期末テストと金色の……?
嵐のように、期末テスト期間は過ぎ去っていった。
郁己は例のごとく、スパルタ式の特訓でテスト期間中も勇太を鍛えた。
勇太は嫌いな勉強を必死にやるストレスで、一種幽鬼めいた表情になっていたが、全てが終わった瞬間、
「お、わったあああああああああっ!!」
と教室で天井につくくらい飛び跳ねて、周囲をギョッとさせた。
あとはもう、終業式前の結果発表を待つばかりである。
「勇太、お前はよく頑張った」
「はい、郁己教官!」
「良い返事だ! これでお前は地獄を卒業し、これからバラ色の夏休みに入る!」
「いやったああっ!!」
「そしてこれは、苦難を乗り越えて戦い続けたお前へのプレゼントだ!」
郁己は勇太を引き連れて、131アイスクリームへ突入する。
そこはまさに、女子の園であった。
楽しげに、バラエティ豊かな色彩のアイスを、好みの段数重ねてもらってパクつく女の子たち。
少しは男も混じっていたが、それらは皆、彼女と思しき少女を連れている。
なんという爆発地帯であろうか。
「チッ!!」
郁己が青筋を立てて舌打ちをしようとする。
「うおおお、アイス! アイスだあ!」
「アウッ」
そこを興奮した勇太に背中をドンとやられて、舌を噛んだ。
「ひょうら、ふぉれの奢りら。なんらんれもふんれいいろ!(そうだ、俺の奢りだ。何段でも積んでいいぞ!)」
「ほんとか! 今日はたくさん積んでいいのか!」
「おかわりしてもいいぞ!」
フラグの香り漂う会話をしたあと、勇太はチョコミント、チョコチップ、リッチチョコにチョコバナナ、そしてチョコマーブルという五段重ねを選択した。
勇太ほどの優れた身体バランスが無ければ、立ち食いできない玄人好みの構成である。
むしろ口の中が甘ったるくならんのか、と郁己は思うが、勇太がニッコニコな顔をしてるので大丈夫なのだろう。
郁己はサワーバニラとラムレーズンを選んだ。
「はむぅ、んんー、幸せ……。戦いの後の甘味は美味しいのう」
勇太が目を細めて、こてんと郁己に頭を預けてくる。
彼らも爆発必至なカップルにしか見えない。
さて、この城聖学園がある街は、山の登り口にある街である。
それなりの大きさはあるが、街を貫いて走る道路は江戸の頃から有名な街道であり、ここを抜けると、山道を駆け抜ける道路がどこまでも続く。
なので、走り屋が集まることが多かった。
今日も、アイスを食べる二人の目の前を、やかましいエンジン音を響かせてバイクが走っていく。
本日の勇太には菩薩の如き心の余裕がある。
珍走団紛いの爆走くらい、何ということもない。
生暖かく見送っていたのだが。
「うるさいヨ!」
高めの声が叫ぶ声がして、突然、バイクが一台ふっ飛んだ。
「はっ!?」
「おえ!?」
郁己も勇太も驚いて、そちらを見る。
多分、250ccクラスのバイクだと思うが、それが一瞬宙を舞って、アスファルトに叩きつけられ、表面を削りながら滑っていく。ライダーは近くの茂みに頭を突っ込んで、尻だけを突き出して痙攣していた。
驚き、走り屋たちも停止する。
彼らの中心には、すらっとした体格の、あまり大柄ではない少年が立っている。
鍔の付いた帽子を逆向きに被り、フーセンガムを膨らませている。上着はシャツに、ダメージジーンズ。
肌の色が抜けるように白い。日本人ではない。
「なんだ、あいつ……」
郁己は彼から目を離すことが出来なかった。その隙に、食べかけのラムレーズンがコーンから落っこちる。
「危ない!!」
勇太が叫んで、郁己の足元へ滑りこんだ。見事な動きで、既に二段を食べ終わったタワーの上へと着地。
「ラムレーズンは大人の味……だけど、俺はそういうのもイケるんだ!」
郁己の食べかけを一口で食べて、美味しさに恍惚とした表情の勇太。
どうでもいいところで凄まじい身のこなしをした。
それを、向こうにいた白人さんが気付いたらしい。
なんか両手を広げて喜びを表して、こっちに駆けてこようとする。
前に立ちふさがったのは走り屋たちだ。
気持よく風を切って走っていたのに、いきなり仲間がぶっ飛んで、バイクは下手をするとお釈迦かもしれない。
「お前何やってんだよ!」
「洒落になんねえって!」
少年に詰め寄る。
なるほど、少年の背丈は彼らよりも頭半分ほど小さいし、体つきだってほっそりして見える。
彼の外見からはあまり迫力を感じまい。
少年は不満気な声をあげた。
そして、走り屋が彼のシャツの胸ぐらを掴んだ瞬間だ。
少年の姿が一瞬消えた。
「お、下」
勇太が指摘する。
低く、低く構えた少年がそこにはいる。
そのとんでもなく低い構えから、突然の跳躍。走り屋には、姿が消えてまた現れた、としか見えないだろう。
風を切る音がする。
人間が出すような音ではない。
少年の蹴り足が出した音だ。
真横に薙ぎ払われた脚が、轟音を立てて行き過ぎる。
比喩でなく、走り屋達が吹き飛んだ。
少年は蹴りきった動きを利用して、くるりと回りながら着地する。
「あー、白帝流だあ」
「知っているのか勇太!」
「うん、昔うちの流派と系列組んでたとこだよー。まだあったんだー」
そう言って、勇太は最後のコーンを口にする。
そんな勇太達に、少年が向こうで手を振っている。
「勇太、知り合い?」
「うんにゃ、俺も白人さんの知り合いはいないなー」
道路を渡って走ってくる……危ない! 横断歩道を渡らなかったので轢かれかけた。
ドライバーに怒鳴られて、ペコペコ頭を下げている。
さっきライダーを蹴り飛ばしたのはなんだったのか。
そして、律儀に横断歩道に回ってこっちまでやってきた。
「Buongiorno! 玄帝流の人だよネ! 会いたかったー!」
オーバーアクションである。
イタリア系だろうか。
イタリア系は女の子と見れば口説かなければ失礼、みたいな考えだとネットで見た気がする。
郁己の警戒センサーが発動する。
「そだけど、チミは?」
勇太はやる気無さそうである。
「ン! 思ってたより全然キュート! ボクは君が好きになれそうだ!」
あっちも話を聞いてない。
「下見に来たんだけド、うるさい人はやだよネ」
走り屋を蹴り飛ばしたことだろうか。
あれは物凄い動きだったが。
「これは、挨拶の代わりってことで!」
そう言いながら、少年はいきなり姿勢を低くした。しゃがみこんでいる勇太と目線を合わせて、いきなりキスをしようとする。
マウストゥマウスである。
勇太も突然のことに反応できない。あわや勇太のファーストキスはこの少年に奪われてしまうのか……!
「勇太だと思った? 残念、俺だよ!」
少年すら反応できない速度で、そこに郁己の顔がぬっと入ってきた。
少年は郁己の頬に熱烈なキスをしてしまう。
「う、う、うわああああああ!? Oh Dio mio! どっから出てきたノ!」
叫びながら少年は尻もちをついた。
「うむ、こういう時の俺の瞬発力を舐めないで欲しい」
「ほ、ホントだよね。郁己、こういう時だけ世界を狙える動きするよね」
郁己の左頬には、熱烈な少年からのキス跡である。
少年は涙目になって口をハンカチで拭っている。
動揺して姿勢が崩れたせいか、帽子がはらっと落ちた。そこから、豊かな金髪がこぼれ落ちてくる。
「あれっ!?」
勇太と郁己、異口同音に。
少年ではない。胸は薄いが、女の子だった。
すると、尻餅をついた少年……いや、少女に向こうから声がかかる。
「HAHAHAHAHA! 何をしてるんだいレヒーナ! 行くゾ!」
ものすごくインチキ外人っぽい喋り方である。
物凄いリーゼントで真っ赤なタンクトップで口ひげ生やして凄いモミアゲの2mくらいあるマッチョな男性がいた。
「Va bene! ホセが呼んでるからボク行くね。また来年の春に会えるといいネ!」
レヒーナと呼ばれた女の子が立ち上がる。
「春?」
「そ、春!」
「Ciao!」
走っていく。
パトカーのサイレンが聞こえてきた。
レヒーナとホセの二人がすごい速度で走って消えていく。
「なんだろうなー、あれ……って、勇太くん何をしているんだね」
「ほ、ほら、左頬を打たれたら右頬もって言うじゃん? あ、そうだ、郁己、ほっぺたにアイスがついてるよ!」
「あ、そうだってなんだよ!?」
突っ込んでいる隙に、電撃のように右頬にキスをされた。
「!?」
「アイスが付いてたって言ったじゃん」
勇太の唇にサワーバニラのアイスが付いてることを考えると、本当にそうだったんだろうか。
後日、テストの順位が十位も上がった勇太が、成績表を受け取った瞬間教室の郁己に飛びつき、女子からは祝福を、男子からは(全て郁己が)嫉妬ビームを喰らうことになる。
この娘はしばらくでてきまへん




