じゃあ、俺がやるか? 彼女、金城さんに似てて可愛いし、俺としても望む所だけど」
「あ、いや、和泉、あの娘、割りと人見知りするんだよ。っていうか男は触っただけで大変なことになる場合が多い」
「……難しいなあ」
「私がやる?」
「夏芽ちゃんが適任かなあ……よし、補佐で郁己ついてあげて!」
「俺!?」
「郁己なら、あいつも慣れてるから警戒しないと思うし!」
割りとしょっちゅう顔を合わせるので、確かに男性としては、郁己は嫌われていない。
男性として見られていないというのもあるかもしれないが。
「じゃあその方向で行こう!」
和泉が締めて、そういうことになった。
「……なんですか?」
心葉は怪訝そうな顔で、自分を囲む六人を見回した。
ここは、警戒心を抱かれにくい郁己、そして体力で心葉に対抗できる可能性がある夏芽で対応する。
「いや、心葉ちゃん水着持ってきたらしいじゃん。せっかくだから着ようよ」
ぴき、と心葉の顔がひきつった。
「い、いえ、結構です」
「みんな心葉ちゃんの水着が見たいってさ!」
「私は見せなくてもいいです」
「海に来たのに勿体無いよ」
「水辺で読書も乙なものです」
「泳ぎなら教えるから」
「泳げなくても別に……ってなぜそれを!!」
心葉が初めて取り乱す。
中々プライドが高そうなので、こういう弱点を知られるのに抵抗があるのだろうか。
夏芽がガッシリと彼女を背後から固定する。
「はーい、心葉ちゃん、着替えましょうねー」
「や、やめてください! うぐう、なんですかこのパワーは!? う、動けないっ! さては野生のゴリラの力っ!? こらっ、見てないで助けてください、勇太むぐう!」
慌てて勇太が口を抑えた。
心葉がもがもが言いながら、カバンごと更衣室へ拉致されていく。
「お待たせしましたー」
「ぐふう……」
勇太と夏芽がニコニコしながら、心葉を連れてきた。
なるほど、双子とはいえ、二卵性だから勇太とは結構見た目が違う。
赤いワンピースタイプの水着である。ボディラインは年齢相応、胸にウエスト、ヒップラインと、納得できるそれなりレベルであった。
彼女は海に入る前だというのにぐったりして、両脇を夏芽と兄に支えられて立っている。
「さあ、行こう! 泳ぎに!」
「いやだからね! 深みとか絶対いやだからね!」
必死に声をあげる心葉。
「なん、だか、私、よりも水、苦手、みたい」
「うむ、それには理由があるんだけど、今は語るべき時ではない」
「坂下何を知ってるんだよ!?」
「ああ、坂下だけ色々裏事情に詳しすぎだろう……!」
郁己は男二人に肩を揺さぶられながら、「ははははは、悶々とするがいい!」とか哄笑をあげるのだった。
さて、心葉を水につけると、足先がほんの少し波にさらわれただけで、
「うひい」
なんて言いながら逃げそうになる。
「重症ね。学校で水泳の授業はどうやっているの?」
「私の通う高校はプールが無いんです」
「……なるほど」
それでも水着を持ってきたということは、海で遊びたい気持ちはあるのだろう。
「ちょっと和泉くん! 浮き輪借りてきて!」
「そういうと思って既に用意してあるぞ!」
和泉すげえ! と郁己と上田が目を剥く。
「それにさ、岩田さん。浮き輪さえあれば、別に彼女を無理やり泳がせなくていいんじゃないかな」
「うーん、浮き輪って結構邪魔じゃない?」
心葉は浮き輪をゲットして、ホッとした顔をしている。
「それじゃあ心葉ちゃん行こうか」
「どこへっ」
「あっちが浅瀬だよー」
にこにこ薄ら笑いを浮かべながら手を引こうとする郁己に、
「ああああ、足がつかないところはいやっ」
「浅瀬に行っちゃえば足がつくけど」
「泣くわよ!」
「わかったよ、この辺の足がつく所で遊ぼう」
流石に泣かれるとよろしくない。よっぽど足の付かない水辺に嫌な思い出があるのだろう。動揺のあまり、ですます口調でもなくなってるし。
「可愛いなあ」
「和泉くん、心葉が好みなの?」
「いや、俺は金城さんも好みだよ」
「あ、お世辞ね。ありがとー」
「いやっ、お世辞じゃないんだけど」
郁己が和泉に水中から拾ったなまこを投げつける。
「恋の、たたかい、だね」
「でも、坂下と金城さんの間には入り込めないよね」
ねー、なんてカップルは同意しあっている。
「それじゃまあ、心葉ちゃんは浮き輪に収まってぷかぷか浮いてくれれば、私がガーッと押してあげるわよ!」
「うわっ、何をするんですか!」
夏芽が浮き輪ごと、心葉をひょいっと抱え上げ、足がつく程度の所に下ろした。
ぷかーっと心葉が波間に浮かぶ。
「ほーら、押すわよーっ!」
「うおわああああ」
夏芽が浮き輪に収まった心葉を押しながら、海を横切って行く。泳ぎ方はバタ足に近いのだが、物凄い高さの水しぶきが上がっている。
心葉は自分の意志ではないのに進んでいくのが怖いのか、浮き輪にしがみついて悲鳴をあげていた。
「よーし、それじゃあ心葉ちゃんを巻き込んでボール遊びと行こうぜ!」
ビニールボール片手に、郁己たちも海に繰り出した。
「勇!」
郁己からボールが行くと、
「はい、心葉!」
勇太が浮き輪の心葉にボールを弾く。
「わわっと、ていっ!」
浮き輪にハマって自由が効かないはずでも、器用に体を動かしてボールを蹴り上げる心葉。
高らかにボールが上がると、そういうのが得意な人がいるわけで。
「おりゃあ!」
夏芽がボールを思い切り、上から叩いた。太もも半ばから下が海だというのに、驚くべきジャンプ力である。
叩きつけられたボールは和泉に向かい、和泉は両腕を合わせてなんとか受け止める。
「ぐはあっ、なんて重さだ! ビニールとは思えない!」
ボールは勢いを失ってふよふよと飛び、それを上田が優しく弾いた。
「水森さん、どうぞ!」
「は、はいい! きゃっ」
ゆっくり遅いボールが楓に向かってきた。楓はそれでも受け止めきれず、胸元にぼよん、とボールが当たった。控えめでもふくらみはふくらみである。その弾力に弾かれて、またボールがあらぬ方向へ。
それをまた郁己が受け止めて……と、飽きるまでボール遊びが続いた。
もうすぐ、夕方になる。




