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テスト勉強開始!城聖の星となれ!?

 今回、金城邸に集まったのは、時間的余裕がある四人である。

 まずはこの家の住人であり、テスト勉強が最も必要な金城勇太。


「よろしくね!」


 そして、モブからの昇格を経て、勇太と中の下クラスの順位争いをしていることが明らかになった、上田悠介。


「おおー、ここが金城さんの家かあ。雰囲気あるよなあ」


 続いて、上田に勉強を教えるためにやってきた、今回のアシスタントコーチ、水森楓。


「あ、あの、あの、私、お茶請けにお漬物作ってきたの」


 最後に、メインで講師を務めます坂下郁己です。


「漬物うめえ」


 きゅうりと大根のビール漬けである。

 楓のお父さんが痛風の疑いありとかで、買い込んでいた6本パックビールがお預けになり、それを使って仕上げた作品だ。

 金城邸では必ず、日本茶が出る。

 夏は冷茶である。

 よく冷えたお茶に、ぴりっと辛みがあるビール漬けがよく合う。

 しばらく四人は無言で、ぽりぽりとビール漬けを食べた。


 少しした所で、郁己が立ち上がった。


「それでは、これより第十六回、金城邸勉強会を開催します」

「わー」


 拍手したのは勇太一人である。

 楓と上田は目を見開いて、


「じ、十六回!?」

「そんなに金城さんの家に上がり込んでるのか坂下!! やはりお前はすでに親公認の……!」

「落ち着け、幼馴染なんだ。別に驚くことじゃない」


 うち十四回は勇太の受験勉強である。


 さて、まずは軽くテスト範囲をおさらい。

 クイズ形式で、暗記系の科目を出題するのは楓である。マメな彼女は、この日のためにクイズのパネルを作ってきたのだった。


「そ、それ、じゃ、出題、するね。第一問。紀元前24世紀にシュメール人を征服したセム系民族といえばご存知アッカド人ですが、その時、メソポタミアの都市国家を征服し、四界の王と称されたのは一体誰でしょう?」


 全然ご存知じゃない。

 突然高難度の問題が来た。

 しかも、どもりがちの楓が出題を口にする時だけアナウンサー口調でハキハキ喋る。

 上田も勇太も、頭に?を乗せて首を傾げている。


「ノ、ノートと教科書、みて、いいよ」


 パネルにある記述と同じ場所を探す。


「うう、文字がたくさんあるよう。目が滑るよう」

「勇、お前中間テストの時に勉強した感覚をもう忘れたのか……」

「えへへ」


 照れ笑いする勇太の横で、好きな女に恥ずかしいところは見せられぬ、と上田が奮起。

 メソポタミアをキーワードに、索引から答えを見つけ出した。


「はいっ!」

「はい、上田くん」

「サルゴン王」

「正解です」


 三人が拍手する。

 暗記物問題でも、こうやってイベント形式にして印象づけ、覚えやすくしようという楓の工夫であった。

 やり手である。


 続いて郁己が数学を受け持つ。


「俺はパソコンでプリントを作ってきた。教科書の範囲だけど、全く同じ問題よりは理解力を深めてもらおうと思って、同じ公式で解ける別の問題だから」


 サイン・コサイン・タンジェントというやつである。

 エクセルで緻密に作られた問題集で、鋭角の三角比などを求めてくる。

 勇太、上田撃沈。

 これは根本から教えていかねばならない。


「別に難しいことじゃない。角Aと角Bがだな……」


 二人の脳髄を破壊し尽くしたところで、昼食時間となった。

 律子さんが茹でてくれた冷やし蕎麦である。

 わさびや新鮮なネギ、その他薬味を好みで入れていただく。


「死、死ぬかとおもったぁ」

「全くだ……。授業でやったはずなのに、全く頭にはいってねえよ……」

「今回は範囲狭いから、二項定理までやれば大丈夫だよ。飯終わったらそれやっつけて、次は英語で最後は古文ね」

「「ひい」」


 さて、生徒側は地獄の苦しみを味わいながら、テスト勉強をするわけだが。

 教師側が真摯に勉学のことだけを考えていたかというと……別にそういうことはない。


 楓はじっと、悶え苦しむ上田を見て、胸を痛めている。

 ごめんなさい、上田くん。あなたを苦しませたくはない。だけれど、学力が離れすぎてしまえばいつか二人の道も離れてしまう。こうしてあなたを引き上げるため、私は全力を尽くして教えるわ。ずっと一緒にいたいから、私はあなたのために鬼になる!

 とか、いじらしいことを考えつつ、ちょっと自分に酔っている


 対する郁己は、悶える勇太可愛いなあ。今日はTシャツ一枚だからブラとか透けててエロいなあ。こいつ男だったのにこんなけしからん体になりやがって、まったくけしからん、もっと育て。勇太はわしが育てた! なんつってな。

 とか、平常運転である。

 この男、口に出す言葉や行動と思考を乖離させる事を苦でなくやってのける。

 そういう場合、脳内は大体エロスに満ちている。

 一見すると、郁己は冷徹な講師であった。

 その目が勇太の乳尻太ももおへそに注がれている事に気づく者はいない。


 最後の古文に取り掛かる前に、気分転換タイムである。

 この日、金城家の道場は夕方の稽古前だったが、ある程度自由に入門者が活用できるよう、門戸が開かれていた。

 上田と楓は道着と袴を借り、体験入門である。

 頭を動かしたあとは、体を動かすと良い。

 二人は律子さんに教えてもらいながら、基本の仕草や移動、ストレッチ、約束稽古などを一通りやってみる。

 激しい運動でなくても、全身を動かせばじんわりと汗もかいてくる。

 初夏の日差しが暑いくらいだったが、道場は風が吹き抜けてなんとなく涼しい。

 い草の香りが漂っていた。一方。


「ほぎゃあ」


 郁己がスパルタ講義のお返しとばかりに、勇太に投げられていた。

 明日から期末テストである。

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