終業式、水着の用意は充分か?
さて、終業式である。
大体話しの長い校長先生というものは、学生たちの脳を眠らせたり、脳への血流を弱めて貧血にして倒す異能を有している。
城聖学園高等学校の校長も例に漏れず、どうでもいい話を長時間ダラダラと離す超常の力を持っていた。
だが、学園に通うは選びぬかれた学生たちである。
貧血で倒れるものは一人も無かったものの、立ったまま眠るものが続出した。
そんなこんなで、校長の話が、夏休みにおける学生としての心得から、最近姪が結婚して新婚旅行のおみやげを買ってきてくれたのだがそれが毛生え薬だったとかいう話になり、教頭が上がってきて校長を舞台袖に押し込んでいき、ようやく話が終わった。
「では、夏休みは節度を持ち、安全に気をつけながら存分に楽しむこと。以上!」
教頭が締めて、終業式も終わる。
内容的には中学校の終業式に似てるなあ、なんて郁己は思った。
ちなみに勇太は立ったまま寝ていた。
「金城さん、おーきろっ!」
「うわわっ!?」
後ろにいた女子、丸山英美里に胸をむぎゅっとされて目覚める勇太。
「うわ、やっぱ結構なボリュームだよね。金城さんいつも何食べてんの!?」
「んー、普通の食べてるよ。魚とか肉とか」
「野菜は?」
「お芋とか?」
「結構ガッツリ系なのね……」
英美里はポケットからメモ帳を取り出して記入し始める。
「丸山さんも頑張って」
なんか必死さを感じて、勇太は彼女の肩をぽんと叩いた。
「あたし、中学の時Bになって、そこから成長しないのよ……」
「そ、そう……」
「はーい、勇は回収しちゃうからねー」
後ろから勇太の脇に手を差し入れて、ひょいっという感じで夏芽が持ち上げた。
そして彼女は英美里に、
「大胸筋を鍛えれば胸板は厚くなるわよ。胸の脂肪は減るけど」
とアドバイスをし、勇太を抱っこしたまま去っていった。
「夏芽ちゃん、本当に鍛えれば大きくなるのかな」
「アンダーバストは増えるわね」
勇太の疑問に答える夏芽。
嘘は言っていない。
さて、通知票が配られ、一喜一憂の声がそこここから聞こえる教室。
勇太は割りと良い成績だったようだ。
ニコニコ顔で郁己の席にやってくる。
「もう、ほら、見てよこれ。俺始まって以来の好成績だよー」
「ハハハ、先生がいいからねッ」
「郁己は体育イマイチじゃん」
「ギギギ、社会に出たら勉学がモノを言うのだぞ!」
「別にいいよ(なんなら永久就職するし)」
「え、なんて?」
「その時は郁己に教えてもらうからいいよって言ったんだよ!」
律子さんや心葉に教育されてか、徐々に乙女化が加速する勇太である。
その極致とも言えそうなイベントが、帰りにある。
城聖学園は、学園が決めた規律さえ守っていれば、放課後の行動に目くじらを立てることはない。
学生たちの自主性に任せているということではあるのだが、それは裏を返せば、規律を大きく逸することがあった場合、情状酌量なしで厳罰に処すということでもある。
ただ、帰りにデパートに寄って、水着を物色するくらいは全く問題ないわけで。
勇太を戦闘に、楓、夏芽が続く。その背後から、女性の水着売り場をキョロキョロ見回して不安げな上田、妙に自信たっぷりな和泉、そして際どい水着があるたびに立ち止まってガン見する郁己である。
「坂下、お前は実に男らしいんだけど……どうかと思う」
流石に和泉が苦言を呈する。
「いや、こういうエッチな水着って、女の子に着てもらいたいもんだろ。なあ上田」
「おおおお、俺はまだ清い交際だからえっちなのはいけないとおもいます!」
「この野郎、リア充になった瞬間にカマトトぶりやがって」
「上田の股間は正直なようだな」
「ん? ん? 上田、誰で想像した? お兄さんに言ってみ? な?」
「やめてええ」
背後でいちゃつく男どもを見て、女子達は首を傾げる。
「な、なんで、みんな、私たち、より……はしゃいでるの、かな」
「男ってそいういう生き物なんだよ」
「あら、勇は詳しいのね」
三人娘が今年の流行水着とやらを手にとって、
「最近はビキニばっかりじゃないんだねえ」
「前、から、結構、色々あった……よ?」
「男の子が好きそうなのがビキニが多かっただけよね。勇ってあんまり水着こだわらないタイプだったの?」
「あ、あははー。ま、まああんまり自分で選ばなかったかなー」
危ない危ない、と勇太は内心で汗を拭う。
自分の水着知識など、中学の頃グラビアで見たレベルでしか無いのだ。
「こと、しはね、露出、少なめなんだって」
案外、きちんと流行をチェックしている楓である。
彼女は、タンクトップタイプのワンピースを選ぶ。前側がふんわりやわらかな印象の布地になっている。前からはタンクトップのようで、後ろからはバンドゥタイプのビキニに見えるのだ。彼女の胸元は薄めなので、その辺りをカバーしつつ、後ろ側で冒険することで、体型を隠しつつ女の子らしさをアピール。
なかなか女子力が高い。モノキニって言うらしい。
遠くで上田が興奮している。
楓は恥ずかしそうに水着で顔を隠しつつ、
「じゃ、じゃぁ、試着して、くるね」
試着室へ消えていった。
「お、おお」
ちょっと勇太も期待している。女の子の生着替えなら近くで何度も見たが、デパートの試着室となるとまた別である。
相手はあの楓な上に、ギャップのある可愛らしいフリルがついた、ピンクのモノキニ。
一体どうなってしまうのだろう……!
「勇ったら、上田と同じ顔してるよ」
苦笑しながら夏芽。
彼女が手にしているのは、オーソドックスなビキニ。ペイズリー柄だが、ボトムのサイドは布ではなく、プラスチックのリングになっている。
「夏芽ちゃん、これ、ちょっと動いたら大事なところが見えそう……」
「うーん、激しく動くわけでもないし、多分大丈夫じゃないかな? それより、勇の選んであげる。勇は結構胸があるから……」
夏芽が非常に露出度の高いものを選ぼうとしたので、勇太は真っ赤になって腕にしがみつく。
「わわわわ、ワンピースタイプでお願いします!!」
「えー。絶対似合うのにー」
遠くから、男ども(主に郁己と和泉)が、そうだそうだーと夏芽に賛同する。
勇太はそっちをギッと睨んで黙らせる。
「仕方ないわねえ。それじゃあ、このバンドゥビキニに編み上げタンクトップを組み合わせたタイプ!」
「お高いよ!?」
「わがままな子ねえ」
「すみません」
また夏芽は物色し始める。
「ワンピースだと、ちょっとあれね。お姉さんっぽくなりすぎるみたい。勇はコケティッシュなのが似合うと思うんだよねっと……これだ!」
ブルーの縞模様のタンキニ(タンクトップビキニ)と、南国風なハイビスカス模様のボトムスを持ってくる。
露出を抑えつつ、可愛らしさもアピールする逸品である。
「岩田さん、いい仕事しますねえ」
しみじみと郁己。
さて、全員の水着が決まった所で、彼女たちは男どもを追い出した。
後は本番のお楽しみ、ということらしい。
少しして、外のベンチで三人揃って座っている男どもに、女の子達のきゃいきゃいはしゃぐ声が聞こえてきた。
「これは、海水浴の日まで、俺達は妄想を逞しくして待てということではないのか?」
「ああ、その通りだろう。城聖学園一年でも個人的に注目の三人だからね。俺としても楽しみだよ」
「水森さんっ……はぁ、はぁ」
男たちは、近づいた海水浴本番の日を楽しみに、水着に着替えた女の子たちの姿に思いを馳せるのであった。
上田は爆発寸前だった。
水着描写をしていると、字数が増えること増えること




